204: PD-1(PD-1)

著者: David S. Goodsell 翻訳: 工藤 高裕(PDBj)

PD-1とリガンドPD-L1、PD-L2の相互作用の様子。細胞膜は模式的に灰色で示している。また構造データに含まれない部分も模式的に示している。
PD-1とリガンドPD-L1、PD-L2の相互作用の様子。細胞膜は模式的に灰色で示している。また構造データに含まれない部分も模式的に示している。

私たちの免疫系は強い制約の中で仕事をしている。侵入者と戦う必要はあるが、その時に私たち自身の細胞まで攻撃しないようにしなくてはならない。この戦いの大きな部分を占めているのが情報である。主要組織適合性複合体(major histocompatibility complex)が感染に関する情報を集め、その情報を免疫系の保護細胞の表面にあるT細胞受容体(T-cell receptor)に伝える。しかしこの情報に対する免疫応答は慎重にバランスを取って行う必要がある。そこでその他多くの分子がこの過程を調整し、必要に応じて主要組織適合性複合体とT細胞受容体の活動を刺激したり阻害したりしている。

免疫応答の阻害

いくつかのタンパク質がT細胞の働きを抑えるチェックポイントとして働き、必要な時にだけ働くようにしている。CTLA-4は、T細胞がまだリンパ節にいる間に成熟したかどうかをチェックしている。成熟すると次にPD-1(programmed cell death protein 1、プログラム細胞死タンパク質1)が働いて、体全体のT細胞を過剰に活性化させる。どちらもT細胞の表面で見られるタンパク質で、他の免疫系細胞によってT細胞が活性化された時に制御する。

接触

PD-1はT細胞表面から伸びていて、PD-L1PD-L2という似た2種類のリガンドタンパク質と相互作用する。侵入者からつくった抗原を提示する細胞など制御に関わる細胞の表面で見られる。細胞外部分の構造は既に得られており、これによりいずれも似た組み立て式の構造を持っていることが明らかになった。小さなドメインの組み合わせでできており、このドメインは抗体にみられるドメインと似ている(PDBエントリー3bik3bp5)。

がんとの戦い

PD-1と抗がん抗体ペンブモリズマブの相互作用
PD-1と抗がん抗体ペンブモリズマブの相互作用

がん細胞は非常にうまく免疫系から逃れる。悪性黒色腫(melanoma、メラノーマ)などのがんは、細胞表面にPD-L1を発現させて免疫系をだまし、T細胞を減少させることにより逃れていると考えられている。このようながんに対し、PD-1とPD-L1との相互作用を妨げることによりT細胞の機能回復を目指した新たな治療法が開発されている。そのような事例の一つペンブロリズマブ(pembrolizumab)をここに示す。これはPD-1に結合してPD-L1の結合部位を阻害する抗体である(PDBエントリー5jxe5dk3)。

構造をみる

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PD-1とそのリガンドタンパク質との相互作用を阻害するのに使える低分子を探す試みも行われている。最初の成功事例の一つがここに示す分子BMS-200(PDBエントリー5j89に含まれる6GX)である。この分子はPD-L1に結合して2量体を形成させる。これにより通常ならPD-1と結合する部位が阻害される。その様子をヒトのPD-1とPD-L1との複合体(PDBエントリー4zqk)の構造でみることができる。図の下のボタンをクリックし対話的操作のできる画像に切り替え、これらの構造をより詳しく比較してみて欲しい。

理解を深めるためのトピックス

  1. RCSB PDBのProtein Feature Viewを使って、これら分子を含むPDBエントリーをみることができます。例:マウスのPD-1
  2. NGLビュアーMolmilなどを使うとタンパク質とリガンドがどのように相互作用しているかをみることができるでしょう。例:BMS-202とPD-L1との相互作用

参考文献

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  2. 5jxe Z. Na, S. P. Yeo, S. R. Bharath, M. W. Bowler, E. Balkc, C. I. Wang & H. Song 2016 Structural basis for blocking PD-1-mediated immune suppression by therapeutic antibody pembrolizumab. Cell Research DOI:10.1038/cr.2016.77 PMID:27325296
  3. 5j89 K. M. Zak, P. Grudnik, K. Guzik, B. J. Zieba, B. Musielak, A. Domling, G. Dubin & T. A. Holak 2016 Structural basis for small molecular targeting of the programmed death ligand 1 (PD-L1). Oncotarget 7 30323-30335 DOI:10.18632/oncotarget.8730 PMID:27083005 PMC:PMC5058683
  4. 5dk3 G. Scapin, X. Yang, W. W. Prosise, M. McCoy, P. Reichert, J. M. Johnston, R. S. Kashi & C. Strickland 2015 Structure of full-length anti-PD1 therapeutic IgG4 antibody pembrolizumab. Nature Structural and Molecular Biology 22 953-958 DOI:10.1038/nsmb.3129 PMID:26595420
  5. 4zqk K. M. Zak, R. Kitel, S. Przetocka, P. Golik, K. Guzik, B. Musielak, A. Domling, G. Dubin & T. A. Holak 2015 Structure of the complex of human programmed death 1, PD-1, and its ligand PD-L1. Structure 23 2341-2348 DOI:10.1016/j.str.2015.09.010 PMID:26602187 PMC:PMC4752817
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  7. 3bik D. Y. Lin, Y. Tanaka, M. Iwasaki, A. G. Gittis, H. P. Su, B. Mikami, T. Okasaki, T. Honjo, N. Minato & D. N. Garboczi 2008 The PD-1/PD-L1 complex resembles the antigen-binding Fv domains of antibodies and T cell receptors. Proceedings of the National Academy of Science USA 105 3011-3016 DOI:10.1073/pnas.0712278105 PMID:18287011 PMC:PMC2268576

この記事はRCSB PDBPDB-101で提供されている「Molecule of the Month」の2016年12月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧ください。

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