254: セルロース合成酵素(Cellulose Synthase)

著者: David S. Goodsell 翻訳: 工藤 高裕(PDBj)

PDBエントリー 6wlb にはセルロース合成酵素の3量体が含まれ、ロゼッタ全体の電子顕微鏡写真に基づいて配置されたものである。各サブユニットは黄褐色で示すセルロース鎖を合成する。
PDBエントリー 6wlb にはセルロース合成酵素の3量体が含まれ、ロゼッタ全体の電子顕微鏡写真に基づいて配置されたものである。各サブユニットは黄褐色で示すセルロース鎖を合成する。 高解像度TIFF画像はこちら

セルロース(cellulose)は地球上で最も豊富に存在する生体高分子である。そしてこれは何も驚くべきことではない。なぜなら周りを見回せば植物に囲まれており、植物細胞そのものはセルロースでできた細胞壁(cell wall)に囲まれているからである。セルロースは極めて単純で、植物の細胞構造に不可欠な機能を担っている。500個から15,000個のブドウ糖(glucose)単位でできた長い鎖で構成されている。そしてこれらの鎖が横に並んで結合し、ケーブル状の線維を形成する。結合すると繊細な花や雄大なセコイアをつくるのに十分な強度を持つようになる。

線維をつくる

セルロース合成酵素(cellulose synthase)は植物の細胞膜で見られる巨大なタンパク質複合体で、セルロース鎖と線維をつくる。複合体はおおよそ6回対称の対称性を持った大きなロゼッタ状になっていて、少しずつ異なる3種類の型を取る酵素を含むと考えられている3量体が6個集まってできている。PDBエントリー6wlbにはポプラの樹から得られた酵素の3量体が含まれる。この構造は、「何本の鎖が束になってセルロース繊維ができているのだろうか?」というセルロースに関する生物学における長年の謎を解明するのに役立つ。ロゼッタ構造がこの問いに対する答えを与えてくれている。各サブユニットが互いに近接して1本の鎖をつくるので、最終的な線維には18本の鎖が含まれることになる。

壁の中の鉄筋

細胞壁は鉄筋コンクリートのようにつくられている。コンクリートの壁には、頑丈だが比較的もろいコンクリートがあり、それが並んでいる中に丈夫な鉄筋が埋め込まれている。同様に、セルロース繊維はキシログルカン(xyloglucan)やペクチン(pectin)のような他のタンパク質が並んだ中に埋め込まれた補強棒として機能し、それが一緒になって丈夫だが調節可能な細胞壁を形成する。

セルロース合成酵素の働く様子

植物細胞壁の概念を示した図。細胞膜は緑で示し、そこにはセルロース繊維(黄褐色)をつくっている2つのセルロース合成酵素複合体も見えている。キシログリカンとペクチンがセルロース繊維の間にある空間を埋めている様子を濃い茶色で図上方に示している。また、膜のすぐ下を並行に走る微小管も示している。
植物細胞壁の概念を示した図。細胞膜は緑で示し、そこにはセルロース繊維(黄褐色)をつくっている2つのセルロース合成酵素複合体も見えている。キシログリカンとペクチンがセルロース繊維の間にある空間を埋めている様子を濃い茶色で図上方に示している。また、膜のすぐ下を並行に走る微小管も示している。 高解像度TIFF画像はこちら

植物の細胞壁をよく見ると、セルロース繊維は特定の方向を向いていることが多いことが分かる。この方向は細胞内にある微小管(microtubule)によって制御されている。セルロース合成酵素複合体には、微小管と相互作用し合成中における複合体の動きと最終的なセルロース繊維の位置を誘導する別のタンパク質も含まれている。

ブロックをつくる

UDP-グルコース ピロホスホリラーゼ(左)とショ糖合成酵素(右)
UDP-グルコース ピロホスホリラーゼ(左)とショ糖合成酵素(右) 高解像度TIFF画像はこちら

セルロース合成酵素はUDPヌクレオチドが付加された活性型のブドウ糖(glucose)を使ってセルロースをつくる。この構築部材をつくる仕事はいくつかの酵素によって行われている。UDP-グルコース ピロホスホリラーゼ(UDP-glucose pyrophosphorylase、ここに示すのはPDBエントリー2icyの構造)はグルコース-1-リン酸(glucose-1-phosphate)とUTPをつなぐ。ショ糖合成酵素(sucrose synthase、ここに示すのはPDBエントリー3s27の構造)はショ糖とUDPから分子をつくる。これは重要なことである。なぜならショ糖は葉でつくられる主要な糖であり、これが根、茎などに供給されて植物のエネルギー源や構築材料として使われているからである。

構造をみる

細菌のセルロース合成酵素

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細菌の中にはセルロースをつくり、自身を守るバイオフィルムの形成に活用しているものもある。ここに示すセルロース合成酵素(PDBエントリー4hg6)は光合成紅色細菌から得られたものである。植物の酵素と同じように細胞膜へ埋め込まれ、細胞質にあるUDP-グルコースを使って細胞外にセルロースを押し出している。この驚くべき構造にはできたばかりのセルロース鎖とUDP分子が含まれており、ブドウ糖がUDP-グルコースから離れ伸長中のセルロース鎖に付加された直後の複合体の様子をとらえている。画像の下にあるボタンをクリックして対話的操作のできるJSmolに切り替え、この構造をより詳しく見てみて欲しい。

理解を深めるためのトピックス

  1. セルロースは細菌酵素の中にある長いトンネルを通って押し出されてきます。このトンネルの中での相互作用は、Mol*で表示した「オリゴ糖相互作用」で見ることができます。また植物の酵素についても同様に見ることができます。

参考文献

  1. 6wlb Purushotham, P., Ho, R., Zimmer, J. 2020 Architecture of a catalytically active homotrimeric plant cellulose synthase complex. Science 369 1089-1094
  2. Hofte, H., Voxeu, A. 2017 Plant cell walls. Curr. Biology 27 R865-R870
  3. 4hg6 Morgan, J.L., Strumillo, J., Zimmer, J. 2012 Crystallographic snapshot of cellulose synthesis and membrane translocation. Nature 493 181-186
  4. 3s27 Zheng, Y., Anderson, S., Zhang, Y., Garavito, R.M. 2011 The Structure of Sucrose Synthase-1 from Arabidopsis thaliana and Its Functional Implications. J Biol Chem 286 36108-36118
  5. Brett, C. T. 2010 Cellulose microfibrils in plants: synthesis, deposition and integration into the cell wall. Int. Rev. Cytology 199 161-199
  6. 2icy McCoy, J.G., Bitto, E., Bingman, C.A., Wesenberg, G.E., Bannen, R.M., Kondrashov, D.A., Phillips Jr., G.N. 2007 Structure and Dynamics of UDP-Glucose Pyrophosphorylase from Arabidopsis thaliana with Bound UDP-Glucose and UTP. J Mol Biol 366 830-841
  7. Somerville, C. 2006 Cellulose synthesis in higher plants. Annu. Rev. Cell Dev. Biol. 22 53-78

この記事はRCSB PDBPDB-101で提供されている「Molecule of the Month」の2021年2月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧ください。

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