174: GFP様タンパク質(GFP-like Proteins)
20年前、生きた細胞の中でタンパク質がどこにあるのかを明らかにするために緑色蛍光タンパク質(GFP)が初めて用いられた。そしてそれ以来、GFPは細胞生物学者にとって大変貴重な道具となっている。GFPは小さく安定で明るい蛍光を発するタンパク質である。GFPをコードする遺伝子を細胞に加えGFPを作らせることができるが、紫外線を当てると蛍光を発する発色団を分子内に作るため、細胞のエネルギーは消費しない。そして、恐らく最も重要なことなのだが、GFPは他のタンパク質に取り付けることができ、しかもその時に取り付け先タンパク質が持つ通常の機能をかき乱すことがない。これは視認性の高いタグとなり、目的のタンパク質がある場所を細胞全体で追跡することができる。
色域の拡張
GFPが役に立つことが明らかになると、これを更に改良し機能を拡張する方法の探索がすぐに行われた。この試みの主な目的は蛍光の色を変えることであり、これが可能になると細胞内の異なるタンパク質をそれぞれ別の色で視覚化することができる。まず天然のもので探索が行われ、別の生物から異なる色の光を発する蛍光タンパク質が発見された。そのうちの一つdsRED(PDBエントリー 1g7k)をここに示す。これはサンゴの一種から発見されたものである。名前が暗示しているように、このタンパク質は赤い光を放つ。
ひどい弊害のある4量体
最初に見つかったGFPはクラゲから得られたもので、全くの偶然によるものであった。この蛍光タンパク質は天然ではあまりないタイプのもので、通常の条件下では単量体で機能する。この性質は細胞生物学者にとって最適なものである。なぜなら蛍光ラベルが望まない凝集を引き起こすという問題に悩まされずに済むからである。ところが、dsREDは4量体である。例えば、dsREDをアクチンに付加すると、4つのアクチンサブユニットを凝集させ、細胞内に厄介なもつれを作ってしまう。このような短所の存在が、dsREDに修正を加える集中的な研究活動が行われるきっかけとなった。天然では4量体として存在するこの蛍光タンパク質に修正を加え、希望する色で明るい蛍光を発する機能は維持したまま単量体で機能するよう改変が試みられた。
蛍光の虹
幸いなことに、単量体の蛍光タンパク質を作る研究は非常にうまくいって、現在では虹の色全ての中から好きな色を選ぶことができるようになっている。左図に示すのは、現在PDBに登録されている蛍光タンパク質の例(PDBエントリー 3m24、2q57、4ar7、2y0g、1huy、2h5o、2h5q)である。これらのタンパク質は全てGFPと似ていて、いずれもβバレル構造(βシートでできた筒状の構造)が分子の中心にある自己組織化した発色団を取り囲むという共通の構造を持っている。しかし、各色の発色団は少しずつ異なり、発色団を取り囲むアミノ酸が更に放出する光に調整を加える。
構造をみる
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これらの蛍光タンパク質は、たくさんの巧みな方法で利用されている。例えば、タンパク質相互作用の研究を行う際、GFP分子を2つに分割し、断片を一つずつ研究対象のタンパク質に付加することができる。細胞内で2つのタンパク質が近づくと、GFPの断片が集まって光り出す。ここに示す構造(PDBエントリー 4kf5)は分割されたGFPの一例で、この場合は構造を決定するためにタンパク質を結晶化するのを助ける一つの方法として用いられた。GFPに含まれる2つのβ鎖断片が目的のタンパク質(この場合はsfCherry、赤で示す部分)に付加され、この2本の鎖(緑で示す部分)が欠落したGFPが作られる。人工的な改変を加えた2つのタンパク質が一緒になって相互作用をした時、GFPの断片2つが合わさり、機能する蛍光タンパク質にsfCherryの荷物がついた状態になる。図の下のボタンをクリックして対話的操作のできる図に切り替え、この改変を加えた複合体を見てみて欲しい。
理解を深めるためのトピックス
参考文献
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代表的な構造
- 1g7k: dsRed
- dsRedはサンゴから得られたタンパク質で、GFPに似ているが赤い蛍光を発する。