80: AAA+プロテアーゼ(AAA+ Proteases)

著者: David S. Goodsell 翻訳: 工藤 高裕(PDBj)
AAA+プロテアーゼの1つHslUV(PDB:1yyf)

細胞内で安全に使えるタンパク質切断機械はどのようにして作られているのだろうか? トリプシン(trypsin、今月の分子46番)やペプシン(pepsin、今月の分子12番)のような消化性プロテアーゼは小さく効率的で、タンパク質まで行き渡り、切断を始める。この仕事は決して細胞内では行われない。細胞はよりしっかりと制御する必要があるため、単に要らなくなったり損傷したりしただけのタンパク質は破壊される。AAA+プロテアーゼ(AAA+ protease)がこの問題に対する1つの解決策を与えてくれる。この酵素は2つの方策を使ってある特定のタンパク質だけを破壊する。まず、閉じた入れ物の中にタンパク質破壊機械を隠す。そして、特殊なタンパク質ポンプを使ってこの破壊容器にタンパク質を取り込む。

熱ショック

現在、最も完全な構造のAAA+プロテアーゼはHslUV(熱ショック座位遺伝子の産物UとV Heat Shock Locus gene products U and V の略)と呼ばれる細菌のタンパク質である。ここに示したのはその一例、PDBエントリー 1yyfの構造である。このタンパク質は2種類のタンパク質サブユニットで構成されている。プロテアーゼサブユニット(青色)は中央にある中空の樽状構造の中に配置され、活性部位はこの筒の内部に隠されている。AAA+ ATPアーゼサブユニット(赤、橙色)は、ポンプを形成しタンパク質を中に取り込むことで、複合体両端から入ってくるものを制御している。HslUVは細胞が危険な水準まで熱せられた時に作られる数多くある熱ショックタンパク質の1つである。熱はタンパク質をほどいて無用な凝集を招く可能性があるため、熱ショックシャペロンとプロテアーゼは集まって熱損傷を受けたタンパク質に働きかけて、折りたたみ直して適切な型にしたり、廃棄したりしている。

プロテアソーム

私たちの細胞はHslUVよりももっと複雑な複合体「プロテアソーム」を作っている。この中心には、4つの環状プロテアーゼ複合体が積み重なってできた、更に大きな破壊容器がある。両端にはユビキチン(ubiquitin)が付加されたタンパク質を探すより複雑な機構があり、AAA+ ATPアーゼに似たものを使ってタンパク質を容器の中に入れる。この機構についてより詳しくは以前の「今月の分子」(60番、ユビキチン)を参照のこと。

AAA+ ATPアーゼ

上:細菌のAAA+プロテアーゼHslUV(左 PDB:1yyf、右 PDB:1g3i) 左下:膜輸送に関係するタンパク質複合体をほどくp97 右下:DNA2重らせんをほどくシミアンウイルス40のT抗原の一部(PDB:1svm)

HslUVのタンパク質ポンプは中央のチャネルを取り囲む6つのサブユニットでできている。上2つのHslUV(左 PDBエントリー 1yyf、右 1g3i)の構造を見ると、ATPの力で環の形に大きな変化が生じていることが分かる。これに似たプロテアーゼのClpXPは30個から80個のATP分子を使って(個数はタンパク質の安定性による)、100個のアミノ酸でできた鎖を引っ張って中央の穴を通す。AAA+と名付けられた環状のATPアーゼ(細胞の活動に関与するATPアーゼ)は細胞内で非常によく見られ、様々な同様の仕事に使われる。PDBでは、DNA2重らせんをほどくシミアンウイルス40のT抗原の一部(PDBエントリー 1svm)や膜輸送に関係するタンパク質複合体をほどくp97(PDBエントリー 3cf11r7r)やNSF(PDBエントリー 1nsf1d2n)のように様々な例が他にも見られる。モータータンパク質のダイニン(dynein)も動力源としてAAA+ ATPアーゼに頼っている。

構造を見る

細菌のAAA+プロテアーゼHslUV(PDB:1g3i)空洞中心が見えるよう手前のサブユニット2つを除去。上下の赤い部分はAAA+ ATPサブユニット、中央

右図のPDBエントリー 1g3iではAAA+プロテアーゼの異なる機能部分を見ることができる。この図では空洞内部の形状が見えるように、6つあるサブユニットのうちの2つを取り除いてある。AAA+ ATPアーゼサブユニットは上と下に赤で、その中にあるATPは緑色で示している。青で示したプロテアーゼの空洞中心には、赤紫で示した触媒性アミノ酸(1番残基スレオニンと33番残基リジン)がある。

タンパク質の環全体を見るには、生物学的単位見る必要がある場合もあることに注意してください。

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AAA+プロテアーゼについてさらに知りたい方へ

当記事を作成するに当たって用いた参考文献を以下に示します。

この記事はRCSB PDBPDB-101で提供されている「Molecule of the Month」の2006年8月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧ください。

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