217: オピオイド受容体(Opioid Receptors)

著者: David S. Goodsell 翻訳: 工藤 高裕(PDBj)

オピオイド受容体の構造。モルヒネ類似物質は赤で、細胞膜は模式的に灰色で示す。
オピオイド受容体の構造。モルヒネ類似物質は赤で、細胞膜は模式的に灰色で示す。

世界は痛みの危機に直面している。がんなどの病気による慢性の痛みで苦しんでいるのに、痛みを最も効果的に抑えられるモルヒネ(morphine)などのオピオイド系鎮痛剤(opioid drug)を使えない人が世界中で数えきれないくらいいる。一方、西洋世界はオピオイドが広まったことで苦しんでいる。合法的に処方されたオピオイドは慢性の痛みから患者を解放してくれるが、耐性や中毒の問題があり誤った使い方をすれば乱用を引き起こす。

痛みの経路

痛みは良いものとなり得る。例えば、熱いストーブを触ったとき、痛みを感じ手をさっと引っ込めれることができれば、火傷を負わずに済む。この痛みは複雑な信号伝達過程を経て起きている。熱いという情報は手にある受容体で検知され、脳に信号が送られる。信号を受け取った脳はこれを痛みとして解釈し、手に信号を送り返す。こうして手を引っ込める動作が引き起されている。この過程は、問題の深刻になる程強さが増す刺激信号と、痛みで参ってしまわないようにする抑制信号との絶妙なバランスによって成り立っている。慢性痛はこのバランスが正しくない時に起こり、医師はこのバランスが正常な状態に戻るようにするためオピオイドを処方する。

オピオイド受容体

エンケファリン(enkephalin)やエンドルフィン(endorphin)といった小さなペプチドの神経伝達物質は、痛みの信号を抑える天然の阻害剤である。これらの物質は神経系の痛み信号を伝達する細胞上にあるオピオイド受容体(opioid receptor)に結合する。オピオイドはこれと似た作用をおよぼし、同じようにオピオイド受容体と結合して痛みの応答を抑える。オピオイド受容体となっているのは通常、細胞の外にある神経伝達物質やオピオイドと結合し細胞内の中にあるGタンパク質(G protein)を通して応答を起こすGタンパク質共役受容体(G-protein coupled receptor、GPCR)である。ここに示す構造(PDBエントリー4dkl)はモルヒネ類似物質と結合するオピオイド受容体の一種である。

信号を止める

ジペプチジル ペプチダーセIIIの開いた型と閉じた型。エンケファリンは赤で示す。
ジペプチジル ペプチダーセIIIの開いた型と閉じた型。エンケファリンは赤で示す。

すべての神経伝達物質にとって、これ以上必要なくなったときに信号を止めることは重要である。エンケファリン(enkephalin)とエンドルフィン(endorphin)はペプチドを切断する酵素によって速やかに分解され、痛みを抑える作用は止まる。ここに示すジペプチジル ペプチダーセIII(dipeptidyl peptidase III、PDBエントリー3fvy5e33)はこのような酵素の一例である。これは小さな神経伝達物質のまわりに集まり、一端から2つのアミノ酸を切り落とす。

構造をみる

オピオイド受容体

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私たちの神経系ではさまざまな痛み信号を制御するため何種類かのオピオイド受容体が作られている。主要なクラスとしてミュー(μ、mu)、カッパ(κ、kappa)、デルタ(δ、delta)の3クラスがあり、さらに関連するものとしてノイセプチンオピオイド受容体(nociception opioid (NOP) receptor)がある。各クラスの原子構造は決定されていて、それぞれの事例を4dkl4djh4ej44ea3でみることができる。より詳しくみるには、図の下のボタンをクリックして対話的操作のできる画像に切り替えてみて欲しい。

理解を深めるためのトピックス

  1. 薬剤の試験や中毒の治療に用いるため、オピオイド系薬剤に結合するよう人為的に改変を加えたタンパク質が作られています。その構造をPDBエントリー5tzoで見ることができます。
  2. 上に示したミューオピオイド受容体は結晶中において2量体を形成しますが、GPCRが2量体化することがどのような機能的役割を持っているのかについてはまだ意見の一致をみていません。PDBに登録されているエントリーの中から2量体を形成する他のGPCRを探してみてください。

参考文献

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この記事はRCSB PDBPDB-101で提供されている「Molecule of the Month」の2018年1月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧ください。

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