243: 電位依存性ナトリウムチャネル(Voltage-gated Sodium Channels)

著者: David S. Goodsell 翻訳: 工藤 高裕(PDBj)

2つの視点から見た電位依存性ナトリウムチャネル。電位を検知する部分は赤紫で、補助サブユニットは緑で示す。また下の図では膜のおおよその位置を灰色の帯で示す。
2つの視点から見た電位依存性ナトリウムチャネル。電位を検知する部分は赤紫で、補助サブユニットは緑で示す。また下の図では膜のおおよその位置を灰色の帯で示す。 高解像度TIFF画像はこちら

ここに座ってこの記事を書いていると、私の神経系をさまざまな信号が流れ、話をどう始めていけばいいのかをまとめるのを助けてくれる。そしてあなたがこの言葉を読んで理解するときにも脳の中で同じことが起こる。神経刺激は神経系全体を猛烈な速さで駆け巡り、細胞から細胞へと信号が運ばれ、それが一緒になって思考を構成したり、行動を制御したりしている。これらのメッセージを送る方法にはいくつかの種類がある。神経伝達物質とAMPAR受容体などの受容体による複雑なしくみによって、ある細胞から次の細胞へとシナプスを越えて信号を伝えられる。一方、神経細胞の長い軸索(axon)に沿った信号伝播はそれに比べるとやや単純で、電位依存性ナトリウムチャネル(voltage-gated sodium channel)とそれを補佐するタンパク質によって行われる。

信号の波

軸索の膜にはたくさんのチャネルがあり、それらは膜の内外での電位差によって開閉している。電位差が大きいとこれらのチャネルは固く閉じているが、差が小さくなると少しの間だけ開き、ナトリウムイオンが膜を通れるようになる。信号を送るにはいくつかの簡単な手順が必要となる。まず、イオンポンプは細胞の外側にナトリウムをくみ出し、チャネルを閉じた状態にする電位差を生み出す。そして、膜を越えてナトリウムを流入させて内外の電位差を同じにする別種のチャネルによって信号はつくり出される。この過程により局所的な電位差が小さくなり、近くにあるナトリウムイオンチャネルが開く。そのチャネル周辺の電位も下がって、軸索のさらに下流にあるチャネルも開いていく。スポーツイベントのときにスタジアムで行われるウェーブのように、チャネルが開くという動作の波が軸索を伝っていき、最終的には次の細胞まで到達する。もちろん(生物学ではよくあることだが)、実際にはこれ程単純ではなく、カリウムチャネルやその他のタンパク質も波を改良するのに役立っている。

電圧の検知

私たちの電位依存性ナトリウムチャネル(ここに示すのはPDBエントリー6j8j)は膜を貫通する穴をつくる長いタンパク質鎖でできている。この穴の周りには電位の変化を検知する部位が4つ存在する。この他にもいくつか追加のサブユニット(緑で示す部分)があり、チャネルの作用を調節している。電位の変化を検知する部分には、正の電荷を帯びたアミノ酸のアルギニンやリジンをいくつか持ったらせん状の区間が含まれ、これが局所的な電圧に反応して穴を開閉する。

恐ろしい毒素

テトロドトキシン(中央にある緑で示す部分)とクモの毒素(黄色で示す部分)が結合した電位依存性ナトリウムチャネル。電位の変化を検知する部分は赤紫で示す。
テトロドトキシン(中央にある緑で示す部分)とクモの毒素(黄色で示す部分)が結合した電位依存性ナトリウムチャネル。電位の変化を検知する部分は赤紫で示す。 高解像度TIFF画像はこちら

ナトリウムチャネルは、私たちの脳と筋肉の間を行き来する信号をすべて伝送しているため、想像のつくように攻撃を受ければ影響が出やすい。さまざまな動物が、このチャネルの作用を阻害して麻痺を引き起こす小さな毒素をつくっている。ここに示す構造(PDBエントリー6a95)にはそのような毒素が二つ示されている。テトロドトキシン(tetrodotoxin)はフグをはじめとするさまざまな生物がつくる致死的な毒素で、チャネルの真ん中に結合して物理的に穴をふさいでしまう。一方、クモの毒素(黄で示す部分)は電位の変化を検知する部分に結合してその作用を阻害し、獲物を麻痺させる。これらの毒素はかならずしもすべてひどいものだとは言えない。なぜならナトリウムチャネルの働きをどのように調整すれば痛みや他の病気を抑えられるのかについてヒントを私たちに与えてくれるからである。

構造をみる

電位依存性ナトリウムチャネル

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最近より単純な型を持つ細菌由来のナトリウムチャネルで、電位で開閉するチャネルの開いた状態と閉じた状態のスナップショットがとらえられた。この細菌由来のチャネルは同じサブユニットが4つ集まり、私たちの細胞が持つ1本鎖でできたチャネルと似た構造をつくっている。電位が下がると電位の変化を検知する部分が動き、中央の穴につながる部分が引っ張られることをこの構造(PDBエントリー5vb86p6w)は示している。この動きをより詳しく見るため、図の下のボタンをクリックして対話的操作のできる画像に切り替えてみて欲しい。

理解を深めるためのトピックス

  1. クモ、サソリなどの有毒生物に由来する毒素の構造がこの他にも多数PDBに登録されています。その中には電位依存性ナトリウムチャネルに結合するものもあります。
  2. PDBには他の種類のイオンを通す電位開閉型チャネルの構造も登録されています。ナトリウムチャネルとはどこが違い、どこが似ているでしょうか?

参考文献

  1. 6j8j Shen, H., Liu, D., Wu, K., Lei, J., Yan, N. 2019 Structures of human Nav1.7 channel in complex with auxiliary subunits and animal toxins. Science 363 1303-1308
  2. 6p6w Wisedchaisri, G., Tonggu, L., McCord, E., Gamal El-Din, T.M., Wang, L., Zheng, N., Catterall, W.A. 2019 Resting-State Structure and Gating Mechanism of a Voltage-Gated Sodium Channel. Cell 178 993-1003
  3. Xu, L., Ding, X., Wang, T., Mou, S., Sun, H., Hou, T. 2019 Voltage-gated sodium channels: structures, functions, and molecular modeling. Drug Discov. Today 24 1389-1397
  4. 6a95 Shen, H., Li, Z., Jiang, Y., Pan, X., Wu, J., Cristofori-Armstrong, B., Smith, J.J., Chin, Y.K.Y., Lei, J., Zhou, Q., King, G.F., Yan, N. 2018 Structural basis for the modulation of voltage-gated sodium channels by animal toxins. Science 362 eaau2596
  5. 5vb8 Lenaeus, M.J., Gamal El-Din, T.M., Ing, C., Ramanadane, K., Pomes, R., Zheng, N., Catterall, W.A. 2017 Structures of closed and open states of a voltage-gated sodium channel. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 114 E3051-E3060

この記事はRCSB PDBPDB-101で提供されている「Molecule of the Month」の2020年3月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧ください。

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