24: グリコーゲンホスホリラーゼ(Glycogen Phosphorylase)

著者: David S. Goodsell 翻訳: 工藤 高裕(PDBj)

グリコーゲンホスホリラーゼ(PDB:6gpb)

休暇の季節ではそんなことはないかも知れないが、私たちは一日中食べ続ける必要はない。私たちの細胞には糖などの栄養物を継続的に供給する必要があるが、幸い私たちの身体は食事中に糖分を蓄え、残りの日々に備える仕組みを持っている。糖はグリコーゲン(glycogen)に蓄えられる。これは最大1万個のぶどう糖(glucose)分子がつながって枝分かれのある鎖の密な球体となった巨大分子である。筋肉には日々の活動の動力を供給するための、肝臓には神経系やその他の組織に昼夜を通して養分を供給するための、十分な量のグリコーゲンが蓄えられられている。

甘党の酵素

糖(sugar)はグリコーゲンホスホリラーゼ(glycogen phosphorylase)酵素によってグリコーゲンから切り出される。この酵素はグリコーゲン顆粒の表面にある鎖からぶどう糖を切り出す働きをする酵素で、2つの同じサブユニット(緑と青、PDBエントリー 6gpb)からできた2量体となっている。右図上の分子では、赤で示す2つのヌクレオチドが酵素の深い割れ目に中にある活性部位に結合している。また、黄色い分子はグリコーゲン鎖の末端に似た短い糖鎖で、酵素がグリコーゲン分子をつかむのに使う別の割れ目に結合している。この切断反応において、グリコーゲンホスホリラーゼはリン酸分子を糖にくっつけ、切り出すことができるようにしている。そして次に、ホスホグルコムターゼ(phosphoglucomutase)が糖分子内におけるリン酸の位置を隣の炭素に移し、解糖系(glycolysis)に糖の分解に備える。

適量の維持

ご想像の通り、この過程は非常によく制御されている。グリコーゲンに蓄えられた糖の出入りは血液中のぶどう糖濃度の制御に用いられるので、グリコーゲンホスホリラーゼは糖が必要な時に活性化し、糖が豊富になると素早く不活性化する必要がある。この制御はいくつかの方法で行われる。まず、酵素はセリン(serine、14番目のアミノ酸)にリン酸分子が付加されることで活性化される。このセリンは酵素の後ろ側にあって、右図下では鮮やかな緑と青で示している。このリン酸の結合によって酵素の形状は大きく変化し、活性型へと変化する(変化後の形は後に示す)。2つの特別な酵素がこのリン酸の付加と脱離を制御しているが、これはインスリン(insulin)やグルカゴン(glucagon)、あるいはエピネフリン(epinephrine、アドレナリン adrenaline ともいう)のように糖を監視するホルモンの濃度に基づいて行われている。

また、他の分子が結合することによっても分子の活性を調整することができる。例えば、AMP(アデノシン1リン酸 adenine monophosphate、右図下の赤い部分)は酵素の背後にある別の部位に結合して、リン酸が結合した場合と同じく活性型へと変化させる。AMPはATPの分解産物であり、エネルギーが不足しより多くの糖が必要な状況下でより豊富に存在するため、AMPが使えるのは役に立つ。

形状の変化

グリコーゲンホスホリラーゼ(左:不活性な状態T PDB:8gpb、右:活性のある状態R PDB:1gpa)

グリコーゲンホスホリラーゼは形状の変化によって活性化される。上図左に示すのは不活性なT状態の構造(PDBエントリー 8gpb)、右に示すのは活性状態にあるR状態の構造(PDBエントリー 1gpa)である。最初の図に比べると、この図は側面から見ていることになり、活性部位は左側に来ている。(「T」は締まった状態(Tense)の、「R」は緩んだ状態(Relaxed)の頭文字を取ったもので、この表記法は最初にアロステリック酵素(allosteric enzyme、活性を制御する部位が活性部位とは別に存在する酵素)が研究される時に作られた。このような構造における緊張・弛緩という考え方は分子レベルではあまり当てはまらないことが示されているにも関わらず、現在でもこの用語は使い続けられている。)この両状態の間の形状変化は、14番残基セリン(serine)のリン酸化や、制御部位へのAMP結合によって調整されている。ここに示すR状態の構造では、セリン(ピンク色の部分)にリン酸が付加され、制御部位中にある硫酸基にはAMP(黄色の部分)が結合している。

構造をみる

酵母のグリコーゲンホスホリラーゼ(PDB:1ygp)

グリコーゲンはヒトから酵母(yeast)に至るまで様々な生物によって利用されている。酵素に関する科学的研究の多くはウサギ(rabbit)のグリコーゲンホスホリラーゼを使って行われており、最初の2図もウサギ由来のものを示している。上図に示す酵素由来の酵素(PDBエントリー 1ygp)を見ると、ウサギ由来のものとは少し違っていることが分かるだろう。この構造には2つのタンパク質鎖(青と緑)および数個の低分子が含まれている。PLPと記された分子はピリドキサールリン酸(pyridoxal phosphate)補因子で、活性部位に強く結合し反応を補佐するのに用いられる反応性分子である。リン酸(phosphate)は「スレオニン」(threonine)に隣接した位置で各サブユニットに結合する。スレオニンは制御に用いられる重要なアミノ酸で、ウサギ由来の酵素における14番残基のセリンと似たアロステリック変化(活性制御を行う構造変化のうち活性部位以外の部位へのエフェクター分子結合によるもの)を制御する。この酵素を見る際、どのようにして2つのタンパク質鎖が互いに手を伸ばし相手を包み合っているかに注目して欲しい。これによって制御に使われる小さな形状変化に反応したとき、2つのサブユニットは共同して働くことができる。

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グリコーゲンホスホリラーゼについて更に知りたい方へ

以下の文献も参照してください。

この記事はRCSB PDBPDB-101で提供されている「Molecule of the Month」の2001年12月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧ください。

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