208: グルコース輸送体(Glucose Transporters)

著者: David S. Goodsell 翻訳: 工藤 高裕(PDBj)

左のGLUT3は外側に向かって開いた型、右のGLUT1は内側に向かって開いた型。
左のGLUT3は外側に向かって開いた型、右のGLUT1は内側に向かって開いた型。

ブドウ糖(glucose)はほとんどの生物圏において動力を供給するエネルギーとなる。植物は太陽からのエネルギーを使ってブドウ糖を作り、デンプン(starch)の形で貯蔵したりセルロース(cellulose)にして基盤構造の構築に使ったりする。私たちが食べたブドウ糖は解糖系(glycolysis)を通して分解され、細胞で行われるさまざまな過程の動力源として利用される。そのため、各細胞に対しブドウ糖を安定的に供給し続けることが不可欠である。ブドウ糖は血液によって体中の細胞に運ばれ、細胞はグルコース輸送体(glucose transporter)を使って必要なものを集める。

形を切り替えてはたらく

グルコース輸送体は細胞の外側にある膜を通るブドウ糖の流れを管理している。2つの状態を行き来することによってその仕事を行なっている。最初に、細胞の外側に向かって開き、ブドウ糖分子を取り込む。次に、内側が開いた形に変化し、細胞内にブドウ糖分子を放出する。通常、グルコース輸送体は自発的にはたらく訳ではない。なぜならブドウ糖は細胞質にあるヘキソキナーゼ(hexokinase)によって速やかにリン酸化されるので、血液中の方が高濃度となりその濃度差を使って細胞外から細胞内に輸送ができるからである。

輸送のプロ

ヒトのゲノムには似た輸送体が14種類コードされていて、ブドウ糖やその他の糖をそれぞれ異なる種類の細胞に運ぶ。例えば、GLUT1(ここに示すのはPDBエントリー4pyp)は基底状態におけるブドウ糖の取り込みを管理していて、赤血球では極めて一般的に見られるタンパク質である。GLUT2は肝臓細胞でブドウ糖の出入り制御を助けている。また、膵臓すいぞうのβ細胞における血中ブドウ糖濃度の監視にも使われていて、濃度が上がったことを検知するとインスリン(insulin)が放出される。脳内の神経細胞は常にブドウ糖を必要とするので、ブドウ糖濃度が低くてもよく機能する型のGLUT3(PDBエントリー4zwc)が使われている。GLUT4はインスリンによって活性化され、食後に脂肪細胞や筋肉細胞がブドウ糖を集めるのに使われる。

糖尿病の合併症

食事をすると、インスリンが血中に放出され、ブドウ糖が使える状態になったことを各細胞に伝える。これに反応して、脂肪細胞や筋肉細胞は多数のGLUT4輸送体を細胞膜へと移動させ、ブドウ糖が豊富にある間は備蓄用としてかき集める。ところが、2型糖尿病(type II diabete)患者の場合、インスリンを作る能力の低下と作用する細胞で応答が低下するという両方の面でインスリンの作用に抵抗性を持つようになってしまう。この結果、食後の筋肉細胞においてGLUT4の細胞膜への移動が減り、ブドウ糖を血液から取り込む量が少なくなってしまう。そして血中のブドウ糖濃度が危険なレベルまで上昇する。なぜなら通常は骨格筋が多くのブドウ糖を消費するからである。

主要促進剤

LacYはラクトースと水素イオンを細胞内へと運び込み、GlpTはリン酸とグリセロール-3-リン酸を逆方向に輸送する。
LacYはラクトースと水素イオンを細胞内へと運び込み、GlpTはリン酸とグリセロール-3-リン酸を逆方向に輸送する。

GLUTファミリーはより大きな輸送体グループの一部であり、まとめて主要促進剤スーパーファミリー(major facilitator superfamily、MFS)と呼ばれている。このファミリーに属する各分子には、細胞膜を越えて内外に揺れ動く2つのドメインを持つという共通のしくみがある。ところが、異なる2つの分子を連携させて運ぶ輸送体の多くは、一方の分子の大きな濃度差を使ってもう一方の分子の輸送の動力源としている。例えば細菌のラクトース透過酵素(lactose permease)LacY(PDBエントリー1pv6)は水素イオンの濃度勾配をラクトース輸送の動力源として利用している。この場合、どちらの分子も同じく細胞の内側へ向けて輸送されるので、LacYは共輸送体(symporter)と呼ばれる。一方、リン酸イオンの勾配を動力源として利用しグリセロール-3-リン酸を逆方向に運び入れるGlpT(PDBエントリー1pw4)は逆輸送体(antiporter)である。

構造をみる

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フルクトース輸送体(fructose transporter、PDBエントリー4ybq4yb9)GLUT5は、外向きに開いた状態と内向きに開いた状態の両方がとらえられている。GLUT1(PDBエントリー5eqi)とその阻害剤サイトカラシンB(cytochalasin B)との複合体についても研究されている。この阻害剤は輸送体を一方の状態で封じ込め、輸送できなくしてしまうものである。この望んでいないグルコース輸送体への阻害が医療では重要となることがある。例えば、HIVプロテアーゼ阻害剤(HIV protease inhibitor)はGLUT4のはたらきを妨げ、治療において副作用を引き起こす。図の下のボタンをクリックして対話的操作のできる画像に切り替えるとより詳しくみることができる。

理解を深めるためのトピックス

  1. この種の輸送体の構造が多数PDBに登録されています。「主要促進剤」(major facilitator)で検索して、そのいくつかを見てみてください。
  2. このようなタンパク質、あるいはこの他の膜結合タンパク質を見るとき、分子の表面を表示し疎水度によって色分けすると膜をまたいでいる部分を目立たせることができます。

参考文献

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この記事はRCSB PDBPDB-101で提供されている「Molecule of the Month」の2017年4月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧ください。

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