305: TOC-TICトランスロコン(TOC-TIC Translocon)

著者: Janet Iwasa 翻訳: 工藤 高裕(PDBj)

クラミドモナス(Chlamydomonas reinhardtii)のTOC-TICトランスロコン(7VCF)。TOC部分は青色、TIC部分は緑色で示す。
クラミドモナス(Chlamydomonas reinhardtii)のTOC-TICトランスロコン(7VCF)。TOC部分は青色、TIC部分は緑色で示す。 高解像度TIFF画像はこちら

植物や藻類は、葉緑体(chloroplast)を使って太陽光のエネルギーを化学エネルギーへと変換し、細胞活動のエネルギー源として利用している。ミトコンドリアと同様、葉緑体も初期の真核細胞によって飲み込まれた細菌細胞に由来すると考えられている。現代の葉緑体とミトコンドリアは、それぞれ自身の円形ゲノムを保持し続けているが、これら細胞内器官の機能に必要なタンパク質の大部分は核ゲノムにコードされている。葉緑体がつくる約3000種類のタンパク質のうち、葉緑体内で自身のゲノムより合成できるのはわずか100種類程度である。残りの大半は細胞質で翻訳され、TOC-TIC超複合体(TOC-TIC supercomplex)を介して葉緑体に取り込まれる。

複数の区画にまたがる

葉緑体は膜で仕切られた複数の区画でできている。外膜は葉緑体全体を包んでいる。葉緑体の内側には内膜があり、光合成を行うしくみ、葉緑体リボソーム、DNAを含む大きな区画であるストロマ(stroma)を取り囲んでいる。葉緑体の内膜と外膜の間には狭い膜間空間がある。外膜を通過するタンパク質はTOC(Translocon at the Outer envelope of Chloroplasts)複合体によって仲介され、内膜を通過するタンパク質はTIC(Translocon at the Inner envelope of Chloroplasts)複合体によって制御されている。緑藻のクラミドモナス(Chlamydomonas reinhardtii)における最近の構造研究から、TOCとTIC複合体は、右図(7VCF)に示すように大きな単一のTOC-TIC超複合体を形成していることが明らかとなり、この超複合体が細胞質からストロマへ、また膜間腔へとタンパク質を輸送していると考えられている。

タンパク質を引き込む

Ycf2-FtsHi複合体(ピンク色と紫色で示す部分、PDB ID 8XQX)はTOC-TICトランスロコン(青色と緑色で示す部分)に結合する。
Ycf2-FtsHi複合体(ピンク色と紫色で示す部分、PDB ID 8XQX)はTOC-TICトランスロコン(青色と緑色で示す部分)に結合する。 高解像度TIFF画像はこちら

生化学的研究により、細胞質から葉緑体のストロマへのタンパク質取り込みは 多くのエネルギーを必要とする過程であり、タンパク質1個あたり数百個のATP加水分解を必要とすることが示されている。 このエネルギーの多くは、TOC-TICトランスロコン(TOC-TIC translocon)に結合し、タンパク質をストロマに引き込むモーター複合体によって使われているようである。クラミドモナス(Chlamydomonas reinhardtii)が持つそのようなモーター複合体の一つについて、最近構造的な特徴が明らかになった(左図)。Ycf2-FtsHi複合体(ピンク色と紫色で表示、8XQX)は、葉緑体内膜にまたがり複数のサブユニットで構成されている巨大な複合体である。その複合体を構成タンパク質のうち6つが6量体リングを形成し、ATP加水分解によって放出されるエネルギーを使ってタンパク質を中央のチャネルに引き込むと考えられている。

構造をみる

TOCとBAM1におけるβ-バレル構造の比較

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TOC複合体の中央にある大きなチャネルは、2つのTocタンパク質(Toc75とToc120/Toc90)の間で形成されるハイブリッドβバレルである。このチャネルの大きさは最も幅が広いもので約20オングストローム(20Å、5億分の1m)あり、折り畳まれたタンパク質が通過するのに十分な大きさである。TOCβバレルの構造は、BamA(6V05)と呼ばれるグラム陰性細菌タンパク質複合体に見られるβバレルと非常によく似ており、TOCチャネルの起源は細菌膜タンパク質である可能性が示唆される。図の下のボタンをクリックして対話的操作のできる画像に切り替え、TOCのβ-バレルとBamAのβ-バレルの構造を比較してみて欲しい。

理解を深めるためのトピックス

  1. AAA+プロテアーゼマラリアのPTEX複合体など、ペプチドをその中心チャネルに引き込むことができる6量体複合体をつくるタンパク質複合体は他にも数多くある。

参考文献

  1. 7VCF Jin Z, Wan L, Zhang Y, Li X, Cao Y, Liu H, Fan S, Cao D, Wang Z, Li X, Pan J, Dong MQ, Wu J, Yan Z. Dec 8 2022 Structure of a TOC-TIC supercomplex spanning two chloroplast envelope membranes. Cell 185 25 4788-4800.e13 2022 Nov 21 DOI:10.1016/j.cell.2022.10.030 PMID:36413996
  2. 8XQX Liang K, Zhan X, Li Y, Yang Y, Xie Y, Jin Z, Xu X, Zhang W, Lu Y, Zhang S, Zou Y, Feng S, Wu J, Yan Z. Oct 3 2024 Conservation and specialization of the Ycf2-FtsHi chloroplast protein import motor in green algae. Cell 187 20 5638-5650.e18 DOI:10.1016/j.cell.2024.08.002 PMID:39197449
  3. 6V05 Tomasek D, Rawson S, Lee J, Wzorek JS, Harrison SC, Li Z, Kahne D. Jul 2020 Structure of a nascent membrane protein as it folds on the BAM complex. Nature 583 7816 473-478 2020 Jun 11.
  4. Liu H, Li A, Rochaix JD, Liu Z. Mar 2023 Architecture of chloroplast TOC-TIC translocon supercomplex. Nature 615 7951 349-357 2023 Jan 26 DOI:10.1038/s41586-023-05744-y PMID:36702157
  5. Wang N, Xing J, Su X, Pan J, Chen H, Shi L, Si L, Yang W, Li M. Nov 4 2024 Architecture of the ATP-driven motor for protein import into chloroplasts. Mol Plant. 17 11 1702-1718 2024 Sep 25 DOI:10.1016/j.molp.2024.09.010
  6. Shi LX, Theg SM. Jan 15 2013 Energetic cost of protein import across the envelope membranes of chloroplasts. Proc Natl Acad Sci U S A. 110 3 930-935 2012 Dec 31

この記事はRCSB PDBPDB-101で提供されている「Molecule of the Month」の2025年5月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧ください。

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