107: 機械受容チャネル(Mechanosensitive Channels)

著者: David S. Goodsell 翻訳: 工藤 高裕(PDBj)

機械受容チャネル MscS(PDB:2oau)

私たちは周辺環境の変化に対して非常に抵抗力がある。私たちの大きな身体は暑さや寒さの危機を切り抜けられるようにし、皮膚は淡水塩水どちらにも泳ぎに行けるよう保護してくれている。もしあまりにも不快になれば、いつでも立ち上がってそこを立ち去り、より暖かい場所、涼しい場所、乾いた場所を見つけに行くことができる。一方細菌にはそれほど多くの選択肢はない。細菌は小さくて水に浸っているので、環境が変化すると細菌を生命を脅かす課題にさらされることになる。例えば、もし雨が降れば突然淡水に囲まれるかもしれない。これは危険なことである。なぜなら水は浸透作用によって細胞内にしみこみ、内圧が上昇してしまうからである。また別の場合、細菌は突然塩辛い環境に移動してしまうかもしれない。そうなると細胞内の水は押し出され細胞は脱水状態に陥る。ところが、細菌はこのような変化に抵抗する手段を持っているので、一定した快適な細胞内浸透圧の環境を維持することができる。

圧力の下で

細菌は細胞内の分子濃度を変化させることで内圧を制御している。塩分濃度の高い条件に置かれると、イオンを細胞内に取り込んでより分子量の小さい分子をつくって脱水に抵抗する。一方、純水内に置かれると細胞内のイオンや低分子物質の濃度を下げなければならない。そんなときは、口を開いて低分子物質を排出する機械受容チャネル(mechanosensitive channel)が用いられる。例えば、実験室における試験によると、淡水に置かれた細胞はアミノ酸、糖、カリウムイオンなどの低分子物質の95%以上が急速に失われる。ところが、タンパク質やリボソームは安全に細胞内で保持されるので急速に回復し、環境が通常に戻った後数分もすればタンパク質合成を再開できる。

圧力値

機械受容チャネルは細胞の内圧に反応し、危険な水準になると口を開く。このタンパク質は膜の性質の変化をみることで圧力を検知している。膜が高い内圧によって引き延ばされると、それが引き金となってチャネルを開く構造変化を引き起こす。細胞にはいくつかの異なる圧力で開くチャネルが存在する。ここに示した MscS チャネル(PDBエントリー 2oau)は低く適度な圧力で開き、一方後に示すチャネルはより高い圧力で開く。

小さなチャネル

MscS は透過性の小さい機械受容チャネルで7つの同じ鎖が並んで管を形成している。その一部分は膜を貫通し、直径約13Åの圧力感受性の穴を形成している。その穴は低分子やイオンが通るのに十分な大きさがある。細胞質部分(図の下端)は穴を塞ぐふたを作っていて、穴を開いた時に入ってくることのできる分子の大きさを制限する控え室になる。

大きなチャネル

機械受容チャネル MscL(PDB:2oar)

MscL(PDBエントリー 2oar)は MscS よりも透過性が大きい機械受容チャネルで、細胞が破裂しそうなぐらい圧力が高まるという緊急事態になると働く。穴の直径は先ほどより大きく30〜40Åある。5つの同じ鎖で構成されており、細胞膜が強く引き延ばされるとカメラの絞りのように開く。ここに示した構造は閉じた構造である。このチャネルの開いたモデルを見るには、プロテオペディアを参照のこと。

構造をみる

MscS(左:閉じた構造 PDB:2oau、右:開いた構造 PDB:2vv5)

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MscS の構造は2つのPDBファイルで見ることができる。閉じた構造は左(PDBエントリー 2oau)に、開いた構造は右(PDBエントリー 2vv5)に示している。どちらも穴を見下ろした図である。白い球で示した各鎖それぞれにある2つのロイシンアミノ酸が円形の入口を形成し、それが閉じた型では物質の通行を妨げている。このようなアミノ酸の環は開いていて物質が通れるように見えるかもしれないが、これらのアミノ酸は疎水性が強いので実は水分子の動きを妨げている。このように水で湿るのに抵抗することから、この環は「蒸気の封印」(vapor seal)と呼ばれている。

こちらをクリックすると、Blast配列検索(2OAU:A)による最新のMscSに関連するエントリー一覧を見ることができます。そのページの左メニューにある "Tabulate" を使って様々な表示形式に変更することもできます。

理解を深めるためのトピックス

  1. 他にも同じタンパク質サブユニットが集まって管を形成している膜チャネルがあります。他の事例をPDBで見つけることができますか?
  2. カリウムチャネルは高い特異性があり、カリウムイオンだけを通します。一方機械受容チャネルは様々なイオンや低分子物質を通します。構造のどういった点がこの機能的性質の違いを生んでいるのでしょうか。

参考文献

当記事を作成するに当たって参照した文献を以下に示します。

この記事はRCSB PDBPDB-101で提供されている「Molecule of the Month」の2008年11月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧ください。

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