180: TALエフェクター(TAL Effectors)

著者: David S. Goodsell 翻訳: 工藤 高裕(PDBj)
TALエフェクター(青・水色)とDNA(黄・橙)(PDB:3ugm)

自然は驚きで満ちあふれていて、時々あり得そうにもないところから宝物が見つかる。数年前、植物を攻撃する細菌からそんな宝物の一つが見つかった。この宝物は、DNAのヌクレオチド配列を読み取ることができるタンパク質で、部品を組み合わせて構成されるモジュール式の構造をとっている。このタンパク質の構造を理解することは、医学やバイオテクノロジーの分野におけるあらゆる種類の活用につながるだろう。現在、このタンパク質を改変し、希望するどんなDNA配列でも読み取ることができる。つまり、ゲノム中の特定箇所にコードされているタンパク質を対象とすることができる。既に、このような配列読み取りタンパク質が、ゲノム編集の道具作りに利用されている。これは遺伝病を治療法として使えるかも知れない。

TALエフェクター(TALE)との戦いのお話

これらのタンパク質はTALエフェクター(TAL effector、TALE)と呼ばれている、短くて転写活性化因子に似た作用因子(エフェクター)である。このタンパク質を植物細胞に注入する細菌が何種かあって、注入されたTALエフェクターは核へと移動し、植物をより感染しやすくする遺伝子を活性化する。数種類のTALエフェクターしか作らない細菌もあれば、何十種類ものTALエフェクターを注入する細菌もある。しかし、よくあることだが、これに対抗する方法を発達させてきた植物細胞もあり、TALエフェクターが注入されると、植物を保護する特有の抵抗遺伝子を代わりに活性化させる。

組み立て式のDNA読み取り機

TALエフェクターは、約34残基のアミノ酸から成る小さなモジュール(部品)がいくつも並んでできている。TALエフェクターがDNAに結合すると、各モジュールが1つずつヌクレオチドを読み取る。ここに示すタンパク質はイネに感染する細菌から得られたもので、モジュール23個とその末端にある大きさが半分の追加モジュール1個で構成されている。結晶構造(PDBエントリー 3ugm)にはDNA結合部分が含まれている。このタンパク質全体を見ると、核を対象とする部分と、核にたどり着いた時に遺伝子を活性化する部分とが含まれている。

有能なTALエフェクターヌクレアーゼ(TALEN)

TALエフェクターヌクレアーゼ(TALEN) TALエフェクター(青・水色)とDNA(黄・橙)(PDB:3ugm)、FokIヌクレアーゼ(PDB:1fok)のDNA切断ドメイン(緑)

このDNAを読み取るタンパク質は、発見されてから数年のうちに大いに利用されるようになった。例えば、FokIヌクレアーゼ(FokI nuclease、PDBエントリー 1fok)のDNA切断ドメイン(緑で示す部分)をTALエフェクターに付加して、改変型TALEヌクレアーゼ(TALE nucleases、TALEN)が作られている。FokIがDNAを切断するには2量体となる必要があるので、2つのFokIが対象とするDNA配列に結合した時のみTALENは活性を持つ。そして活性化すると両方のDNA鎖を切断する。この仕組みは、特定の遺伝子を働かなくしたり、細胞に備わっている天然のDNA修復機構を刺激して、修復途中で新たな遺伝子を挿入できるようにしたりするのに利用できる。このやり方は大変うまくいったので、ジンクフィンガー(zinc finger)やCRISPRのような他のDNA認識分子についても調査が進められている。

構造をみる

3種類のモジュールを含む改変型TALエフェクター(PDB:3v6t)

表示方式: 静止画像

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異なる細菌が持つTALエフェクターを比較することにより、DNA中にある通常の塩基だけではなく、多少修飾された塩基も読み取れるモジュールが見つかった。各モジュールは2本のαらせんから成る小さな束でできている。モジュールの内側にあるアミノ酸がDNAのヌクレオチドと接触して塩基を読み取り、隣接するアミノ酸(ここでは表示していない)はヌクレオチドの適切な位置への配置を助けている。PDBエントリー 3v6t には、3種類のモジュールを含む改変型TALエフェクターの構造が含まれている。アスパラギン酸(aspartate、赤で示す部分)を持つモジュールは、シトシン塩基(cytosine)と特異的相互作用をする。しかしより小さなアミノ酸のグリシン(glycine、青で示す部分)はチミン塩基(thymine)の大きなメチル基ともよく相互作用をする。セリン(serine、緑で示す部分)はアデニン塩基(adenine)と結合を作る。更なる研究によって、残ったグアニン塩基(guanine)を読み取る別の分子が見つけられつつある。画像下のボタンをクリックして対話的操作のできる画像に切り替え、これらの分子および全体構造をより詳しく見てみて欲しい。

理解を深めるためのトピックス

  1. DNAに結合する前の改変型TALエフェクターの構造をPDBエントリー 3v6p で見ることができます。
  2. TALエフェクターを構成する各モジュールは2つのαらせんでできていて、その一方には小さなねじれがあります。これは2つのらせんをまとめるのに役立っています。TALエフェクターの構造に含まれるプロリン(proline)を全て表示して、ねじれの部分を見てみてください。各モジュールにはDNAの主鎖と非特異的に相互作用するリジン(lysine)とグルタミン(glutamine)も含まれています。どこにあるのか見つけてみてください。

参考文献

  1. D. Deng, C. Yan, J. Wu, X. Pan & N. Yan 2014 Revisiting the TALE repeat. Protein & Cell 5 297-306 10.1007/s13238-014-0035-2
  2. E. L. Doyle, B. L. Stoddard, D. F. Voytas & A. J. Bogdanove 2013 TAL effectors: highly adaptable phytobacterial virulence factors and readily engineered DNA-targeting proteins. Trends in Cell Biology 23 390-398 10.1016/j.tcb.2013.04.003
  3. T. Gaj, C. A. Gersbach & C. F. Barbas 2013 ZFN, TALEN, and CRISPR/Cas-based methods for genome engineering. Trends in Biotechnology 31 397-405 10.1016/j.tibtech.2013.04.004
  4. 3v6t3v6p D. Deng, C. Yan, X. Pan, M. Mahfouz, J. Wang, J. K. Zhu, Y. Shi & N. Yan 2012 Structural basis for sequence-specific recognition of DNA by TAL effectors. Science 335 720-723 10.1126/science.1215670
  5. 3ugm A. N. S. Mak, P. Bradley, R. A. Cernadas, A. J. Bogdanove & B. L. Stoddard 2012 The crystal structure of TAL effector PthXo1 bound to its DNA target. Science 335 716-719 10.1126/science.1216211

代表的な構造

3ugm: TALエフェクターとDNA
TALエフェクターは、1個のヌクレオチドを認識するモジュールを組み上げるというやり方で特有のDNA配列に結合する。この構造にはイネに感染する細菌によって作られるTALエフェクターと、それに結合した特異的配列を持つDNAが含まれる。
3v6t: 改変型TALエフェクターとDNA
TALエフェクターは、1個のヌクレオチドを認識するモジュールを組み上げるというやり方で特有のDNA配列に結合する。この構造には特有のDNA配列に結合した改変型TALエフェクターが含まれる。

この記事はRCSB PDBPDB-101で提供されている「Molecule of the Month」の2014年12月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧ください。

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