199: モネリン(Monellin)

著者: David S. Goodsell 翻訳: 工藤 高裕(PDBj)

甘味タンパク質と味を修飾するタンパク質
甘味タンパク質と味を修飾するタンパク質

砂糖が甘いのには正当な理由がある。砂糖は細胞にとって素早く簡単に使えるエネルギー源なので、それを食べるとき幸せを感じるよう進化してきたのだ。私たちの味蕾みらい細胞には、砂糖に特化したセンサーがあって、砂糖を含む食物を食べたときに心地よい味を感じさせてくれる。しかし、このセンサーをうまくだます別の分子も存在する。この分子は甘さを感じさせてはくれるが、カロリーにはならない。この中には砂糖に似せたアスパルテーム(aspartame)などの人工低分子や、さまざまな甘味タンパク質が含まれる。

甘味タンパク質

モネリン(monellin、PDBエントリー3mon)、タウマチン(thaumatin、PDBエントリー1thv)、ブラゼイン(brazzein、PDBエントリー2brz)などの強い甘みのあるタンパク質がアフリカの植物から見つかっている。これらの小さなタンパク質は砂糖の100,000倍甘いので、ごく微量で同じ甘さが出せる。このタンパク質が最初に発見されたとき、砂糖分子に似た、少し拡張しただけの分子であろうと予想されていた。ところが構造を解いてみると、そんな姿はしていないことが分かった。くさびのように働いて、活性型構造をとる甘味受容体の動きを封じているのだと現在では考えられている。

味を変えるタンパク質

熱帯植物から見つかった別のタンパク質はさらに変わった性質を持っている。食べ物の味を変えてしまうのだ。ネオクリン(neoculin、PDBエントリー2d04)とミラクリン(miraculin、図示なし)は酸っぱい食べ物を甘い食べ物に変えてくれる。このタンパク質は酸性(=酸っぱい)環境で性質を変えるアミノ酸を持っていて、甘味受容体を刺激し、私たちに何か甘い物を食べたように思わせてくれる。グルマリン(gurmarin、PDBエントリー1c4e)は丁度逆の性質を持っている。砂糖の検知するのを妨げて甘みを抑えるので、甘い食べ物が全く甘く感じなくなる。

甘みの検知

モネリンの表面にあるアミノ酸(赤紫で示す部分)は甘みの検知にとって重要である。甘味受容体には糖を検知する割れ目があって、ここに結合すると考えられている。ただ、ここに示すのは甘味受容体そのものではなく、それに似たグルタミン酸受容体(青で示す部分)である。
モネリンの表面にあるアミノ酸(赤紫で示す部分)は甘みの検知にとって重要である。甘味受容体には糖を検知する割れ目があって、ここに結合すると考えられている。ただ、ここに示すのは甘味受容体そのものではなく、それに似たグルタミン酸受容体(青で示す部分)である。

私たちの甘みに関する味覚は、TIR2/TIR3と呼ばれる一種類の受容体によって制御されている。この受容体は、ここに示すグルタミン酸受容体(glutamate receptor、PDBエントリー2e4z4or2)と似た構造をしている。2つの部分で構成されていて、糖と結合する細胞外ドメインと、膜を貫通していて信号を細胞内に伝える標準的なGPCRドメインがある。モネリンなどの甘味タンパク質は、低分子の糖が結合する部位の周りにある大きな割れ目に結合し、受容体に糖が結合したように思わせているのだと考えられている。

構造をみる

天然型モネリン(PDBエントリー 3mon)と1本鎖モネリン(PDBエントリー 1mol、1fa3)

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モネリンは非常に甘みが強いので、優れたダイエット食品となり得る。なぜなら微量使うだけで済むからである。ところが、熱するとその甘さは急速に失われるので、加熱を伴う料理には適していない。この問題を解決するため、モネリンが持つ2つの鎖を1本につなげた熱にも安定な型がつくられた。図の下のボタンをクリックし、対話的操作のできる画像に切り替えると、天然型のモネリン(PDBエントリー3mon)と2種類の1本鎖型モネリン(PDBエントリー 1mol1fa3)をみることができる。

理解を深めるためのトピックス

  1. タウマチンは扱いやすく簡単に結晶ができるので、新たなタンパク質結晶化法を開発するときの試験系でよく使われます。タウマチンで検索し、その使われ方を見てみてください。
  2. タンパク質のリゾチーム(lysozyme)やマビンリン(mabinlin)も甘い味がしますが、ここで紹介したタンパク質ほど甘くはありません。これらの構造も検索し、見てみてください。

参考文献

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この記事はRCSB PDBPDB-101で提供されている「Molecule of the Month」の2016年7月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧ください。

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