298: アンジオテンシンと血圧(Angiotensin and Blood Pressure)

著者: David S. Goodsell 翻訳: 工藤 高裕(PDBj)

アンジオテンシンの信号伝達経路。細胞膜の位置を灰色で示している。
アンジオテンシンの信号伝達経路。細胞膜の位置を灰色で示している。 高解像度TIFF画像はこちら

健康な血圧を保つには微妙なバランスが必要である。血液を全身に循環させるには十分高く、障害を引き起こすほど高くはない値を維持しなければならない。私たちの身体は常に血圧を監視し、最適な範囲から外れると変化を起こす。この制御で中心的な役割を果たしているのがアンジオテンシン(angiotensin)というホルモンである。このホルモンは、血圧を上げる必要があるときに分泌される。アンジオテンシンは体内を巡り、血管を収縮させたり、のどの渇きを感じさせたりするなど、さまざまな作用をもたらす。

信号を送る

アンジオテンシンはいくつかの段階を経てその働きを行う。アンジオテンシンは肝細胞でアンジオテンシノーゲン(angiotensinogen)と呼ばれる大きな不活性前駆体として作られ、必要なときに血液中に放出される。腎臓からは同時に小さなプロテアーゼであるレニン(renin)が放出され、アンジオテンシノーゲンの一部を切り出してアンジオテンシンIと呼ばれる小さなデカペプチド(10残基のペプチド)をつくる。アンジオテンシンIは次にACE(アンジオテンシン変換酵素、angiotensin-converting enzyme)によってさらに2つのアミノ酸が取り除かれ、オクタペプチド(8残基のペプチド)のアンジオテンシンIIとなる。アンジオテンシンIIは活性ホルモンであり、全身の細胞表面にある受容体に結合し、水分や塩分の流れを制御する多くの過程を開始して、さらにホルモンを放出し、血管を収縮させる。

アンジオテンシンの作用

PDBアーカイブでこれらの分子を詳しく調べることができる。後に示す対話的操作ができる図で見られるように、レニンの不活性な前駆体の構造(PDB ID 3vcm)とアンジオテンシノーゲンを切断している活性型の構造(PDB ID 2x0b)を比較することができる。ACEは膜結合型の酵素で、アンジオテンシンIや他のペプチドホルモンを切断する2つの類似したタンパク質切断ドメインを持っている。ここに示す全体の構造は、計算によって得られた構造モデル(AF_AFP12821F1)だが、実験で解かれた個々のドメインの構造が多数PDBアーカイブに登録されている。また、アンジオテンシンIの構造(PDB ID 1n9u)や、アンジオテンシンIIと結合した受容体の構造(PDB ID 6os0)の構造もPDBで見ることができる。

血圧の薬

ACEドメイン(青色)と血圧降下剤リシノプリル(黄色)との複合体。
ACEドメイン(青色)と血圧降下剤リシノプリル(黄色)との複合体。 高解像度TIFF画像はこちら

アンジオテンシンの信号伝達経路に関するタンパク質の構造を理解することにより、必要に応じてその作用を修正し血圧を下げる薬の開発が行われてきた。ここに示すのは、広く使われているリシノプリル(lisinopril)で、ACEのアンジオテンシン切断ドメインの活性部位に結合している(PDB ID 1o86)。血圧管理は健康にとって非常に重要であるため、信号伝達経路における別のステップの作用を阻害する他の薬剤も開発されている。例えば、次節に示す対話的操作ができる図には、レニンの作用を阻害する薬剤が含まれている。

構造をみる

レニンの活動

表示方式: 静止画像

対話的操作のできるページに切り替えるには図の下のボタンをクリックしてください。読み込みが始まらない時は図をクリックしてみてください。

3つの構造から、レニンの異なる状態が明らかになった。PDB ID 3vcmの構造には、腎臓細胞の中で作られる不活性型のプロレニンが含まれる。合成された後、このプロペプチドは切り取られて活性型レニンとなるが、これは必要になるまで小胞の中で安全に保存される。PDB ID 2x0bの構造は、レニンがどのようにアンジオテンシノーゲンに結合し、それを適切な場所で切断できるようぴったりな場所に配置すること示している。PDB ID 2v0zの構造は、活性部位に結合した薬剤アリスキレン(Aliskiren)を示しているが、これはレニンの作用を阻害し血圧を下げるのを助ける。

図の下にあるボタンをクリックして対話的操作のできる画像に切り替え、これらの構造をより詳しく調べてみてほしい。

理解を深めるためのトピックス

  1. 酵素のACE2はここで述べたACEと似ていて、アンジオテンシンに対してさらに切断を行う。また、SARS-CoV-2は感染のための受容体としてACE2を利用する。その構造をPDB ID 6m17で調べることができる。
  2. RCSB PDBのPairwise Structure Alignmentツールを使って、PDB ID 1o86と2c6nのそれぞれが2つずつ持つACEドメインを比較することができる。

参考文献

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この記事はRCSB PDBPDB-101で提供されている「Molecule of the Month」の2024年10月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧ください。

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