87: ジンクフィンガー(Zinc Fingers)

著者: David S. Goodsell 翻訳: 工藤 高裕(PDBj)
ジンクフィンガー(青)とDNA(赤)(左:PDB:1tf6、右:PDB:1un6)

PDB(タンパク質構造データバンク)でタンパク質を見ていると、多くのタンパク質は巨大であることに気づくかもしれない。巨大なタンパク質には何百個ものアミノ酸が含まれるが、タンパク質の働きのほとんどはある側にあるたった数個のアミノ酸によって行われていることが多い。なぜタンパク質はこれほど大きいのだろうか? その理由の1つは細胞内で自力により集合しなくてはならないからである。タンパク質はまず柔軟な鎖として作られ、自分自身を折りたたんで(シャペロンの助けを少し借りる場合もあるが)安定でコンパクトな構造になる。この折りたたまれた構造は水素結合、電気的相互作用、異なるアミノ酸間の疎水的な力によって安定化する。これらの安定化要素は全て、タンパク質を折りたたむ際にジグソーパズルのピースのように整列する。1つの水素結合や数組の電荷の組では構造を安定化することはできないが、ペプチド鎖が持つ何百個ものアミノ酸の中には何百もの相互作用があり、これによって分子内のいろんな場所がくっつけられてタンパク質の構造は安定化する。

小さくて強力

一方、私たちの細胞はタンパク質折りたたみを簡略に行うため亜鉛イオン(zinc ion)をよく使う。タンパク質は、鎖の中にある2つシステインと2つのヒスチジンをお互い接近させて亜鉛イオンをつかみ、その周りに堅く折りたたまれる。このようなタンパク質はジンクフィンガー(zinc finger、亜鉛の指)と呼ばれる。20個から30個の短いアミノ酸の鎖が、十分堅くて安定な構造を作り出す。ジンクフィンガーは大変有用なので、私たちが持つタンパク質の中に何千種類も見られる。またこれはその他全ての動植物についても共通して言えることである。ところが驚くべきことに、細菌はこの小さな構造は利用していないようである。

ネバネバした指

多くのジンクフィンガーはDNA認識に重要な役割を果たしている。ジンクフィンガーは最初、カエルの卵から得られた転写因子TFIIIAの中で発見された。これには9つのジンクフィンガーが並んで入っている。ここに示した2つの構造は、このタンパク質がもつ機能を実行する部位をとらえたものである。上図左に示したPDBエントリー 1tf6の構造には、6つのジンクフィンガー(青)とそれに結合する長く伸びたDNA(赤)が含まれている。この相互作用により、TFIIIA はリボソームRNA遺伝子の転写制御を助けている。上図右に示したのはリボソームRNA自身にも結合した TFIIIA で、2つのPDBエントリー で見ることができる(PDBエントリー 1un6とPDBエントリー 2hgh、図示しているのは前者)。この構造には、9つあるジンクフィンガーのうち3つ(青)と、それにくっついた小さいリボソームRNAの断片(赤)が含まれる。カエルの卵にはこのタンパク質分子が約100億個あって、細胞発生に伴って数多くつくられるRNA複製の安定化を助けている。

分子認識

この構造で分かるように、ジンクフィンガーの指はDNAまたはRNAに沿って曲がり、アミノ酸を溝の中に伸ばして塩基を読み取っている。1つのジンクフィンガーはそれほど強く結合する訳ではなく、認識できる塩基対の数も2、3個に限られる。しかしこれが何個かつながると、より強く結合しもっと長いDNA配列を読み取ることができるようになる。この分子的研究は大変興味を引くものであったため、現在研究者たちは様々な特性を持つ人工ジンクフィンガーを製作しようと試みている。それらを適当な順序でつなげれば、私たちが望むどんな配列に対しても対応するカスタムジンクフィンガーを作れるようになるだろう。

何でも屋

ジンクフィンガーの例。(左上)GATA-1とFOG-1由来(PDB:1y0j)、(左下)HIV-1ヌクレオカプシド(PDB:1a1t)、(右)EEA1(PDB:1joc)

ジンクフィンガーは様々な形と大きさのものがあるが、全て1個以上の亜鉛イオン(緑)を持ち、それをシステインまたはヒスチジンから成る4つのアミノ酸がつかんでいる(後述)。ジンクフィンガーは様々な仕事をする。その例となる構造を3つ、右に示す。左上にある複合体(PDBエントリー 1y0j)は2つの長いタンパク質に由来するジンクフィンガーを示しており、2つのジンクフィンガーを含むGATA-1と9つのジンクフィンガーを含むFOG-1に由来する。この2つのジンクフィンガー間に特有な相互作用が、血液細胞の発生に欠かせない役割を果たしている。左下に示したHIV-1ヌクレオカプシドタンパク質(PDBエントリー 1a1t)は2つのジンクフィンガーを含んでおり、ウイルスが宿主細胞から出て行く(出芽する)際にウイルスRNAをつかむ役割をしている。右に示したタンパク質EEA1(PDBエントリー 1joc)は、各鎖に2つずつジンクフィンガーを含んでいる。エンドソームの中にある特有の脂質に結合し、細胞区画への分子輸送に欠かせない役割を果たしている。

構造を見る

左:典型的なジンクフィンガー(PDB:1znf) 右:DNA結合タンパク質(PDB:1zaa、下は上からDNA(赤い球)だけを取り除いたもの)

PDBでジンクフィンガーを見る時、圧倒されないようにして欲しい。なぜなら、現在千種類以上もの構造があって、それには様々なジンクフィンガー、指関節、ト音記号、リボン、その他変わった折りたたみ構造が含まれている。右図左の構造はPDBエントリー 1znfのもので、よくあるジンクフィンガーを示したものである。これはたった25個のアミノ酸でできている大変小さな構造なので、各部分がしていることを詳しく見て話す価値がある。下には2つのシステインと2つのヒスチジンがあって、四面体構造をとって亜鉛を取り囲んでいる。そのすぐ上には、1個のフェニルアラニンと1個ロイシンが小さな疎水性中心を構造内部に形成している。残りのアミノ酸は全て多少なりとも外側に面しており、様々な機能を行うのに使われる。DNA結合タンパク質の場合、αらせんの上端にあるアミノ酸が一般的にDNA認識に使われる部分となる。これが右に示したPDBエントリー 1zaaの構造である。これには、3つのつながったジンクフィンガーにDNAが結合した構造が含まれている。DNAを取り除いた右図右の下半分が示すように、赤で示したアミノ酸がDNAに伸びて塩基配列を読み取る。

2007/03/02 にキーワード「zinc fingers」でPDBエントリーを検索して作成した関連エントリー一覧は[[mom:87_rel|こちら]]。

ジンクフィンガーについてさらに知りたい方へ

当記事を作成するに当たって用いた参考文献の一部を以下に示します。

この記事はRCSB PDBPDB-101で提供されている「Molecule of the Month」の2007年3月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧ください。

	{
    "header": {
        "minimamHeightScale": 1.0,
        "scalingAnimSec": 0.3
    },
    "src": {
        "spacer": "/share/im/ui_spacer.png",
        "dummy": "/share/im/ui_dummy.png"
    },
    "spacer": "/share/im/ui_spacer.png"
}