312: FOXP3
免疫系は微妙なバランスを保っている。病原菌からウイルスまで、多種多様な外来侵入者から体を守らなければならないが、同時に自己寛容(self-tolerance)と呼ばれる過程を介し、自身の細胞や分子を攻撃しないように抑制しておかなければならない。この免疫バランスに不可欠なのが、制御性T細胞(regulatory T cell、Treg)と呼ばれる細胞である。これは自己反応性の白血球を抑制し、他の様々な免疫細胞の免疫反応を調整することで、免疫系の見張り番として機能する。制御性T細胞がなければ、免疫系は自身の組織や臓器を攻撃し、病気や慢性炎症を引き起こす可能性がある。制御性T細胞に関する発見により、メアリー・ブランコウ(Mary Brunkow)、フレッド・ラムズデル(Fred Ramsdell)、そして坂口志文(訳注:所属はPDBjがある大阪大学)は2025年のノーベル生理学・医学賞を受賞した。
転写ネットワークを統括するもの
制御性T細胞の発達と機能は、転写因子のフォークヘッドボックスタンパク質 P3(Forkhead box protein P3、FOXP3) によって制御されている。これは、多数の遺伝子の発現を制御すると考えられている重要な転写制御因子である。
フォークヘッドボックスは転写因子ファミリーの一つで、このファミリーのタンパク質はいずれも共通してフォークヘッドボックスドメインと呼ばれるタンパク質モチーフを持っている。FOXP3はこのフォークヘッドボックスの一種である。そしてフォークヘッドボックスは、リンカーヒストンH5と構造的に似た方法でDNAに結合することが分かっている。右図に示すように、FOXP3のフォークヘッドボックスドメインは、頭同士を突き合わせた二量体(PDB 7TDW、7TDX)や2本のDNA鎖を架橋できるドメイン交換二量体(PDB 3QRF)など、複数の方法でDNAに結合することが示されている。FOXP3には、ジンクフィンガードメイン(zinc finger domain)やロイシンジッパードメイン(leucine zipper domain)といった図に示していないドメインが他にもあって、ドメイン間の結合やさまざまな調節パートナーとの結合に重要な役割を果たしている。
長距離クロマチン組織化の制御
生化学的研究により、FOXP3は様々な結合パートナーと相互作用し、数百の因子からなる大きな複合体を形成することが明らかになった。これらの因子には、メチル基転移酵素や脱アセチル化酵素など、エピジェネティックリモデリング(epigenetic remodeling、遺伝子配列を変化させずDNAの化学修飾などによって行われる遺伝子発現制御)に関する追加の転写因子やタンパク質が含まれる。FOXP3複合体の構成は動的であり、信号伝達や環境からの刺激に応じて変化することが示されている。
最近の構造研究により、FOXP3を含む巨大な複合体がどのように形成されるのかが解明されつつある。FOXP3のコピーが複数集まり、マイクロサテライトDNA(microsatellite DNA)と呼ばれるDNAの繰り返し配列に結合して、長い多量体をつくることができる。その後、FOXP3多量体は、フォークヘッドドメインを介して様々な方法で互いに会合し、複数のDNA鎖をまとめる非常に安定した高次多量体を形成する(左図、PDB 9D2L 参照)。研究者らは、これらの大きく柔軟なFOXP3を介したDNAブリッジが、ゲノム中に散在する数千の遺伝子部位におけるクロマチンループの安定化に重要な役割を果たし、それによって制御性T細胞における転写を全体的に形作っているのではないかと考えている。
IPEX:深刻な病気
FOXP3の欠損や機能不全は、IPEX症候群(Immune dysregulation, Polyendocrinopathy, Enteropathy, X-linked syndrome、免疫調節異常、多腺性内分泌障害、腸管疾患、X連鎖性症候群)と呼ばれる疾患を引き起こす。IPEXは、全身の臓器に影響を及ぼす一連の自己免疫疾患として発症し、その症状は深刻でしばしば致命的となる疾患である。70種類以上のFOXP3変異がIPEXの原因となる可能性がある。これらの変異の多くはフォークヘッドボックスドメインに存在し、FOXP3の安定性そしてDNAやタンパク質との結合に影響を与える。
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図の下のボタンをクリックして対話的操作のできる画像に切り替えると、IPEX症候群を引き起こす可能性のある FOXP3 フォークヘッドボックスドメイン(PDB 7TDW)の変異を詳しく調べることができる。
理解を深めるためのトピックス
- FOXP3はフォークヘッドボックスドメインだけではなく、ジンクフィンガードメインも持っている。その他のタンパク質について詳しくはリンク先ページを参照のこと。
- Oct・Soxなどの他の転写因子、そしてエストロゲン受容体(estrogen receptor)、糖質コルチコイド受容体(glucocorticoid receptor)、ビタミンD受容体(vitamin D receptor)などの核受容体に関する記事も読んでみて欲しい。
- 自然免疫防御にも関与するタンパク質、インターフェロン(interferon)についても読んでみよう。
- 他のノーベル賞受賞に関わるPDB登録構造についても学んでみて欲しい。
参考文献
- 7TDW, 7TDX 2022 Aug 9 The transcription factor FoxP3 can fold into two dimerization states with divergent implications for regulatory T cell function and immune homeostasis. Immunity 55 8 1354-1369.e8
- 3QRF 2011 Apr 22 Structure of a domain-swapped FOXP3 dimer on DNA and its function in regulatory T cells. Immunity 34 4 479-91 Erratum in: Immunity. 2011 Apr 22;34(4):627
- 9D2L 2025 Apr 17 Ultrastable and versatile multimeric ensembles of FoxP3 on microsatellites. Mol. Cell 85 8 1509-1524.e7
- 2023 Dec FOXP3 recognizes microsatellites and bridges DNA through multimerization. Nature 624 7991 433-441
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