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今月の分子


この記事はRCSB PDBPDB-101で提供されている「Molecule of the Month」の2002年7月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧下さい。

31: p53腫瘍抑制因子(p53 Tumor Suppressor)

著者: David S. Goodsell 翻訳: 工藤 高裕(PDBj)

細胞の守衛

p53腫瘍抑制因子(中央:4量化ドメイン PDB:1olg、四隅:転写促進ドメイン PDB:1ycq、4量化ドメインと各転写促進ドメインの間:DNA結合ドメイン PDB:1tup)

私たちの細胞は化学物質、ウイルス、イオン化した放射線など様々な危険と直面する。細胞がこれらの攻撃によって繊細な場所が損傷を受けると、影響は壊滅的なものとなりうる。例えば、重要な調節因子(regulatory element)が損傷を受けると、細胞成長において通常通りの制御できなくなり、細胞は急速に増殖して腫瘍になってしまう。この種の損傷に対抗するために私たちが持っている防衛手段の一つがp53腫瘍抑制因子(p53 tumor suppressor)である。通常p53腫瘍抑制因子はあまり見られないが、DNAの損傷が検知されると濃度が上昇して保護対策を始める。p53腫瘍抑制因子はゲノム上にある様々な制御部位(regulatory site)に結合し、損傷が修復するまで細胞分裂を止めるタンパク質を作り始める。あるいは、その損傷が深刻すぎる場合、p53腫瘍抑制因子はプログラムされた細胞死(アポトーシス)の過程を開始する。これにより細胞は自殺するよう指示され、損傷は恒久的に除去される。

部分ごとの構造

p53腫瘍抑制因子は4つの同じ鎖で構成される柔軟な分子である。柔軟な分子をX線結晶解析によって研究するのは難しい。なぜならそのような分子は規則正しい結晶を形成せず、そのように結晶化していない試料の実験画像はぼやけてしまうからである。そこでp53の研究は、柔軟領域を除去し、残りの安定な構造をつくる部分を3つの部分に分割して構造を解き研究が行われてきた。個々の安定構造部分は球状の形をしており「ドメイン」(domain)と呼ばれる。p53の中心にあるのは4量化ドメイン(tetramerization domain、PDBエントリー 1olg)があり、4本の鎖を1つにまとめている。この4量化ドメインは、各鎖の長い柔軟な領域を介して2つ目の安定ドメインである大きなDNA結合ドメイン(DNA-binding domain、PDBエントリー 1tup)とつながる。このドメインに含まれるアミノ酸残基は、DNAと相互作用するアルギニン(arginine)の割り合いが多くなっており、DNA上にある特有の制御部位を認識する。これまで研究された3つ目の安定ドメインは、各腕の末端近くで見られる転写促進ドメイン(transactivation domain、PDBエントリー 1ycq)で、DNAを読み取る機構を活性化する。

p53とがん

名前から想像できるように、p53腫瘍抑制因子は身体をがんから守る上で中心的な役割を果たすタンパク質である。がん細胞では主として2種類の変異が起きている。一つは制御のない成長や細胞の複製を引き起こす変異、もう一つは不自然な成長から保護する通常の防御を妨げる変異である。p53は後者の変異に関わるタンパク質で、ヒトにおけるがんのおよそ半分がp53遺伝子の変異によって生じている。このような変異の多くは、DNAの情報が1箇所変化しタンパク質鎖中のアミノ酸が一つ不正なものと入れ替わった誤りのあるp53を細胞に作らせてしまうミスセンス変異(missense mutation)である。この変異体p53では通常の機能が阻害されており、損傷を受けた細胞でタンパク質の複製を止めることができない。もし細胞が制御のない成長を引き起こすような他の変異を持っていれば、細胞は成長して腫瘍になってしまうだろう。

DNAを取り囲む

DNAに結合したp53腫瘍抑制因子(PDB:1tup、1olg、1ycq)

p53腫瘍抑制因子は4つの鎖それぞれが持つ腕全てを使ってDNAに結合する。分子全体の標準的な結合部位は3つの部分で構成されている。2つのp53ドメインにある特異的結合部位、0から13塩基対の可変な伸長部分、そして残り2つのp53ドメインにある2つ目の特異的結合部位の3つである。ここに示した図(PDBエントリー 1tup1olg1ycq)では、2つのp53ドメインがDNA鎖の上端付近に、残り2つが下端付近の同じ部位に結合する。4量化ドメインはDNAらせんの後ろ側にあって、p53の鎖4本全てを束ねようとしている。そして4つの転写活性化ドメインはDNAらせんに沿って伸びていて、DNAの読み取りに関係する隣接したタンパク質を活性化しようとしている。4つの腕全てをつなぐ柔軟な鎖は、p53の結合部位に様々な種類のDNAが結合できるようにし、ゲノムの様々な場所における転写が制御できるようにしている。

構造をみる

p53腫瘍抑制因子のDNA結合ドメインとDNA(PDB:1tup)

がんを引き起こすp53変異の多くはDNA結合ドメインに見られる。最も一般的な変異をここに示す。このPDBエントリー(1tup)は3つのDNA結合ドメインを持っているがそのうち1本(B鎖)だけを示している。変異はタンパク質のDNA結合表面内またはその周辺で見られる。最もよくある変異は248番残基のアルギニン(赤色で示した部分)における変異である。どのようにしてDNA(青と緑で示した分子)の小さい方の溝の中をくねって進み、強力で安定した相互作用を形成するのかに注目して欲しい。他のアミノ酸も変異すると、この相互作用は失われてしまう。変異すると大きな影響がある他の残基(175番、249番、273番、282番のアルギニン、245番のグリシン)はピンク色で示している。このうちのいくつかはDNAと直接接触し、残りは他のDNA結合アミノ酸の位置決めに関わっている。

2002年7月時点でPDBに登録されていたp53腫瘍抑制因子の一覧を[[mom:31_rel|こちら]]に掲載しています。

更に知りたい方へ

以下の参考文献もご参照ください。