211: 線毛機械(Pilus Machine)
細菌は複雑な環境に生息していて、競合する者、環境由来の危険、防御的な宿主で満ちあふれている。これに対し、集まって丈夫なバイオフィルムを作ったり、役立つタンパク質をコードする遺伝情報を共有したり、どこか他の場所の方が状況が良さそうな時には移動したりといったいろんな方法を用いて立ち向かっている。線毛(pilus、複数形pili)はこれらすべての応答において重要な役割を果たす。線毛は長くて細いタンパク質の線維で、細菌が周囲の環境に付着するのを助ける。いろんな形やサイズがあり、複雑な集合機械となって細胞表面に配置されている。
線毛の構築
ここに示す分子機械(PDBエントリー3jc8)は線毛として最もよくある形状の一つで、IVa型線毛(type IVa pilus)と呼ばれている。線毛は機械の中心から伸び、その長さは細胞の大きさに匹敵することも珍しくない。機械は細胞壁を完全に貫通して存在している。細胞膜に埋もれている回転モーターは新たなサブユニットを追加し、襟の部分は伸びる線毛を外膜の外に誘導する。環状のタンパク質は二層の膜間にある空間を満たしているペプチドグリカン層に機械全体を固定する。この構造は、個々のタンパク質の原子構造を低温電子顕微鏡トモグラフで得られた全体の形状情報(EMD-[[EMDB:3247]])に当てはめて得られたものである。
活動中の細胞
この線毛機械は、えさを探すときに細胞の群れをつくる捕食性の土壌細菌がつくるものである。この細菌は線毛機械を
回転モーター
モーターは線毛がそれぞれの瞬間に伸ばされているのか縮まされているのかを制御していると考えられている。それぞれのピリン(pilin)サブユニットは膜に埋もれている。モーターの中にある小さく非対称なタンパク質はPilC(図では赤で示している部分)と呼ばれていて、一方の側には穴があり線維末端をふさぐ。モーターが回転すると、PilCが線維を押し出し、新たなピリンサブユニットを付け加えるための空間をつくるという説が提案されている。線維を短くするには、モーターを逆回転させ、一度に一つずつピリンサブユニットを取り出して膜に戻していくようである。
構造をみる
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ピリンサブユニットは独特な構造をしている。球状の頭部は電荷を持った水溶性アミノ酸(赤紫色の部分)でおおわれているのに対し、長いαらせんの尾部は大半が疎水性(白い部分)である。疎水性の尾部には、個々のピリンサブユニットを細菌の膜に埋め込んで、他のピリンサブユニットと丈夫な束を作り線維を安定化させるという二つの役割がある。図の下のボタンをクリックして対話的操作のできる画像に切り替えると、ピリンと線維をよく見ることができる。
理解を深めるためのトピックス
参考文献
- 2017 A comprehensive guide to pilus biogenesis in gram-negative bacteria. Nature Reviews Microbiology 15 365-379
- 2017 The molecular mechanism of the type IVa pilus motors. Nature Communications 8 15091
- 3jc8 2016 Architecture of the type IVa pilus machine. Science 351 aad2001
- 2hil 2006 Type IV pilus structure by cryo-electron microscopy and crystallography: implications for pilus assembly and functions. Molecular Cell 23 651-662