210: アデニンリボスイッチの動き(Adenine Riboswitch in Action)
リボスイッチ(riboswitch)は構造的には動的なRNA分子で、制御の仕事をおこなうときにかたちが変化する。リボスイッチには通常二つのドメインがある。特定のリガンドが結合するとき形状が変化するリガンド結合アプタマー(aptamer)ドメインと、そこから送られる信号を受け取りRNAの利用を制御する発現プラットフォーム(expression platform)ドメインの二つである。これまでのところ、アプタマードメインの構造は得られていたが、リガンド結合に伴う動きを結晶学の手法で知るのは難しかった。通常、結晶は分子をある一つの形に固定してしまい、リガンド結合の前後で得られるアプタマーの結晶構造はほとんど変わらないからである。XFEL(X-ray Free Electron Laser、X線自由電子レーザー)放射線源をうまく利用することでこの制約を乗り越え、リガンドが結合するときに何が起こっているのかを直接観察できるようになった。
自由電子レーザー
自由電子レーザー(FEL)を使うと時間は非常に短いが極めて明るいX線の閃光が得られる。XFELを使った実験では、非常に小さな結晶がX線を通り過ぎるように流され、各閃光ごとにある結晶がとらえられる。こうしてある決めた瞬間の結晶に含まれる分子の瞬間的な回折パターンが得られる。ランダムな方向からX線の閃光を当て、多くの結晶から得られた類似の回折パターンを集めることにより、完全な回折データを作り上げる。
混ぜて注入する
分子の動きをとらえるには、反応を開始しある一定の時間が経ってから回折パターンを集める。光活動性黄色タンパク質(photoactive yellow protein)の研究では、結晶に閃光を当て何が起こるのかが観察された。リボスイッチでは、特別な信号分子(この場合はアデニン)を加えて観察が行われた。ここでは2つの構造を示す。一つはアデニンがまだ結合していないリボスイッチ(PDBエントリー5e54)である。もう一つはアデニンを混ぜ、10分経ってからXFELデータを集めて得られたものである。アデニン結合型の構造は結合前と比べ大きく構造が変化しており、リボスイッチの末端に安定な二重らせんがつくられている(PDBエントリー5swe)。
動的な結晶
生体分子の結晶には分子間に溶媒の通る大きな通り道があることが多く、リガンドとの結合をみる時にリガンドを結晶に吸収させることがある。しかし残念なことに、これまでの結晶学的手法ではリガンド結合による大きな変化はほとんどみることはできない。なぜなら、より大きな結晶のデータを集めるにはシンクロトロンのX線源が必要で、また大きな結晶ほどリガンドが結合する時に割れやすいからである。ところが、リボスイッチに関するこの研究によって、XFELで使われる小さな結晶であれば大きな分子の動きでもとらえられることがわかった。ここに非結合状態と結合状態の結晶格子を示している。形状の大きな変化によりアプタマーの詰め込まれ方が完全に変わったことに注目して欲しい。
構造をみる
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このXFELを使った研究では、アデニンを添加してから10秒後の構造がとらえられた。これにより、結合ポケットにアデニンは存在するが柄の部分(stem)と掛け金部分(latch)はまだ安定な結合構造へ移れるようになっていない中間状態(PDBエントリー5swd)の構造が明らかになった。画像の下のボタンをクリックすると画像を対話的操作のできるモードに切り替え、より詳しく構造を見ることができる。