207: 光活動性黄色タンパク質(Photoactive Yellow Protein)

著者: David S. Goodsell 翻訳: 工藤 高裕(PDBj)

ここに示す光活動性黄色タンパク質の構造は、ラウエ法による時間分割結晶構造解析によって解かれたもので、基底状態(上)と光によって励起された状態(下)の構造が半分ずつ含まれている。
ここに示す光活動性黄色タンパク質の構造は、ラウエ法による時間分割結晶構造解析によって解かれたもので、基底状態(上)と光によって励起された状態(下)の構造が半分ずつ含まれている。

タンパク質をみるとき、その動きの大半はきわめて小さく動作時間も短い。これは光に関係する分子反応のとき特に言えることである。この小さくて速い過程をみるためのより感度の良い実験方法が発明されてきた。光活動性黄色タンパク質(photoactive yellow protein、PYP)はそのような研究の対象とされてきたタンパク質の一つである。光活動性黄色タンパク質は紅色硫黄細菌にみられる小さな水溶性タンパク質で、青色光を感知する。大きくてよく回折する安定な結晶をつくるので研究対象として完璧であり、これを使うと原子レベルで何が起こっているのかを知ることができる。

光の検知

フェムト秒※1レベルの非常に速い速度で始まり約1秒で終わる光活動性黄色タンパク質の光サイクルには、分かれた数多くの連続ステップが関わっている。分子中の発色団が青色光を吸収し、分子はほぼまっすぐな配置(トランス型)から曲がった配置(シス型)へと変化する。この変化には1ピコ秒※1もかからない。この配向変化によって、細菌の泳ぐ方向を制御する他の光感知タンパク質が活性化すると考えられている。最後に、発色団は約0.5秒で元のまっすぐな型に戻り、次の青色光子を感知する準備が整う。

感知器をみる

光によって活性化された状態は1秒も続かないので、結晶構造解析で観察するのは難しくラウエ回折(Laue diffraction)のようなうまい方法を使う必要がある。通常、結晶構造解析では単一波長のX線が使われ、結晶を回転してデータを集め、多くの回折パターンを観察する。一方ラウエ法では、静止した結晶に対しシンクロトロンから出た多波長で構成されるX線を一度に照射する。これによりはるかに複雑な回折パターンが生成される。これには露光中得られたすべての回折斑点がこのパターンの中に含まれていて、一連のデータをより素早く得ることができる。ここに示す光活動性黄色タンパク質の構造(PDBエントリー2pyp)は、レーザーからの青色光を結晶に照射し、数ミリ秒後に複数波長のX線を短時間一気に照射してデータを集め決定されたものである。こうして、発色団とそれを取り囲むタンパク質が光を吸収した後どのように動くのかをみることができるようになった。

※1:この種の分子遷移に関することを議論するとき、より短い時間を表現するメートル法の用語がよく使われる。

水素をみる

重水素化された光活動性黄色タンパク質を中性子回折によって解いた構造に含まれる、水素原子(白)と重水素原子(青緑)の位置。
重水素化された光活動性黄色タンパク質を中性子回折によって解いた構造に含まれる、水素原子(白)と重水素原子(青緑)の位置。

光活動性黄色タンパク質のX線結晶解析構造から、発色団(p-クマル酸、4'-ヒドロキシケイ皮酸とも呼ばれる)がタンパク質分子の中にしっかりとらえられていることが分かった。一端はシステインと共有結合し、もう一方の端では2つのアミノ酸との間に通常より短い水素結合を形成している。この水素結合をより詳しくみるため、視点の異なる2つの手法〜X線回折中性子回折〜が使われた。X線結晶解析では分子構造の中で電子のある位置が見えるが、これは炭素、窒素、酸素などの重い原子の位置決定に役立つ。これは水素結合の距離測定にも有用で、光活動性黄色タンパク質における水素結合はPDBに登録されている構造の中で最も短いことがわかった。しかしほとんどの場合、X線結晶解析で水素は直接観察できない。一方、中性子は原子の核により回折するので、水素原子の位置情報も得られる。光活動性黄色タンパク質の中性子回折によって得られた構造(PDBエントリー2zoi)から、水素原子が発色団とグルタミン酸で共有された非常にまれな配置になっていることが明らかになった。この珍しい相互作用は、発色団の中にある電荷を持った酸素原子を安定化させるのに役立っているという説が出されている。

構造をみる

表示方式: 静止画像

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タンパク質の分子構造をより速くみる方法の開発が進められている。今のところ最も速いのは連続フェムト秒結晶構造解析(serial femtosecond crystallography、SFX)という方法である。X線自由電子レーザー(X-ray Free Electron Laser: XFEL)から出た非常に強力なX線の閃光をタンパク質の小さな結晶に当てると、その瞬間の回折パターンが生成され、この過程で結晶は燃え尽きてしまう。この方法を使って、発色団が光を吸収した後にトランス型からシス型に変化する瞬間がとらえられた。ここに示す構造は、照射後100〜400フェムト秒後の状態をとらえたものである。画像の下のボタンをクリックすると、この驚くべき構造の動画をみることができる。

理解を深めるためのトピックス

  1. 連続フェムト秒結晶構造解析」(serial femtosecond crystallography)で検索してみると、同じ手法で研究された他の吸光タンパク質をみることができます。この中にはバクテリオロドプシン(bacteriorhodopsin)や光化学系 III(photosystem I・II)などが含まれます。
  2. この他の感覚性タンパク質の多くが持っているドメインは光活動性黄色タンパク質が持つドメインと似ていて、これらをまとめてPASドメインと呼んでいます。例えば、光活動性黄色タンパク質とフォトトロピン(phototropin)の光感知ドメイン(PDBエントリー2z6c)との構造を比較してみてください(PDBjRCSB PDB)。

参考文献

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この記事はRCSB PDBPDB-101で提供されている「Molecule of the Month」の2017年3月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧ください。

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