197: ジカウイルス(Zika Virus)
ジカウイルス(zika virus)は1947年にウガンダのジカ森にいた感染サルから発見された。ただこれだけなら期待に反し、蚊によって媒介される他の熱帯性ウイルスと同様にウイルス学上はっきりしない点は残ったままになっていただろう。しかし最近世界中の国々でこのウイルスが広まる中、先天異常と関係があるとの証拠が出てきて、ジカウイルス研究が改めて重要視されてきた。
ジカウイルスの研究
クライオ電子顕微鏡(cryo-electron microscopy、低温電子顕微鏡)を使って原子レベルの解像度に近いジカウイルスの構造が初めて解かれた(PDBエントリー5ire)。ウイルスは感染者から単離され、細胞培養によって増殖されたものである。1万枚以上のウイルス画像を並べ、電子密度マップを組み立てた結果、ウイルスの表面には2種類のタンパク質〜外被タンパク質(envelope (E) protein)と膜タンパク質(membrane (M) protein)〜が折りたたまれていることが明らかになった。EMデータバンク([[EMDB:8116]])でそのマップをみることができる。
正二十面体のタイル
この構造決定により、ジカウイルスはデングウイルス(dengue virus)や西ナイルウイルス(West Nile virus)など他のフラビウイルス類と似ていることが明らかになった。外側表面には、外殻タンパク質をぎっしり敷き詰められて被膜を形づくっている。またこのクライオ電子顕微鏡による構造から、このタンパク質の表面にあるアスパラギンアミノ酸が糖修飾されている(glycosylated)ことも分かった。ジカウイルスは、この糖を細胞の表面にある糖受容体に結合させて、感染先細胞を見つけていると考えられている。
内側をみる
構造が解かれたとき、マップデータは正二十面体型の対称性に基づいて平均化され、表面タンパク質の画像はよりくっきりしたものになった。一方分子の内側については、正二十面体の対称性がないにも関わらず外側と同じ平均化処理が適用されたため、詳細情報が失われてしまった。だが、他のウイルス研究に基づき、どのようなものであるのかを推測することはできる。外被タンパク質と膜タンパク質は、ウイルスが感染先細胞から出てくる時に細胞から盗んできた膜の中に埋もれている。この中に、1本鎖のウイルスRNAが多くのカプシドタンパク質と絡み合っている。このカプシドタンパク質は、感染先細胞にくっつき感染する過程でRNAを導く役割をしている。
構造をみる
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クライオ電子顕微鏡で得られた原子レベルの分子構造には、外被タンパク質(赤)と膜タンパク質(赤紫)が含まれている。ウイルス全体はこれらのタンパク質が180個ずつ含まれるが、ここに示しているのはそのうちの1組だけである。どちらのタンパク質も膜に埋もれたループ領域を持っている。また、糖鎖の先端にある糖2つも含まれている。画像の下のボタンを押して対話的操作のできる画像に切り替えると、この構造をより詳しくみることができる。
理解を深めるためのトピックス
参考文献
- 5ire 2016 The 3.8 A resolution cryo-EM structure of Zika virus. Science DOI:10.1126/science.aaf5316
- 2012 Degrees of maturity: the complex structure and biology of flaviviruses. Current Opinion in Virology 2 168-175
- 2005 A structural perspective of the flavivirus life cycle. Nature Reviews Microbilogy 3 13-22