99: カドヘリン(Cadherin)
私たちの身体は何兆個もの細胞からできていて、その全てが一緒になって働くことで生命を維持している。そして、一緒になるためには多くの「基盤構造」が必要となる。この「基盤構造」は多くの階層構造をとっており、大きな構造としては骨や腱がある。細胞間の空間は、丈夫な綱はシートの集まりでできている結合組織で埋められていることが多い。更に、密接した細胞サイズレベルの「基盤構造」は、隣接する細胞を直接接着するのに使われる。
接着タンパク質
カドヘリン(cadherin)は細胞を接着させる分子の一つである。細胞表面から長く伸びた構造をしている(右図)。その細胞外部分は、一連の折りたたまれたドメインが並んだ構造をしており(PDBエントリー 1l3w)、各ドメインにはカルシウムイオンが結合して全体構造を強固なものにしている。カルシウムイオンを取り除くと、この構造は柔らかくなり、タンパク質切断酵素によって簡単に破壊されてしまう。鎖の末端には特徴的なアミノ酸であるトリプトファン(右図上部にある赤色で示した部分)があって、これが隣の細胞に結合し、2つの細胞を接着させている。
カドヘリン分子の尾部は細胞膜(右図の四角い灰色で示した部分)と交わり、カテニン(catenin)タンパク質によって細胞骨格とつながっている。β-カテニン(右図下部の青い部分、PDBエントリー 1i7x)はカドヘリンの小さな尾部に結合して、細胞内部でぶら下がっている。ここには示していないα-カテニンは、β-カテニンとアクチンフィラメントの両方に結合する。
選択的接着性
カドヘリンには様々な種類があり、作り出す細胞の種類によって種類は異なっている。その違いはわずかなものであるが、相手を認識してしかるべき相手に対してのみ突き出している。例えば、ここに示したものは表皮細胞によって作られたものである。これらのカドヘリンは、それぞれ胚発生において重要な役割を果たす。成長中の細胞がしかるべき場所を認識し、その場所に定着するようにしむけている。胚の段階では、各細胞の接着は弱く自ら適切な場所へと移動していくが、その後組織の成熟すると各細胞間の接着は強められる。
細胞の接着
カドヘリン分子は集まって側面同士が接着し、接着結合と呼ばれる大きな「つなぎ」を形成する。しかし、この結合においてカドヘリンがどのように並ぶのかは未だ議論されているところである。電子顕微鏡で構造を見ると、試料をどのように作ったかによって異なる形状を示す。ある方法では、カドヘリン同士が対称的に規則正しく並んだ配列を示し、隣接細胞の似た配列に接着する。また別の方法では、大きな鎖のもつれが見られ、届く範囲にある鎖なら何でも接着してしまう。ここに示したのはその両方の構造である。上図左側の分子は、X線結晶解析によるもので対称的な構造が示されている(PDBエントリー 1l3w)。上図中央と右の分子は、電子顕微鏡を使い原子構造を当てはめて得られたモデルである(PDBエントリー 1q5a、1q5c)。このモデルでは鎖の並び方がよりランダムになっていることが分かる。
構造を見る
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2つのカドヘリンタンパク質の接着結合は、一方の分子中にあるトリプトファン(上図の赤と黄色の球)が伸びてもう一方の分子にあるくぼみに結合した時に形成される。その状態の構造はPDBエントリー 1l3w で見ることができる。上図を見ると、3つのカルシウムイオン(緑の球)がドメインの間にあることが分かる。これが構造全体を安定化させている。なお、このエントリーで対話的に操作して構造を見るには、少し面倒な操作が必要となる。というのは、2つ目の分子構造を見るには、結晶構造の変換(Y軸に関して180°回転、すなわち座標を -x, y, -z としたもの)が必要だからである。より簡単に構造を見るには、PDBエントリー 1nciの方が適している。このエントリーには、2つの分子の末端ドメインの情報だけが含まれている。
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カドヘリンについてさらに知りたい方へ
以下の参考文献もご参照ください。
- S. Pokutta and W. I. Weis 2007 Structure and Mechanism of Cadherins and Catenins in Cell-Cell Contacts. Annual Review of Cell and Developmental Biology 23 237-261
- J. M. Gooding, K. L. Yap and M. Ikura 2004 The Cadherin-Catenin Complex as a Focal Point of Cell Adhesion and Signalling: New Insights from Three-dimensional Structures. BioEssays 26 497-511