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今月の分子


この記事はRCSB PDBPDB-101で提供されている「Molecule of the Month」の2020年9月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧下さい。

249: SARSコロナウイルス2 RNA依存性RNAポリメラーゼ(SARS-CoV-2 RNA-dependent RNA Polymerase)

著者: David S. Goodsell 翻訳: 工藤 高裕(PDBj)

SARSコロナウイルス2 RNA依存性RNAポリメラーゼ(nsp12)にnsp7とnsp8、そして鋳型鎖と複製鎖による短い2本鎖RNAが結合した構造。右側の図ではRNAとの相互作用が見えるようにするためnsp7とnsp8は取り除いてある。
SARSコロナウイルス2 RNA依存性RNAポリメラーゼ(nsp12)にnsp7とnsp8、そして鋳型鎖と複製鎖による短い2本鎖RNAが結合した構造。右側の図ではRNAとの相互作用が見えるようにするためnsp7とnsp8は取り除いてある。

ポリオウイルス(poliovirus)、ライノウイルス(rhinovirus)、コロナウイルス(coronavirus)など一部のウイルスは、まったくDNAを使わない。これらのウイルスが細胞に感染するとき、1本のRNA鎖を送り込む。このRNAは、感染するとすぐにタンパク質をつくる伝令RNAとして使うことができる。ただしこれらのウイルスには、DNAからRNAそしてタンパク質へと向かう標準的な情報の流れに逆らう特別なポリメラーゼが必要となる。このポリメラーゼはDNAではなくRNAを鋳型として使い新たなRNA鎖をつくる。だから、ウイルスはこのポリメラーゼをRNAゲノムにコードしておくだけでよい。そして、感染するとすぐに細胞のリボソーム(ribosome)リボソームによってこのポリメラーゼがつくられ、ウイルスRNAの複製が始まって新たなウイルスが生み出される。

電子顕微鏡下で

驚くべきことに、SARS-CoV-2(新型コロナウイルス)が発見されてからたった数ヶ月で、このウイルスのRNA依存性RNAポリメラーゼ(RNA-dependent RNA polymerase)の構造が明らかになり、RNAとの相互作用について調査が進められている。小さなRNA断片を伴ったポリメラーゼと補助タンパク質の構造決定には、クライオ電子顕微鏡(試料を極めて低い温度において観察する電子顕微鏡)が用いられた。 最初に解かれた構造は、PDBエントリー6yyt(ここに示す構造)、7c2k7bzf7bv26x2g で見ることができる。これらの構造の中には、ポリメラーゼ(「非構造タンパク質12」(non-structural protein 12)を示すnsp12という名前でも呼ばれる)に他のウイルスタンパク質nsp7とnsp8が結合した構造も含まれる。このnsp7とnsp8は、ポリメラーゼが正しい場所に位置し、RNA鎖の長い区間をコピーするのを助ける働きをするタンパク質である。

完璧な標的

私たちの細胞においてRNAからRNAをつくるということはないため、このポリメラーゼは抗ウイルス薬の攻撃対象として有力な候補となりうる。新薬をつくるには有効性と安全性を評価する必要があるため、通常だと完成までに長い時間がかかる。しかしレムデシビル(remdesivir)などポリメラーゼを標的とした治験中の薬が、COVID19(新型コロナウイルス感染症)の治療薬として再利用されている。レムデシビルは肝炎(hepatitis)やエボラ出血熱(Ebola)を治療用につくられた薬だが、あまり効果はなかった。現在は、SARS-CoV-2に対する緊急使用が承認されている。

複製を開始させる

SARS-CoVから得られたnsp7とnsp8の複合体。
SARS-CoVから得られたnsp7とnsp8の複合体。

ポリメラーゼが働く際、nsp7とnsp8がその仕事を助けるが、RNA鎖の開始点にプライマーをつくることにより過程全体を開始するのにも役立っていると考えられている。この構造(PDBエントリー2ahm)はSARS-CoV(SARSコロナウイルス)から得られたnsp7とnsp8の複合体で、大きな環状の形をしており16本の鎖で構成されている。これがRNA鎖を取り囲み、プライマーをつくると考えられている。SARS-CoV-2でも同じようなことが起こっているのかはまだわかっていない。

構造をみる

RNA依存性RNAポリメラーゼ

表示方式: 静止画像

対話的操作のできるページに切り替えるには図の下のボタンをクリックしてください。読み込みが始まらない時は図をクリックしてみてください。

レムデシビルは、活性型3リン酸に変換されたアデニン様修飾ヌクレオチドで、新たにつくられたRNA鎖に付加され、ポリメラーゼの働きを阻害する。この構造(PDBエントリー7bv2)は、新たなRNA鎖に薬(緑)が付加された後の状態をとらえている。2つのマグネシウムイオン(赤紫)が通常のポリメラーゼ反応を助けていて、この近くにはピロリン酸(濃い紫)も見られる。図の下のボタンをクリックして対話的操作のできる画像に切り替え、この構造をより詳しく見てみて欲しい。

理解を深めるためのトピックス

  1. PDBjでRNA依存性RNAポリメラーゼを検索し、他のウイルスに由来する類似の酵素を見てみてください。
  2. クライオ電子顕微鏡マップをEM NavigatorEMDataBankのデータを閲覧するためのPDBjウェブサービス)で確認してみてください。このサービスへのリンクは、各PDBエントリーページの右下「他のデータベース情報」にあります。

参考文献

  1. 6yyt Hillen, H.S., Kokic, G., Farnung, L., Dienemann, C., Tegunov, D., Cramer, P. 2020 Structure of replicating SARS-CoV-2 polymerase. Nature DOI:10.1038/s41586-020-2368-8
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  3. 7bv2 Yin, W., Mao, C., Luan, X., Shen, D.D., Shen, Q., Su, H., Wang, X., Zhou, F., Zhao, W., Gao, M., Chang, S., Xie, Y.C., Tian, G., Jiang, H.W., Tao, S.C., Shen, J., Jiang, Y., Jiang, H., Xu, Y., Zhang, S., Zhang, Y., Xu, H.E. 2020 Structural basis for inhibition of the RNA-dependent RNA polymerase from SARS-CoV-2 by remdesivir. Science 368 1499-1504
  4. 2ahm Zhai, Y.J., Sun, F., Li, X., Pang, H., Xu, X., Bartlam, M., Rao, Z. 2005 Insights into SARS-CoV transcription and replication from the structure of the nsp7-nsp8 hexadecamer. Nat Struct Mol Biol 12 980-986