106: ポリAポリメラーゼ(Poly(A) Polymerase)

著者: David S. Goodsell 翻訳: 工藤 高裕(PDBj)

酵母のポリAポリメラーゼ(PDB:1fa0)

細胞内にあるRNAのほとんどはDNAゲノムを鋳型にして作られる。ところが特別な場合、私たちの細胞は鋳型なしでもRNA鎖を作る。例えば、ほとんどのメッセンジャーRNA(伝令RNA)の末端は長いアデノシン(adenosine)ヌクレオチドの繰り返しでできている。この長いポリA(アデノシン)の尾はゲノム情報を含んでいない。この部分はRNAポリメラーゼが通常の転写過程を終わらせた後に付加されるものである。RNAポリメラーゼがRNA鎖を放した後、他の酵素が最終処理のための接触を行い、イントロン(intron)が除去され、前にはキャップが、後ろには長いポリAの尾をが付加される。

尾の端っこ

何十種類もの酵素で構成される複合体が、メッセンジャーRNA分子の末尾にポリAが形成されるのを監視している。RNAの末端にある特有の配列がこの複合体を然るべき場所に取り入れる。そしてRNA鎖は切断され、約250個のアデノシンヌクレオチドが新たにできた末端に付加される。このポリAの尾を作るのに関わっているのがポリAポリメラーゼで、その構造は、PDBエントリー 1f5a(ウシ)やPDBエントリー 1fa0(酵母)で見ることができる。ここに示したのは後者の酵母由来ポリAポリメラーゼの構造である。この酵素は2個のマグネシウムイオンの助けを借りてメッセンジャーRNAと結合し、RNA鎖の末端へ一度にまとめてアデノシンヌクレオチドを付加する。

頭としっぽ

ポリAの尾はメッセンジャーRNA分子の機能に重要な役割を果たしている。ポリA結合タンパク質(次節の図)の助けを借りてRNA鎖の末端を保護し、RNAを切断するヌクレアーゼから守っている。また、メッセンジャーRNAが核孔を通って核から出て行くのも助けている。驚くべきことに、メッセンジャーRNAの末尾にあるポリAの尾が、RNA鎖の先頭にある翻訳開始因子の発動を助けることによりタンパク質合成の開始を促す働きもしている。これについて、実際はポリA結合タンパク質がRNA鎖の両端をつなげて大きな環にしていると考える研究者もいる。この考えは極めて有用な結果につながりうる。なぜなら、メッセンジャーRNAの先頭が末端と非常に近い位置にあれば、リボソームはタンパク質合成が終わった後すぐに再びタンパク質を作り始められるからである。

ポリ(A)結合タンパク質

ポリA結合タンパク質(青がタンパク質、橙がRNA、PDB:1cvj)

ポリA結合タンパク質は、核の中でメッセンジャーRNAが合成されるとすぐにポリAの尾に結合し、役割を終えるまでずっと付き添う。このタンパク質は4つの似たドメインで構成され、まっすぐ伸びた約27個のRNAヌクレオチドに結合する。ここに示したのはPDBエントリー 1cvjの構造で、最初の2ドメインと小さなRNA断片(橙)だけが含まれている。

構造をみる

ポリAポリメラーゼ(PDB:2q66) 青はタンパク質、黄色はRNA、赤はATP、緑はマグネシウムイオン、赤紫は154番目のアミノ酸アラニン(元来アスパラギン酸であるものが変異している)

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ポリAポリメラーゼはATPに対して高い特異性を持っているが、このATPはほとんどのRNA鎖でポリAの尾を作るのに使われる。PDBエントリー 2q66 の構造はポリAの尾を作っている途中の酵素をとらえたものである。この酵素は、黄色で示したポリA RNAの短く伸びた辺りをつかんで固定する。赤で示したATP分子は、緑で示したマグネシウムイオン(magnesium ion)によって完全に位置が決められている。ところがこの構造に含まれる酵素は変異が加えられているため、反応を行うことができない。154番目のアミノ酸は通常アスパラギン酸(aspartic acid)で、もう1つのマグネシウムイオンを配位させて反応を行う。ところがこの構造ではそのアスパラギン酸がアラニン(alanine 赤紫)に変化しており、触媒作用を持つマグネシウムイオンがなくなっている。

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理解を深めるためのトピックス

  1. ポリAポリメラーゼは高い柔軟性を持っていて、仕事を行う際開いたり閉じたりします。例えば、開いた状態を示したこの記事の最初の図と、閉じた状態を示した「構造を見る」の図を比較してください。なぜこの柔軟性が重要で、どのような構造的特徴がこのタンパク質を柔軟にさせているのでしょうか?
  2. この鋳型に依存しないポリメラーゼと、鋳型を使うポリメラーゼ(DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼなど)と比較して、構造的または機能的な類似点が分かりますか?

参考文献

当記事を作成するに当たって参照した文献を以下に示します。

この記事はRCSB PDBPDB-101で提供されている「Molecule of the Month」の2008年10月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧ください。

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