275: Arp2/3複合体によるアクチン分岐(Actin Branching by Arp2/3 Complex)

著者: David S. Goodsell 翻訳: 工藤 高裕(PDBj)

Arp2/3複合体(赤と黄)によって、2本のアクチンフィラメント(青)の間につくられた分岐。黄色で示したサブユニットがArp2とArp3である。
Arp2/3複合体(赤と黄)によって、2本のアクチンフィラメント(青)の間につくられた分岐。黄色で示したサブユニットがArp2とArp3である。 高解像度TIFF画像はこちら

私たちの細胞は、3種類の基本的なタンパク質フィラメントを中心とし複雑な細胞骨格をつくっている。微小管(microtubule)はダイニン(dynein)やキネシン(kinesin)の助けを借り、小胞や染色体全体を運ぶような重い荷物を運ぶ仕事をするのに使われる。中間径フィラメント(intermediate filament)は、核膜を支える頑丈なネットワークや、皮膚や毛髪で見られる大きな構造体など、より永続的な基盤をつくるときによく使われる頑丈な構造体である。一方、アクチン(actin)はより軽快で、必要に応じ構築され、解体される。アクチンのネットワークは、細胞の内部構造や全体的な形を制御するためによく使われる。

枝分かれ

Arp2/3複合体(Arp2/3 complex)は、アクチンフィラメントが細胞骨格に関するさまざまな仕事を行うときに、そのパターンを構築する作業を助ける。この複合体は、アクチン鎖(母鎖)に結合して新しい鎖(娘鎖)をつくるときの核になることで、アクチン細胞骨格に分岐をつくる働きをしている。2本の鎖の間には70度の角度がついた特徴的な形をしている。これは、多くのアクチンフィラメントがたくさんのArp2/3複合体でつながった樹状の構造体を構築するのに最適な形状なのである。

アクチンをまねる

Arp2/3複合体は、ここに示すPDBエントリー7tptの構造から、7つの異なるタンパク質からできた複合体であることがわかる。これらの鎖は集まり、母鎖の側面を抱きかかえるようにして、母鎖の所定の位置にくっついている。Arp2、Arp3と呼ばれる2つのタンパク質は、アクチンと非常によく似た構造をしている。後述する対話的操作のできる図で示すように、これらはフィラメント内にある2本のアクチン鎖と同じ様に並んでいて、娘フィラメントの出発点を提供している。

チームプレイヤー

プロフィリンとキャッピングタンパク質(赤紫色)は、アクチンフィラメント(青色)の成長を制御するのに役立つ。
プロフィリンとキャッピングタンパク質(赤紫色)は、アクチンフィラメント(青色)の成長を制御するのに役立つ。 高解像度TIFF画像はこちら

他にも多くのタンパク質が協力して、複雑なアクチン細胞骨格を管理し、結合を構築し、制御している。ここでは2つの例を示す。プロフィリン(profilin、PDBエントリー2btf)は、アクチンに結合し、フィラメント内で隣接する分子との相互作用をつくるのに関係するタンパク質の一部を阻害する。このタンパク質は、アクチン単量体を安定に供給し、必要に応じて新しいフィラメントをつくるのに使われる。キャッピングタンパク質(capping protein)は、その名の通り、アクチンフィラメントの一端に蓋をして、無制限に成長し続けることがないようにする。これは、PDBエントリー7pdzを見るとわかるように、フィラメントの末端を覆うタンパク質の二量体で構成されている。

構造をみる

アクチンの枝分かれ部分にあるArp2/3複合体

表示方式: 静止画像

対話的操作のできるページに切り替えるには図の下のボタンをクリックしてください。読み込みが始まらない時は図をクリックしてみてください。

PDBエントリー7tptには、Arp2/3複合体と、母娘アクチン鎖の短い断片が含まれている。これにより、タンパク質間の相互作用を詳細に観察することができる。ここでは、Arp3と娘フィラメント中にある最初のアクチンとの間の相互作用を示す。この2つのタンパク質は、ATPの結合部位も含め、非常によく似た形をしていることに注目して欲しい。また、画像の下のボタンを押して対話的操作のできる画像に切り替え、構造全体やArp2との相互作用を調べてみて欲しい。

理解を深めるためのトピックス

  1. RCSB PDBのStructure Alignment Toolを使うと、Arp3、Arp2、アクチンの構造をより詳しく比較することができます。
  2. PDBアーカイブには、この他にもアクチン細胞骨格に関する構造がたくさん登録されています。PDBjメインサイトで、フォルミン(formin)、コフィリン(cofilin)、アクチニン(actinin)、そしてもちろんモータータンパク質のミオシン(myosin)でも検索してみてください。

参考文献

  1. 7tpt Ding, B., Narvaez-Ortiz, H.Y., Singh, Y., Hocky, G.M., Chowdhury, S., Nolen, B.J. 2022 Structure of Arp2/3 complex at a branched actin filament junction resolved by single-particle cryo-electron microscopy. Proc Natl Acad Sci U S A 119 e2202723119-e2202723119
  2. 7pdz Funk, J., Merino, F., Schaks, M., Rottner, K., Raunser, S., Bieling, P. 2021 A barbed end interference mechanism reveals how capping protein promotes nucleation in branched actin networks. Nat Commun 12 5329-5329
  3. Merino, F., Pospich, S., Rausner, S. 2020 Towards a structural understanding of the remodeling of the actin cytoskeleton. Sem Cell Develop Biol 102 51-64
  4. Pollard, T.D. 2016 Actin and actin-binding proteins. Cold Spring Harbor Perspect Biol 8 a018226
  5. 2btf Schutt, C.E., Myslik, J.C., Rozycki, M.D., Goonesekere, N.C., Lindberg, U. 1993 The structure of crystalline profilin-beta-actin. Nature 365 810-816

この記事はRCSB PDBPDB-101で提供されている「Molecule of the Month」の2022年11月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧ください。

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