314: 生命の樹におけるヒストン(Histones Across the Tree of Life)
これまで知られている地球上の細胞生物はすべて、遺伝情報を長いDNA鎖として保存している。細胞内に収まるようにするため、DNA鎖は密に詰め込まれている必要がある。例えば、ヒト細胞では約2メートルのゲノムDNAが、直径約6マイクロメートルの核に収まるように凝縮されている。この驚異的な密度は、主にヒストン(histone)と呼ばれるタンパク質の働きによって実現されている。すべての真核生物において、ゲノムDNAはヒストンに巻き付いており、ヌクレオソーム(nucleosome)と呼ばれる構造をつくっている。ヌクレオソームは互いに、そして他のタンパク質と相互作用して高次のクロマチン構造を形成し、核内でDNAを密に詰め込むことができるようにしている。
生命の進化系統樹は、真核生物(eukaryote、膜で囲まれた核を持つ生物。すべての植物、動物、菌類を含むグループ)、古細菌(archaea、過酷な環境で繁殖していることが多い単細胞の原核生物)、そして細菌(bacteria、普遍的に存在する単細胞の原核生物)という3つの主要な枝で構成されている。これらの枝全てにおいて、分子レベルで生まれた新機能が多数共有されているが、ヒストンについては長い間、真核生物系統に特有のものだと考えられてきた。しかし、最近の研究により、ヒストンはほとんどの古細菌と一部の細菌細胞にも存在することが示され、DNAを収納するしくみの解明に新たな光が当たるとともに、ヒストンの進化に関する新たな疑問も提起されている。
真核生物と古細菌のヒストン
真核生物には、4つのコアヒストン(H2A、H2B、H3、H4)があり、これらは2つのH2A-H2Bヘテロ2量体と2つのH3-H4ヘテロ2量体(右図にpdb_00001aoiの構造を緑色で示す)からなる8量体を形成する。ヌクレオソーム内では、正に帯電したヒストンが、負に帯電したDNA骨格と配列非特異的に多数の接触をつくる。すべての真核生物のヒストンは高い構造的保存性を示し、短いリンカーで連結された3つのαらせん(alpha helix)で構成されるヒストンフォールド(histone fold)と呼ばれるモチーフを共通して持っている。
構造研究により、一部の古細菌系統は真核生物のヒストンと非常によく似たヒストンをコードしていることが示されている。好熱性古細菌のMethanothermus fervidusに由来するヒストンは HMfA および HMfB と呼ばれ、標準的なヒストンフォールドを持っていて、真核生物のヒストンと非常によく似た方法で2量体化し、DNA と相互作用する(右図にオレンジ色で示す部分、pdb_00005t5kの構造)。しかし、重要な相違点も見られる。HMfA と HMfB は互いによく似た配列を持っており、構造的に同等なホモ2量体またはヘテロ2量体を容易に形成する。その結果、HMfA および HMfB 2量体は、分離した8量体ヌクレオソームを構築するのではなく、より多数のユニットが集合したハイパーヌクレオソームと呼ばれる長い超らせん状の集合体を形成する。 HMfAとHMfBは、真核生物ヒストンに見られるような長くて一定の構造を取らない尾部も欠いている。構造研究が完了した古細菌ヒストンはまだ限られているが、ゲノム解析から、古細菌ゲノムの大部分はヒストンタンパク質をコードしており、その配列は真核生物に見られるものよりもはるかに多様であることが示唆されている。そしてこの多様性は、今後の研究によって新たなヒストン-DNA複合体が明らかになり、真核生物ヒストンの進化に関する更なる知見が得られるであろうことを示唆している。
細菌のヒストン
驚くべきことに、細菌もヒストン(広義にはヒストンフォールドを含みDNAに結合するタンパク質)を持つことが最近になって明らかになった。研究者たちは、大規模な細菌ゲノムデータベースから予測されるヒストンフォールドタンパク質を検索した結果、土壌や水生環境に広く存在する細菌であるBdellovibrio bacteriovorusにおいて、Bd0055またはHBbと呼ばれるタンパク質を特定した。構造研究により、Bd0055は2つの異なる界面(図左列に紫色で示す部分)のいずれか一方を使ってDNAに結合できる2量体をつくることが示された。DNA結合は、両端(pdb_00008fw7およびpdb_00009ezz)または中央(pdb_00009f0e)のいずれかで起こり、どちらの結合モードでもDNAの曲がりはほとんど見られない。 Bd0055が細胞内においてどのように相互作用し、DNA構造に影響をおよぼすのかについて現時点ではまだ分かっていない。生化学やシミュレーションによる研究では、Bd00552量体が両方の結合面を同時に利用してDNAを曲げる可能性が示唆されているが、Bd0055が両端結合モードでDNAの周囲にタンパク質を多く含んだ覆いを形成する可能性も示唆されている。
最近のバイオインフォマティクス解析により、HLpなどを含む更なる細菌ヒストンが同定された。このHLpは、らせん状のグラム陰性細菌であるLeptospira perolatiiが発現するタンパク質で、ヒストンフォールドを含んでいる。構造研究により、HLpは少なくとも2種類の異なる方法でDNAに結合できる4量体を形成することが示されている(図右側にピンク色で示す部分、pdb_00009qt1とpdb_00009qt2の構造)。追加で行われた生体外での実験や計算上での実験により、DNAが真核生物のヌクレオソームと同様にHLp 4量体に巻き付くことが示唆されている。
細菌ヒストンの発見は興味深いものだが、細菌においてヒストンは稀なようだ。配列決定された細菌ゲノムのうち、ヒストンフォールドを持つタンパク質を含むのはわずか約2%と推定されている。細菌の多くは、ゲノムDNAを核様体(nucleoid)と呼ばれる細胞内の小さな領域に凝縮するために、様々な核様体関連タンパク質(nucleoid-associated protein、NAP)に依存している。ヒストンを発現することが確認されている細菌はNAPも発現しており、細菌ヒストンとNAPがどのように連携してDNAを制御しているのかについては今のところ分かっていない。
構造をみる
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アフリカツメガエル(Xenopus laevis)に由来するヌクレオソーム(pdb_00001aoi)、古細菌Methanothermus fervidusに由来するハイパーヌクレオソームの一部(pdb_00005t5k)、細菌Leptospira perolatiiに由来するDNA結合HLp(pdb_00009qt1)の構造を詳しく見てみて欲しい。
理解を深めるためのトピックス
- 真核生物のヌクレオソームとについて詳しく学んでみよう。
- シスプラチン(cisplatin)は、DNA の構造を変化させて細胞死を引き起こす、癌の治療に使用される小分子である。
参考文献
- pdb_00001aoi 1997 Sep 18 Nature 389 6648 251-260
- pdb_00005t5k 2017 Aug 11 Science 357 6351 609-612
- pdb_00009f0e, pdb_00009ezz 2024 Aug 12 Nucleic Acids Res. 52 14 8193-8204
- [[PDBpdb_00009qt1]], [[PDB:pdb_00009qt2:]] 2025 Dec 11 Nat Commun. 16 1 11108
- pdb_00008fw7 2023 Nov Nat Microbiol. 8 11 2006-2019 Erratum in: Nat Microbiol. 2024 Nov;9(11):3075
- 2025 Dec 2. The Expanding Histone Universe: Histone-Based DNA Organization in Noneukaryotic Organisms. Annu Rev Biophys. 55 DOI:10.1146/annurev-biophys-091125-045046
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