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今月の分子


この記事はRCSB PDBPDB-101で提供されている「Molecule of the Month」の2020年7月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧下さい。

247: ミエリン関連糖タンパク質(Myelin-associated Glycoprotein)

著者: David S. Goodsell 翻訳: 工藤 高裕(PDBj)

ミエリン関連糖タンパク質はミエリン膜から伸び、軸索表面にある糖脂質(緑)と結合する。この構造に含まれるのはタンパク質の細胞外部分と糖脂質だけであり、残りの部分はおおよその位置で示している。
ミエリン関連糖タンパク質はミエリン膜から伸び、軸索表面にある糖脂質(緑)と結合する。この構造に含まれるのはタンパク質の細胞外部分と糖脂質だけであり、残りの部分はおおよその位置で示している。

神経細胞は難しい問題に直面している。細胞は小さいが、ヒトの体は大きいのだ。神経系は長い距離を通信する必要があるが、使う部品は小さい。神経細胞は、長さが1m以上あるが幅は数μしかない長く細い軸索(axon)を使って信号を伝達していくというやり方でこの問題を解決している。この繊細な軸索はミエリン鞘(myelin sheath)で覆われていることが多いが、このミエリン鞘は軸索を保護し強化しているだけではなく、軸索に沿って素早く信号を伝えるための狭く絶縁された空間にもなっている。

構造的な支え

ミエリン鞘の構築や維持の制御は、これに特化した一群のタンパク質によって行われている。ここに示すのはその中の一つミエリン関連糖タンパク質(myelin-associated glycoprotein、MAG、PDBエントリー5lf5)である。ミエリン膜に埋もれて二量体をつくり、ミエリンと軸索の間につながりを形成する。この構造にはタンパク質の細胞外部分が含まれ、どのようにして細胞間にある空間を横切り、軸索の膜表面にある特別な脂質と結合しているのかを示している。またMAGには一定の構造を取らない尾部があって、ミエリン形成細胞まで伸び、その中にある制御や構造形成に関わるタンパク質と相互作用する。

細胞を包む

有髄軸索の断面を描いたイラスト。ミエリン鞘は黄色で、乏突起膠細胞内の分子はオレンジ色で示す。軸索の膜は緑、細胞骨格は青、ミトコンドリアは紫で示す。
有髄軸索の断面を描いたイラスト。ミエリン鞘は黄色で、乏突起膠細胞内の分子はオレンジ色で示す。軸索の膜は緑、細胞骨格は青、ミトコンドリアは紫で示す。

ミエリンはミエリン自身や軸索を包む特殊な細胞からできている。中枢神経系において、乏突起膠細胞ぼうとっきこうさいぼう(希突起膠細胞、オリゴデンドロサイト、oligodendrocyte)は巻きひげのような構造をつかって隣接する軸索まで伸び、このような驚くべき構造をつくっている。MAGミエリン塩基性タンパク質(myelin basic protein、MBP)、ミエリン乏突起膠細胞糖タンパク質(myelin oligodendrocyte glycoprotein、MOG)などのこれに特化したタンパク質がこの過程を制御しすべてをひとつにつなげている。

自己免疫による Autoimmune Unwrapping

ミエリン乏突起膠細胞糖タンパク質(MOG)に抗体Fab断片が結合した複合体(左)とMHCから提示されたミエリン塩基性タンパク質(MBP)由来のペプチド(右)。
ミエリン乏突起膠細胞糖タンパク質(MOG)に抗体Fab断片が結合した複合体(左)とMHCから提示されたミエリン塩基性タンパク質(MBP)由来のペプチド(右)。

ある遺伝的要因と環境要因の組み合わせにより免疫系がミエリンタンパク質を攻撃することがあるが、そうなるとミエリン鞘が破壊されて多発性硬化症(multiple sclerosis)を引き起こす。ここに示す2つの構造がこの恐ろしい過程で起こっている出来事をとらえている。PDBエントリー1pkqはある抗体がMOGに結合した構造で、ミエリン鞘の外側表面でその機能を妨害している。PDBエントリー1bx2は、MBP由来ペプチドが主要組織適合性複合体(major histocompatibility complex、MHC)によって提示されている様子を示していて、これはMBPに対する免疫系の発動につながる。PDBエントリー1h15(ここには示していない)はMBPに似たウイルスペプチドと主要組織適合性複合体との複合体で、ウイルス感染がどのようにして免疫応答を引き起こし、MBPのような通常のタンパク質と交差反応するのを示している。

構造をみる

ミエリン関連糖タンパク質

表示方式: 静止画像

対話的操作のできるページに切り替えるには図の下のボタンをクリックしてください。読み込みが始まらない時は図をクリックしてみてください。

MAGは5つのコンパクトなドメインに折りたたまれていて、その構造は抗体のドメインと似ている。ところが抗体とは異なり、3つのドメインが非常に短いリンカーによってつながれているので、構造全体が強固なものとなる。これがミエリンと軸索をつなぎ2つの細胞間の通信を仲介するのに適した頑丈な支柱となる。この構造をより詳しくみるため、図の下のボタンをクリックし対話的操作のできる画像に切り替えてみてほしい。

理解を深めるためのトピックス

  1. ここに示すタンパク質は中枢神経系のミエリンで見られます。一方、末梢神経系ではこの他にもいくつかのタンパク質が関与しています。PDBjのウェブサイトでミエリンのキーワードを使って検索してみてください。
  2. RCSB PDBのProtein Feature Viewを使って、構造に含まれるタンパク質のパーツや構造から欠落しているパーツを確認できます。

参考文献

  1. Stassart, R.M., Modius, W., Nave, K.A., Edgar, J.M. 2018 The axon-myelin unit in development and degenerative disease. Frontiers Neurosci. 12 467
  2. 5lf5 Pronker, M.F., Lemstra, S., Snijder, J., Heck, A.J., Thies-Weesie, D.M., Pasterkamp, R.J., Janssen, B.J. 2016 Structural basis of myelin-associated glycoprotein adhesion and signalling. Nat Commun 7 13584-13584
  3. 1pkq Breithaupt, C., Schubart, A., Zander, H., Skerra, A., Huber, R., Linington, C., Jacob, U. 2003 Structural insights into the antigenicity of myelin oligodendrocyte glycoprotein. Proc Natl Acad Sci U S A 100 9446-9451
  4. 1h15 Lang, H., Jacobsen, H., Ikemizu, S., Andersson, C., Harlos, K., Madsen, L., Hjorth, P., Sondergaard, L., Svejgaard, A., Wucherpfennig, K., Stuart, D.I., Bell, J.I., Jones, E.Y., Fugger, L. 2002 A Functional and Structural Basis for Tcr Cross-Reactivity in Multiple Sclerosis. Nat Immunol 3 940
  5. 1bx2 Smith, K.J., Pyrdol, J., Gauthier, L., Wiley, D.C., Wucherpfennig, K.W. 1998 Crystal structure of HLA-DR2 (DRA*0101, DRB1*1501) complexed with a peptide from human myelin basic protein. J Exp Med 188 1511-1520