231: 麻疹ウイルスタンパク質(Measles Virus Proteins)

著者: David S. Goodsell 翻訳: 工藤 高裕(PDBj)

麻疹ウイルスの断面と各ウイルスタンパク質の構造を示した図。構造がまだ決定されていない部分は点で示した。
麻疹ウイルスの断面と各ウイルスタンパク質の構造を示した図。構造がまだ決定されていない部分は点で示した。

麻疹はしか(measles)は最も感染力のあるウイルスの一つで、感染した人と接触すれば9割の人は病気にかかってしまう。このウイルスに感染したとき最もよく見られる症状は不快な発疹だがやがて収まる。しかし中にはより重篤で死に至ることもある合併症を引き起こすこともある。ただ幸いなことに感染から守ってくれる効果的なワクチンがある。この病気はまだ根絶されていないが、それはワクチンがまだ世界で広く利用できる状況にはなく、またワクチン接種を拒否する人も増えているからである。

麻疹のタンパク質

麻疹ウイルス(measles virus)のゲノムにコードされているタンパク質はたったの6つだが、非常に高い感染性を持ったライフサイクルを回していくにはこれで十分なのである。このうち3つはゲノムの制御に関係している。このウイルスのゲノムはRNAでできているので、RNAを鋳型とし新たなRNAのコピーを作る特別なポリメラーゼ(polymerase)をウイルスは作る。なお、ここに示すのは別のウイルスから得られた関連するポリメラーゼ(PDBエントリー5a22)の構造である。RNAは核タンパク質(nucleoprotein)でできたカプシドで囲まれ、6つのヌクレオチドがそれぞれのタンパク質サブユニットと結合している。リン酸化タンパク質(phosphoprotein)にはいくつかの柔軟な尾部があり、これがポリメラーゼを核タンパク質につなげ、複製と転写の過程を助けている。核タンパク質とリン酸化タンパク質の中で一定の形をとる部分の構造がPDBに登録されている(PDBエントリー5e4v3zdo1t6o)。しかし残りの部分は柔軟でランダムなもつれを作っていると考えられている。

表面タンパク質

ウイルスは二種類のタンパク質を伴う脂質膜で包まれているが、このタンパク質はウイルスが細胞を見つけ侵入する手段を提供している。赤血球凝集素タンパク質(hemagglutinin protein、PDBエントリー2zb5)は細胞表面にある受容体タンパク質に結合する。そして融合タンパク質(fusion protein、PDBエントリー5yxw)がウイルス膜を細胞膜に融合させ、ウイルスゲノム物質を細胞内へと放出する。我々の免疫系は赤血球凝集素タンパク質を主な作用対象としており、広く使われている弱毒化ウイルスを使ったワクチンは免疫系を刺激しこのタンパク質に対する抗体を作らせる。

マトリックス

基質タンパク質(matrix protein)は感染した細胞から新たなウイルスが飛び出るときに関わるタンパク質で、出ていくウイルスの中にウイルスRNAが確実に入るようにしている。生物学ではよくあることだが、どのようにして起こるのかを説明するモデルが、どの研究を根拠にするかによって食い違っている。ここに示すモデルでは、膜(エンベロープ envelop)の内側にマトリックス(matrix)があって、膜が曲がるのを助け、らせん状の核タンパク質とも相互作用している。別のモデルでは、核タンパク質の周りをマトリックスの管が取り囲み、それが膜とつながっている。なおここに示す基質タンパク質(PDBエントリー4g1g)は関連する別のウイルスから得られたものである。

麻疹のヌクレオカプシド

麻疹のヌクレオカプシド(緑)とRNA(黄)。
麻疹のヌクレオカプシド(緑)とRNA(黄)。

麻疹の核タンパク質はRNAと一緒にらせん状の複合体をつくる。その様子をPDBエントリー4uftで見ることができる。新たなRNA鎖をつくる際、ポリメラーゼとリン酸化タンパク質が結合する準備場所を提供することにより複製や転写の過程を助けていると考えられている。この構造には核タンパク質の安定中心ドメインとRNA鎖が含まれているが、核タンパク質の柔軟な尾部はこの研究では取り除かれている。

構造をみる

麻疹の赤血球凝集素と細胞受容体

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麻疹の赤血球凝集素は細胞表面にある3種類のタンパク質に結合することが知られており、それぞれの構造は既に解かれている。ここに図示するのがCD46(PDBエントリー3inb)で、残りはSLAM(PDBエントリー3alz)とネクチン-4(nectin-4、PDBエントリー4gjt)である。3種すべてのおいて、受容体タンパク質(赤)の複製それぞれ2つが赤血球凝集素の二量体分子(青)の両側に結合する。画像の下のボタンをクリックし対話的操作のできる画像に切り替え、よりこれらの構造を詳しく見てみて欲しい。

理解を深めるためのトピックス

  1. これらの麻疹タンパク質のうちいくつかを阻害する薬の開発が行われています。麻疹阻害剤(measles inhibitor)で検索しそれらを見てみてください。
  2. ここに示すリン酸化タンパク質複合体の構造は、二つのタンパク質の一部が融合したキメラタンパク質を使って解明されました。RCSB PDBのPDB個別エントリーページにある「Protein Feature View」を使うとどの部分がどのタンパク質に由来するのかがわかりやすくなるでしょう。

参考文献

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この記事はRCSB PDBPDB-101で提供されている「Molecule of the Month」の2019年3月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧ください。

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