86: エキソソーム(Exosomes)

著者: David S. Goodsell 翻訳: 工藤 高裕(PDBj)
エキソソーム(PDB:2nn6)

私たちの遺伝情報は各細胞にある核の中に安全に格納されている。ところが通常の細胞における活動の大半は核の外で起こる。タンパク質は細胞質で作られ、エネルギーはミトコンドリアで作られ、外部環境との相互作用は細胞表面で起こる。そのため核は細胞の残りの部分とやりとりする手段を持つ必要がある。その仕事をするのがRNA分子である。RNA分子は遺伝情報を核から合成と制御に必要な場所へと受け渡す。

特別配達

多くの場合、RNA分子は使い捨ての情報伝達媒体となる。遺伝情報は核内でDNAからRNAにコピーされ、然るべき位置へと届けられる。そしてRNAは破壊され、その構成要素であるヌクレオチドは次の伝達に再利用される。細菌の場合、通常のメッセンジャーRNAはたった数分しか持続しないが、私たちが持つより有益な伝達情報の中には何時間も持続するものもある。もちろん、この過程は注意深く制御されなければならない。まだ使えるRNA分子を破壊したくはないだろう。だからRNA破壊機械の精巧な集合体はRNA分子を通してより分け、もう役に立たないものを取り出して体系的に破壊するのである。

総合破壊

エキソソームはもう役に立たなくなったRNAを取り壊す分子の一つで、ここに示したのはヒト由来のPDBエントリー 2nn6の構造である。エキソソームの中心となる機構は樽のような形をしていて、内側にある溝の中にRNA切断機械が保護されている。この樽は青と紫で示した6つの異なるサブユニットで構成されている。それに緑で示した3つの追加サブユニットが手助けし、然るべきRNA分子だけが確実に複合体の飢えた口へと与えられるようにしている。破壊を制御するのに樽型を使った分子はなじみあるかもしれない。似た形は、もう役に立たなくなったタンパク質を分解するプロテアソームで使われている。

破壊の準備

左:脱アデニル化リボヌクレアーゼ(PDB:2a1s) 右:脱キャップ酵素(PDB:1st0)

エキソソームがメッセンジャーRNAに働きかける前に、いくつかの他の酵素がRNA鎖を攻撃し完全に分解するための準備を行う。最初の段階で行われるのは通常、多くのメッセンジャーRNAの末端を保護しているアデニンヌクレオチドの長い鎖を取り除く作業である。これは上図左に示すPDBエントリー 2a1sのような特有の脱アデニル化リボヌクレアーゼによって行われる。メッセンジャーRNAのもう一方の末端にはグアニンヌクレオチドが逆方向に付加された保護キャップがある。こちらは、上図右に示すPDBエントリー 1st0のような脱キャップ酵素によって除去される。

構造を見る

古細菌由来のエキソソーム(PDB:2c37)。6つのサブユニットが環状に並び、活性部位にはRNA分子が結合している。

右に示すPDBエントリー 2c37の構造は、古細菌から得られたエキソソームの構造である。二種類の似た型のサブユニットが6つ環状に並んでできているが、これは私たちの細胞にあるエキソソームよりは単純なものである。この構造の2つの活性部位にはそれぞれ小さなRNAの断片がある。活性部位がどのように中央の穴に面しているかに注目して欲しい。この構造を自分でみる時は生物学的単位(biological unit)のファイルを取得しているか確かめて欲しい。なぜならPDBファイル全体にはこの巨大な環が4つも含まれているのだから。

なお、遺伝的視点から見たエキソソームに関する追加情報が、欧州バイオインフォマティクス研究所(EBI)の「今月のタンパク質」で提供されている。

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エキソソームについてさらに知りたい方へ

この記事を書く際に用いた文献を以下に示します。

この記事はRCSB PDBPDB-101で提供されている「Molecule of the Month」の2007年2月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧ください。

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