165: 人工設計されたタンパク質製の籠(Designed Protein Cages)

著者: David S. Goodsell 翻訳: 工藤 高裕(PDBj)
四面体型をしたタンパク質製の籠(上:PDB:3vdx、下:PDB:4egg)

科学者はタンパク質をいじくり回すことに長けていて、驚くべきことに、おもちゃのブロックのようにタンパク質を扱うことができる。細胞内で見られる天然のタンパク質は、安定で折り畳まれた構造をとるよう進化してきたが、現在の科学者たちはこれらの安定なタンパク質を合成できるだけでなく、新たな機能を持たせるような変更を加えることさえできるようになっている。この「新たな機能」の対象として、新たな酵素の設計、医薬としてより良い特性を持つようタンパク質を改変すること、そして希望する形と大きさを持つ大きな複合体を設計すること、などが挙げられる。

タンパク質の籠

新たな目的のため天然のタンパク質に手を加えて作られた産物の例をここに示す。トッド・イェーツ(Todd Yeates)らは、自然に集まってナノメートルサイズの籠を作るような改変タンパク質の設計に挑んだ。最終目標は「四面体」という明確な対称性を持った複合体を作ることで、薬剤を体内の目的とする場所に送り届けるなどのナノテクノロジーに応用することを目指したものであった。四面体型の対称構造を作るには、各構成部品に2種類の境界面が必要となる。頂点では3つが集まって形成される対称構造、辺では2つが集まって形成される対称構造が要求される。ここに示す分子は2種類の異なる方法で設計され作られたものである。

天然物を完璧につなぐ

最初の方法は、頂点と辺どちらの境界面も天然物に頼る、という方法で進められた。ブロモペルオキシダーゼ(bromoperoxidase、過酸化物を使って臭化物イオンを付加する反応を触媒する酵素)は通常3量体として存在するが、これを頂点部分に利用した。またM1ウイルスの基質タンパク質は通常2量体であることを利用し辺の部分に用いた。そして次に、この2つのタンパク質を正確に適切な対称性を持ってつなぐ必要があった。これは、2つのタンパク質の間に連続したαらせんを作り、両者が適切な配置で固定されるようにした融合タンパク質を設計することにより成し遂げられた。このタンパク質は、合成すると自発的に集まって中央に空洞がある籠のような形のタンパク質ができる。右図上に示す構造(PDBエントリー 3vdx)がその一例である。なお、各タンパク質サブユニット中にあって2つのタンパク質をつないでいる長いαらせんは、図中で少し色を薄くして表示し区別できるようにしてある。

最初から境界面込みで設計する

2つ目の方法は、最初から完全な2量体として構築するという進め方で、右図下に示すPDBエントリー 4egg はこちらの方法で作られたものである。デイビッド・ベイカー( David Baker)らは3量体の酵素ガラクトシド O-アセチル基転移酵素(galactoside O-acetyltransferase)を頂点に使い、3量体の各サブユニット間の境界面が安定となるよう変異を加えた。その結果、中央の空洞がより小さくなり、前のものよりコンパクトな四面体となった。

天然物から新たなものを作る

タンパク質の平面格子(PDB:3tom)

タンパク質の構成要素を用いて、あらゆる種類の構造が作られようとしている。例えばここに示す連続した平面格子は、PDBエントリー 3tom の構造で、通常単量体として存在するシトクロムタンパク質に手を加えて作られている。この手を加えたタンパク質には亜鉛イオン(赤色の部分)に結合するよう改変した部位がいくつかあり、この部分が各サブユニットを格子状につなげている。

構造をみる

立方体型をしたタンパク質製の籠(PDB:3vcd)

表示方式: 静止画像

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ロゼッタデザイン法(RosettaDesign method)を使って、自発的に集合して籠を作るタンパク質が2種類作られた。一つは先述の四面体型の構造で、もう一つがここに示す八面体型の構造(PDBエントリー 3vcd)である。この構造は細菌のタンパク質 PduT から作ったもので、通常は3量体として存在する。この新たな境界面は、立方体型構造の各辺がつながるよう設計された。この構造をより詳しくみるため、画像下のボタンをクリックして対話的操作のできる画像に切り替えてみて欲しい。

理解を深めるためのトピックス

  1. PDBjのGASHRASH、RCSBのCompare Structuresなどの構造比較ツールを使って、天然タンパク質と人工タンパク質の構造を比較することができます。
  2. 対称的な部品を使って巨大な構造を構築することの利点と欠点は何でしょうか?

参考文献

  1. 3vdx Y. T. Lai, K. L. Tsai, M. R. Sawaya, F. J. Asturias & T. O. Yeates 2013 Structure and flexibility of nanoscale protein cages designed by symmetric self-assembly. Journal of the American Chemical Society 135 7738-7743 10.1021/ja402277f
  2. 3vcd4egg N. P. King, W. Sheffler, M. R. Sawaya, B. S. Vollmar, J. P. Sumida, I. Andre, T. Gonen, T. O. Yeates & D. Baker 2012 Computational design of self-assembling protein nanomaterials with atomic level accuracy. Science 336 1171-1174 10.1126/science.1219364
  3. 3tom J. D. Brodin, X. I. Ambroggio, C. Tang, K. N. Parent, T. S. Baker & F. A. Tezcan 2012 Metal-directed, chemically tunable assembly of one- two-, and three-dimensional crystalline protein arrays. Nature Chemistry 4 375-382 10.1038/nchem.1290

代表的な構造

3vdx: 人工設計されたタンパク質製の籠
人工的に2つのタンパク質をつなげて作ったこの分子は、自発的に集まって四面体型の籠を作る。
4egg: 人工設計されたタンパク質製の籠
この四面体型の籠状構造は、天然タンパク質の一つブロモペルオキシダーゼの一部表面を改変し、タンパク質が自然に集まってこの構造をとるようにしたものでできている。
3vcd: 人工設計されたタンパク質製の籠
この八面体型の籠状構造は、天然タンパク質の一つ PduT の一部表面を改変し、タンパク質が自然に集まってこの構造をとるようにしたものでできている。

この記事はRCSB PDBPDB-101で提供されている「Molecule of the Month」の2013年9月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧ください。

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