274: 植物ホルモン受容体DWARF14(Phytohormone Receptor DWARF14)

著者: David S. Goodsell 翻訳: 工藤 高裕(PDBj)

活性化したD14とMAX2タンパク質およびSKP1タンパク質との複合体。なお、生物によってこれらのタンパク質の名称は異なるので、このPDBエントリーでは、MAX2型のタンパク質をD3、SKP1型のタンパク質をSKP1AまたはASK1と呼んでいる。
活性化したD14とMAX2タンパク質およびSKP1タンパク質との複合体。なお、生物によってこれらのタンパク質の名称は異なるので、このPDBエントリーでは、MAX2型のタンパク質をD3、SKP1型のタンパク質をSKP1AまたはASK1と呼んでいる。 高解像度TIFF画像はこちら

多くのホルモンは、細胞表面の受容体に結合することでその信号を伝え、細胞内で一連の信号伝達酵素を発動させる。身近な例として、インスリン(insulin)やグルカゴン(glucagon)といった、血糖値を調節するホルモンがある。エストロゲン(estrogen)やテストステロン(testosterone)などのステロイドホルモンは、細胞内を移動して受容体タンパク質と結合し、これがDNAと結合して遺伝子発現を調節する。植物が利用する植物ホルモンの中には、これらと作用する方法が全く異なるものがある。このような植物ホルモンは細胞内の酵素に結合し、ユビキチン/プロテアソーム(ubiquitin/proteasome system)を活性化させ、成長に関わる重要なタンパク質を破壊するという方法で制御している。

植物ホルモンが活動する様子

ストリゴラクトン(strigolactone)は、植物細胞内でカロテノイドから合成される低分子化合物である。この受容体は、DWARF14(略してD14)と呼ばれているが、この名がついたのは、この遺伝子に変異があると枝分かれの多い小さな植物ができるためである。D14はストリゴラクトンをバラバラに分解する酵素である。分解の過程で、1つの断片が酵素に付着したままとなり、酵素の働きは阻害されるが、受容体としては活性化する(以下の対話的操作のできる図参照)。そして、活性化されたD14はMAX2タンパク質に結合し、MAX2タンパク質はユビキチン化装置のサブユニットであるSKP1に結合する。最終的には、これが活性化されたユビキチン化複合体(ubiquitination complex)を作り、関連する制御タンパク質の分解を進めることになる。

D14が活動する様子

PDBエントリー5hzgは、ストリゴラクトンが結合・切断され、MAX2タンパク質とSKP1タンパク質が結合した後の過程をとらえている。この構造を見ると、ユビキチン化装置とその標的となるタンパク質が一緒になるように準備された大きな複合体ができていることがわかる。また、D14は一発勝負の酵素なのかもしれない。ストリゴラクトン分子を切断し、この複合体を構築してしまうと、もはや酵素としての効果はなく、信号を伝え終わった後はそれ自体が分解されてしまうのだろう。

灰から立ち上がる

カリキンは、図左に示すように植物ホルモンであるストリゴラクトンの一部と化学的に似ていて、図右に示すKAI2と結合する。
カリキンは、図左に示すように植物ホルモンであるストリゴラクトンの一部と化学的に似ていて、図右に示すKAI2と結合する。 高解像度TIFF画像はこちら

森林火災の際に発生する化合物も、ストリゴラクトンと同じように植物成長調整剤として作用する。カリキン(karrikin)は、セルロースや糖が燃焼することで生成され、煙の粒子となって地上に落下する。その後、雨で土に流され、埋もれた種子に入り込み、KAI2という受容体に結合する。この受容体は、種子の発芽を制御する働きがあるため、焼け野原になった後にカリキンが結合することで、新しい植物の芽生えを促すことができる。図に示すように、カリキンはより大きなストリゴラクトン植物ホルモンの一端に似ていて、最後に受容体と共有結合する部分を模倣している。 ここに示すKAI2はPDBエントリー4jymの構造で、D14に非常によく似ている。

構造をみる

D14の構造

表示方式: 静止画像

対話的操作のできるページに切り替えるには図の下のボタンをクリックしてください。読み込みが始まらない時は図をクリックしてみてください。

D14は、セリン-ヒスチジン-アスパラギン酸(serine-histidine-aspartate)という、セリンプロテアーゼ(serine protease)に見られる古典的な触媒三残基を使って切断反応を行なっている。この過程のいくつかの段階における構造が決定されている。ここに示す対話的操作のできる図には3つの構造が含まれている。PDBエントリー3w04(静止画像には示していない)は酵素のみ、PDBエントリー5dj5は植物ホルモンが活性部位に結合したもの、PDBエントリー4ihaは植物ホルモンが切断され、その一部が酵素中のセリンと共有結合した構造をとらえたものである。図の下のボタンをクリックして対話的操作のできる図に切り替え、これらの構造をより詳しく見てみて欲しい。

理解を深めるためのトピックス

  1. PDBjの化合物ページで、ストリゴラクトンカリキンについてより詳しい情報を得ることができます。
  2. PDBに登録されている構造は常に批判的な視点で見る必要があります。例えば、対話的操作のできる画像で示しているPDBエントリー5dj5(PDBjRCSB PDB)に含まれるリガンドは弱い電子密度しか持っていません。RCSBの構造要約ページ(Structure Summary)に示している「Ligand Structure Quality Assessment」は、各構造の品質を評価するのに役に立ちます。
  3. RCSB PDBのPairwise Structure Alignment Toolを使うと、D14の構造とKAI2の構造を1対1で重ね合わせて比較することができます。例えば、PDBエントリー5dj5と4jymとの重ね合わせ結果を見てみてください。

参考文献

  1. De Cuyper, C., Struk, S., Braen, L., Gevaert, K., De Jaeger, G., Goormachtig, S. 2017 Strigolactones, karrikins and beyond. Plant, Cell and Environment 40 1691-1703
  2. Morffy, N., Faure, L., Nelsen, D.C. 2016 Smoke and hormone mirrors: Action and evolution of karrikin and strigolactone signaling. Trends Genetics 32 176-188
  3. 5hzg Yao, R., Ming, Z., Yan, L., Li, S., Wang, F., Ma, S., Yu, C., Yang, M., Chen, L., Chen, L., Li, Y., Yan, C., Miao, D., Sun, Z., Yan, J., Sun, Y., Wang, L., Chu, J., Fan, S., He, W., Deng, H., Nan, F., Li, J., Rao, Z., Lou, Z., Xie, D. 2016 DWARF14 is a non-canonical hormone receptor for strigolactone. Nature 536 469-473
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  7. 4iha Zhao, L.H., Zhou, X.E., Wu, Z.S., Yi, W., Xu, Y., Li, S., Xu, T.H., Liu, Y., Chen, R.Z., Kovach, A., Kang, Y., Hou, L., He, Y., Xie, C., Song, W., Zhong, D., Xu, Y., Wang, Y., Li, J., Zhang, C., Melcher, K., Xu, H.E. 2013 Crystal structures of two phytohormone signal-transducing alpha / beta hydrolases: karrikin-signaling KAI2 and strigolactone-signaling DWARF14. Cell Res 23 436-439

この記事はRCSB PDBPDB-101で提供されている「Molecule of the Month」の2022年10月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧ください。

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