313: 天然RNAだけでできた集合体(Natural RNA-Only Assemblies)
分子生物学のセントラルドグマにおいて、RNAは核内にあるDNAと細胞質内にあるタンパク質構築機構との間で情報を伝える重要な役割を果たしている。しかし、ヒトの場合、転写されたRNAのうちタンパク質をコードするのはわずか1~2%で、大部分のRNAは翻訳されないか、またはタンパク質をコードしていない。この非コードRNAは、転写調節、スプライシング、翻訳など、さまざまな基本的で細胞内にて行われる反応過程において重要な役割を果たすことがわかっている。これらのRNAは、その機能にとって非常に重要な複雑な二次構造や三次構造を形成することがよくある。たとえば、リボソームRNA(ribosomal RNA、rRNA)は、リボソームの酵素コアを形成する長くて構造化された非コードRNAである。多くの場合、リボソーム内などで、RNAとタンパク質は一緒に集まって生物学的な仕事を行う。
複雑なRNA構造
興味深い生物学的機能を持っていると考えられる新しいクラスの非コードRNAはどのようにして特定することができるだろうか? 計算生物学者は比較ゲノムアプローチを使って、さまざまな生物種に共通して存在し顕著な二次構造を持つと予想される配列を発見してきた。イェール大学(Yale University)のブレーカー(Breaker)研究室の研究者たちはこの戦略を使用して、細菌やバクテリオファージのゲノムから新しいクラスの非コードRNAを発見した。発見されたRNAの中には、グラム陽性の極限環境細菌に由来する、異常に大きく高度に構造化されたRNAのクラスがあった。これらは、装飾的な大型極限環境細菌(Ornate Large Extremophilic、OLE)RNAと命名された。同様のアプローチを使用して、牛の胃に生息する細菌集団からはROOL(Rumen-Originating, Ornate, Large)RNAが、パナマのガトゥン湖(Lake Gatun)で採取された細菌サンプルからはGOLLD(Giant, Ornate, Lake- and Lactobacillales-Derived)RNAが特定された。
最近、クライオ電子顕微鏡法を用いたいくつかの構造研究により、これらのRNAが複雑で秩序だった構造を形成することが示されている。細菌の一種クロストリジウム・アセトブチリクム(Clostridium acetbutylicum、pdb_00009mcw)やボツリヌス菌(Clostridium botulinum、pdb_00009lcr)に由来するOLE RNAは、2回対称の対称性を持つコンパクトな二量体(図の右側にピンク色で表示)に折り畳まれる。構造の大部分は、棒状の密集した束のように見える二本鎖らせん群で構成されている。
興味深いことに、ROOL RNAとGOLLD RNAは中空になった籠のような構造をつくることができる。一部のROOL RNA(右図の青/紫で表示している構造)は主に八量体の籠(pdb_00009mds)をつくることが観察されたが、一方で別のROOL RNAは六量体の複合体(pdb_00009j6y、pdb_00009m78)を形成した。GOLLD RNA(下の図にて緑色で表示する構造)は、10個のRNA サブユニットで構築されている積み重ねられた星のような集合体(pdb_00009lee)や、12個(pdb_00009l0r)または14個のRNA サブユニット(pdb_00009mee)で構成された中空の籠型構造など、さまざまな形状をとることも観察された。
仮定の機能
これらのRNAだけでつくられた構造が生物学的に意義があるということは、2つの重要な証拠によって裏付けられている。まず、OLE、ROOL、およびGOLLD RNAの一次配列は種によって異なるものの、分子間境界面と構造モチーフが保存されていることが挙げられる。進化の時間スケールにおいてこれらの構造が維持されていることは、これらのRNAが生物学的に重要な機能を担っていることを示していると言える。また、生体内における一般的な濃度においてRNAの安定した多量体が形成されることから、細胞内においてRNAだけでできたより高次な構造が容易に形成されることが示唆される。
しかしながら、RNAのみからなる巨大な構造体の正確な役割については、現在のところ推測の域を出ない。ROOL複合体とGOLLD複合体が持つ中空の籠のような構造から、これらの複合体が細胞内で構造的な足場として機能し、細胞成分を隔離または区画化するのに役立っているのかもしれないと考えられている。OLE RNAは、複数の異なるタンパク質パートナーと結合し、ストレス応答や代謝調節など、極限環境細菌における様々な過程に関与することが知られている。しかしながら、OLEとその結合相手となるタンパク質がこれらの機能をどのように果たすのかは、まだ分かっていない。
構造をみる
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OLE RNA(pdb_00009lcr)、ROOL RNA(pdb_00009mds)、GOLLD RNA(pdb_00009mee) によってつくられた、RNAのみによる複雑な構造を詳しく見てみて欲しい。
理解を深めるためのトピックス
- 自己スプライシングRNAについて学んでみよう。
- リボソームとスプライソソームは巨大な複合体で、遺伝子をコードせず酵素的な働きをするRNAが中心にある。
参考文献
- pdb_00009lcr, pdb_00009l0r, pdb_00009j6y 2025 May Cryo-EM reveals mechanisms of natural RNA multivalency. Science 388 6746 545-550
- pdb_00009mds, pdb_00009mee 2025 Jul Naturally ornate RNA-only complexes revealed by cryo-EM. Nature 643 8073 1135-1142
- pdb_00009lee 2025 Oct Structural insights into higher-order natural RNA-only multimers. Nat Struct Mol Biol. 32 10 2012-2021
- 2009 Dec 3 Exceptional structured noncoding RNAs revealed by bacterial metagenome analysis. Nature 462 7273 656-659
- 2017 Oct 13 Detection of 224 candidate structured RNAs by comparative analysis of specific subsets of intergenic regions. Nucleic Acids Res. 45 18 10811-10823
- 2025 Aug Cryo-EM structure of a natural RNA nanocage. Nature. 644 8078 1107-1115 DOI:10.1038/s41586-025-09262-x
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