301: 組立ラインポリケチド合成酵素()

著者: Janet Iwasa 翻訳: 工藤 高裕(PDBj)

組立ラインポリケチド合成酵素の一つLsd14(PDB 7s6b)。右側に示すアシル輸送タンパク質は構造データからは欠落している。また、柔軟なリンカーを介してケト還元酵素ドメインに結合している。
組立ラインポリケチド合成酵素の一つLsd14(PDB 7s6b)。右側に示すアシル輸送タンパク質は構造データからは欠落している。また、柔軟なリンカーを介してケト還元酵素ドメインに結合している。 高解像度TIFF画像はこちら

ポリケチド合成酵素(PolyKetide Synthase、PKS)は、細菌、菌類、植物など様々な生物に存在し、多様な生理活性天然化合物の生産を担っている。医学的に重要なポリケチドの例としては、抗生物質(エリスロマイシン erythromycin、テトラサイクリン tetracycline)、免疫抑制剤(ラパマイシン rapamycin)、がん治療薬(エポチロン epothilone、ドキソルビシン doxorubicin)、抗真菌薬(アムホテリシンB amphotericin B、アベルメクチン avermectin)などが挙げられる。

モジュール式メガ酵素

いくつかのPKSは特に大きな複合体となっており、いくつかの部品から構成されている。各構成部品は様々な酵素ドメインからできており、それぞれが特定のポリケチドの合成において役割を果たす。PKSに通常見られるドメインには、合成中のポリケチドを異なるドメイン間で輸送するアシル輸送タンパク質(Acyl Carrier Protein、ACP)、伸長単位であるアシル-CoA分子をACPに結合させるアシル基転移酵素(AcylTransferase、AT)、縮合反応によってポリケチド鎖の伸長を触媒するケト合成酵素(KetoSynthase、KS)ドメインなどがある。また、ケト還元酵素(KetoReductase、KR)ドメインなどの追加ドメインは、成長するポリケチドをさらに修飾することができる。これらの異なるドメインは、細菌Streptomyces lasalocidiによる抗生物質ラサロシドA(lasalocid A、PDB 7s6b)の合成に関係するPKSモジュールLsd14で見ることができる。

開いた状態(PDB 7m7f)では、1つのACPがDEBS M1のケトシンターゼ(KS)ドメインに結合しているのが見える。閉じた状態(PDB 7m7j)では、ACPドメインが立体的にブロックされてKS部位に結合できなくなっている。
開いた状態(PDB 7m7f)では、1つのACPがDEBS M1のケトシンターゼ(KS)ドメインに結合しているのが見える。閉じた状態(PDB 7m7j)では、ACPドメインが立体的にブロックされてKS部位に結合できなくなっている。 高解像度TIFF画像はこちら

組立ラインの作業員

Lsd14は、組立ラインPKSと呼ばれるポリケチド合成酵素の一種である。このように大きな複合体の場合、成長するポリケチド鎖は、各モジュールが持つそれぞれの酵素ドメインによって正確に一度ずつ順番に処理されていく。ポリケチドの一端を保持し、それを次のドメインやモジュールに届けるために別の位置へと移動するACPドメインは、この緊密に連携した複合体において中心的な役割を果たす。

秩序の維持

Lsd14や左図に示す6-デオキシエリスロノライド合成酵素(6-deoxyerythronolide synthase、DEBS M1)のモジュールを含む、さまざまな組立ラインPKSモジュールに関する最近分かった構造から、モジュール内のドメインがどのように空間配置されているかが明らかになった。これらの構造から、別々の「反応室」を2つ持った予想外の非対称二量体構造が明らかになった。この非対称性(DEBS M1の開いた状態、PDB 7m7f、や上記のLsd14の構造で見られる)は、PKSが一度に使えるのは片側または一方の反応室だけであることを示唆しており、同じモジュールがポリケチドの伸長を重複して行うのを防いでいると考えられている。PKSモジュール内の構造変化もまた、合成が正しい順序で行われることを保証しているのかもしれない。DEBS M1では、KSドメインにおける縮合反応が引き金となって起こると考えられるATドメインの構造変換により、モジュールが「閉じた」状態(PDB 7m7j)となり、ACPがKSに再結合するのをブロックしている。同様に、Lsd14では、異なる配置状態が特定の触媒部位をブロックすることが分かっており、ACPが酵素ドメインに誤った順序で結合するのを防いでいるとも考えられている。

作用するポリケチド合成

このアニメーションで左に示すのは、Streptomyces venezuelae(EMDB 5647-5653)由来のピクロマイシン(pikromycin)PKSモジュール5(PikAIII)で、ジョージアス・スキニオティス(Georgios Skiniotis)氏との共同研究により作成したものである。前述のLsd14やDEBSとは異なり、PikAIIIは対称的な構造を持ち、両方の反応室で同時に反応を触媒できると考えられている。アニメーションの最初の部分では、ACPモジュールが一連のモジュールを通してポリケチド鎖(光っている点で示す)をどのように運び、送り出すかを示している。アニメーションの第2部では、1つのモジュールに注目し、ATとKSの作用によってポリケチドが段階的に成長する様子を描いている。

構造をみる

違った場所での結合

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ポリケチドは伸長していく際、アシル輸送タンパク質によって保持されるが、このアシル輸送タンパク質は、異なるタイミングで異なる酵素部位を認識し、結合しなければならない。Lsd14と他のPKSに関する研究は、ACPが別の場所を介してケト合成酵素(水色、PDB 7s6c)に結合する方法に加え、ACP(ピンク色)がアシル基転移酵素(左側分子の緑色部分、PDB 7s6b)に結合する方法についても示してくれている。

理解を深めるためのトピックス

  1. PKSタンパク質は、脂肪酸合成酵素(fatty acid synthase)を含む大きなタンパク質グループ(スーパーファミリー)の一員である。PKSと同様に、脂肪酸合成酵素も部品組み立て方式で働き、成長する分子鎖をある酵素から別の酵素へと運ぶためにACPを用いる。それについて詳しくは こちらを参照して欲しい。.

参考文献

  1. 7s6b, 7s6c Bagde, S.R., Mathews, I.I., Fromme, J.C., Kim, C.Y. 2021 Modular polyketide synthase contains two reaction chambers that operate asynchronously. Science 374 723-729
  2. 7m7f, 7m7j Cogan, D.P., Zhang, K., Li, X., Li, S., Pintilie, G.D., Roh, S.H., Craik, C.S., Chiu, W., Khosla, C. 2021 Mapping the catalytic conformations of an assembly-line polyketide synthase module. Science 374 729-734
  3. Soohoo AM, Cogan DP, Brodsky KL, Khosla C. 2024 Structure and Mechanisms of Assembly-Line Polyketide Synthases. Annu Rev Biochem. Aug;93(1) 471-498
  4. Grininger M. 2023 Enzymology of assembly line synthesis by modular polyketide synthases. Nat Chem Biol. Apr;19(4) 401-415
  5. Bagde SR, Kim CY. 2024 Architecture of full-length type I modular polyketide synthases revealed by X-ray crystallography, cryo-electron microscopy, and AlphaFold2. Nat Prod Rep. Mar 19
  6. Dutta S, Whicher JR, Hansen DA, Hale WA, Chemler JA, Congdon GR, Narayan AR, Håkansson K, Sherman DH, Smith JL, Skiniotis G. 2014 Structure of a modular polyketide synthase. Nature. Jun 26;510(7506) 512-517
  7. Whicher JR, Dutta S, Hansen DA, Hale WA, Chemler JA, Dosey AM, Narayan AR, Håkansson K, Sherman DH, Smith JL, Skiniotis G. 2014 Structural rearrangements of a polyketide synthase module during its catalytic cycle. Nature Jun 26;510(7506) 560-564

この記事はRCSB PDBPDB-101で提供されている「Molecule of the Month」の2025年1月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧ください。

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