166: プロテアソーム(Proteasome)
プロテアソーム(proteasome)は細胞のタンパク質をリサイクルして再利用できるようにする。タンパク質は損傷を受けたり、侵入してくるウイルスの一部であったり、単にもう必要なくなったり、といった様々な理由により壊す必要が出てくる。壊す時、細胞内の環境で対象となるタンパク質だけを安全に分解できるようきちんと管理された方法を提供してくれるのがプロテアソームで、不要となったり、損傷を受けたりしたタンパク質を、アミノ酸長が2個から25個程度の短い断片へと分断する。この断片はその後、細胞内にあるペプチダーゼ(peptidase、ペプチド分解酵素)によってアミノ酸へと完全に分解される。
タンパク質破壊エンジン
この分解作業はタンパク質に取り囲まれた細胞内で行われるため、タンパク質を切断できるプロテアソームが対象外のタンパク質まで切ってしまわないよう注意深く制御されている。そのため活性部位は、筒状の「中心」(core)部分(図の黄色と赤で示す部分)の奥深くにしまい込まれている。私たちの細胞では、この中心部分に3種類のプロテアーゼ(protease タンパク質分解酵素、赤色の部分)があり、それぞれ異なるアミノ酸配列を対象としている。中心部分の両端にはATPのエネルギーで駆動するエンジン(赤紫色の部分)があり、これが折りたたまれたタンパク質をほどいて中心部分に送り込む。その横には制御を行うサブユニットの大きな集合体(青色の部分)があって、ユビキチン(ubiquitin)の印が付いた分解対象タンパク質を認識し、分解待ちの行列に加える。
プロテアソームの全体を見渡す
プロテアソーム丸ごと全体を結晶化することは今のところ実現できていないが、中心部分については多くの結晶構造が得られている。例えば、最初に得られた構造であるPDBエントリー 1pma(図示はしていない)からは、「真ん中にタンパク質を分解する部分があって、その両端を入口となる部分がはさんでいる」という詳細構造が原子レベルで明らかになった。ここに図示するのは完全なプロテアソームの構造(PDBエントリー 4b4t )で、電子顕微鏡による2400万枚の画像を解析して得られた原子レベルに近い構造に、3種類の部分的な結晶構造を当てはめ、情報を統合することによってできたものである。またクライオ電子顕微鏡(cryo-EM、低温電子顕微鏡)で復元した構造は、EMデータバンクエントリー [[EMDB:2165]] でみることができる。
別の帽子をかぶる
中心部分の両側にある「帽子」のような制御サブユニットについてはいくつかのタイプがあり、多くの細胞はより簡易な型も作っている。この簡易型の場合、破壊対象タンパク質を中心部へ送り込むのにATPのエネルギーを必要としない。この流線型をしたプロテアソームの機能はまだ完全には分かっていないが、特に普段からほどけた状態になっている短いペプチドやタンパク質を対象としているようである。ここにこの例を2つ示す(PDBエントリー 1fnt、3l5q)。
構造をみる
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私たちの細胞は、仕事の種類ごとに特化したプロテアソームも作っている。ここに示すPDBエントリー 3unf はその一例で、免疫反応(immune response)の際用いられる。細胞がウイルスに感染すると、このプロテアソームはウイルスタンパク質を切断し、免疫機構で起こっている問題を警告する役割を担う主要組織適合性複合体(major histocompatibility complex、MHC)がその断片を細胞表面に提示する。この免疫機構に特化したプロテアソームは、免疫プロテアソーム(immunoproteasome)と呼ばれ、免疫反応中に呼び出されて切断を実行する。これは通常のプロテアソームと似ているが、中心部分が別の触媒サブユニット3種と入れ替わっている。この3つのサブユニットのうちの一つが疎水性アミノ酸の隣で鎖を切断し、特にMHCによくくっつくペプチドが作られる。この図は3つのサブユニットが作る環の一つを示したもので、阻害剤(青緑色の部分)が3つのサブユニットそれぞれに結合している。免疫プロテアソームの中心部分をより詳しくみるため、図の下のボタンをクリックして対話的操作のできる画像に切り替えてみて欲しい。
理解を深めるためのトピックス
- HslVU、ClpP、三角型プロテアソーム、DegPなどタンパク質を切断する機械分子は他にもいくつかPDBに登録されています。
- プロテアソームの組み立てを監督するのに必要なタンパク質がいくつかあります。「プロテアソーム 集合」(proteasome assembly)で検索するとそのような分子の構造をみることができるでしょう。
- 私たちのものと同じ形をしているものの、中心のサブユニットが2つしかない、より単純な構造を持ったプロテアソームを作る古細菌(archaea)がいます。その一例をPDBエントリー 1pma でみることができます。
参考文献
- 2013 Structural biology of the proteasome. Annual Review of Biophysics 42 29-49 10.1146/annurev-biophys-083012-130417
- 4b4t 2012 Near-atomic resolution structural model of the yeast 26S proteasome. Proceedings of the National Academy of Science USA 109 14870-14875 10.1073/pnas.1213333109
- 3unf 2012 Immuno- and constitutive proteasome crystal structures reveal differences in substrate and inhibitor specificity. Cell 148 727-738 10.1016/j.cell.2011.12.030
- 3l5q 2010 Structure of a Blm10 complex reveals common mechanisms for proteasome binding and gate opening. Molecular Cell 37 728-735 10.1016/j.molcel.2010.02.002
- 2007 Functions of the proteasome: from protein degradation and immune surveillance to cancer therapy. Biochemical Society Transactions 35 12-17 10.1042/BST0350012
- 1fnt 2000 Structural basis for the activation of 20S proteasomes by 11S regulators. Nature 408 115-120 10.1038/35040607
代表的な構造
- 4b4t: プロテアソーム
- プロテアソームは細胞内で要らなくなったり、損傷を受けたりしたタンパク質を破壊する。この構造はプロテアソーム全体の半分だけを含む構造である。
- 1fnt: プロテアソーム
- プロテアソームは細胞内で要らなくなったり、損傷を受けたりしたタンパク質を破壊する。この構造の末端には11S活性化因子がある。
- 3l5q: プロテアソーム
- プロテアソームは細胞内で要らなくなったり、損傷を受けたりしたタンパク質を破壊する。この構造の末端にはBlm10活性化因子がある。
- 3unf: 免疫プロテアソームの中心部分
- 免疫プロテアソームはウイルスタンパク質を壊して小さな断片にし、それを主要組織適合性複合体が細胞表面に提示する。この構造は免疫プロテアソーム中心部分の構造である。