172: RecAとRad51(RecA and Rad51)

著者: David S. Goodsell 翻訳: 工藤 高裕(PDBj)
RecAとDNA鎖(PDB:3cmx)

DNAが破損したという知らせは良くない知らせであり、細胞は損傷したDNAを修復する強力な手法を持っている。一つの方法は、破損部分の両側を切って破損部分を除去し、鎖を再びつなげるというものである。これは簡単で素早くできる方法だが、修復途中に誤りが入り込む可能性があるという欠点がある。そのため細胞は、ゲノム複製に頼ったより正確な破損修復法も使う。この過程は相同組換え(homologous recombination)と呼ばれているもので、無傷のDNA鎖を鋳型として利用し損傷を受けた領域を再構築する。

鎖の侵入

細菌のRecAタンパク質と、私たちが持つこれに似たタンパク質Rad51はどちらも、壊れた鎖とその予備となる複製鎖とのペアを作る難しい仕事を行っている。壊れた鎖はまず別のタンパク質(後述)によって処理され、1本鎖が露出した状態となる。RecAやRad51はこの1本鎖を取り囲み、続いて予備側のDNA鎖をとらえ、壊れた鎖の配列と無傷なDNA二重らせん中にある相同な配列とを突き合わせる。そしてRecA複合体の内側で、ATPの力を使い1本鎖を2本鎖DNAの一方と交換する。最後に、他の様々なタンパク質がDNAの欠損部分を埋めて、2組の相補的な2本鎖が再構成される。

RecAの働き

RecAとRad51について、相同組換え過程に関するいくつかの段階をとらえた構造が既に解かれている。ここに示す構造(PDBエントリー 3cmx)は、損傷を受けた鎖と無傷の鎖が向き合ってヘテロ2本鎖を形成し、それをRecAが取り囲んでいる様子を示している。この構造は人為的な改変を加えたRecAを使って解かれたもので、同じRecA分子が5個集まってできている。この図は5つのサブユニットでできた構造をいくつか重ね合わせて作ったもので、長いらせん状構造を持つ複合体になっている。この構造から、DNAはRecAへ結合する時に引き伸ばされ、3塩基で構成される特徴的な塩基配列がそれぞれのタンパク質サブユニットに結合することが明らかになった。

RecBCD

左:DNA鎖が結合したRecBCD、右:DNA鎖のみを取り出したもの(PDB:1w36)

3つのタンパク質でできた大きな複合体は、RecAを使って損傷のあるDNA鎖と鎖交換を行うための準備をする。この複合体には、損傷したDNAから一方の鎖にある損傷部分を切り取って、修復に必要な1本鎖を作り出すサブユニットが含まれている。また別のサブユニットがその過程を監視していて、特定のヌクレオチド配列が見つかると切り取り作業を停止し、複合体はRecAと組み合わさって組換えを始める。ここに示す構造(PDBエントリー 1w36)には、短いDNAの断片を伴った3つのサブユニット全てが含まれている。この構造によって、平滑末端(訳注:一方の鎖が突出することなく端が揃った状態)になっている損傷DNAを複合体が巻き戻し、鎖に処理が加えられるようにしていることが明らかになった。

構造をみる

BRCA2(緑)、Rad51(青)、DNA(赤)、(PDB:1miu、1n0w)

表示方式: 静止画像

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相同組換えの過程における変異は、細胞の健康にとって危険な影響をもたらす。例えば、巨大なタンパク質BRCA2(上図の緑で示した部分、PDBエントリー 1miu1n0w)は乳がん(breast cancer)との関連によって発見された。BRCA2はDNAに結合し、Rad51との結合部位を8つ持っているタンパク質で、損傷したDNAの周囲に線維が集まるのを助けている。PDBエントリー1n0wには、BRCA2に結合するDNA配列の一つがRad51のサブユニットに結合したものが含まれている。図の下のボタンをクリックして画像を対話的操作のできるものに切り替え、この構造をより詳しくみて、他のRad51の構造(PDBエントリー1pzn1szp)と比較してみて欲しい。

理解を深めるためのトピックス

  1. PDBには、Rad51およびこれに関係するいくつかの分子の構造が登録されています。最初にPDBエントリー1szpに含まれるRad51線維の構造をみて、更に「相同蛋白質」タブを使って関連するタンパク質を探してみるのもいいでしょう。
  2. RecAに1本鎖DNAが結合した構造を、PDBエントリー3cmw3cmuでみることができます。

参考文献

  1. D. B. Wigley 2013 Bacterial DNA repair: recent insights into the mechanism of RecBCD, AddAB and AdnAB. Nature Reviews Microbiology 11 9-13 10.1038/nrmicro2917
  2. W. K. Holloman 2011 Unraveling the mechanism of BRCA2 in homologous recombination. Nature Structural and Molecular Biology 18 748-754 10.1038/nsmb.2096
  3. 3cmx Z. Chen, H. Yang & N. P. Pavletich 2008 Mechanism of homologous recombination from the RecA-ssDNA/dsDNA structures. Nature 453 489-494 10.1038/nature06971
  4. 1szp A. B. Conway, T. W. Lynch, Y. Zhang, G. S. Fortin, C. W. Fung, L. S. Symington & P. A. Rice 2004 Crystal structure of a Rad51 filament. Nature Structural and Molecular Biology 11 791-796 10.1038/nsmb795
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代表的な構造

3cmx: RecAと2本鎖DNA
RecAは二重に作られたDNAの複製鎖と配列と突き合わせることにより壊れたDNA鎖を修復する。この構造には、人工的な改変を加えたRecAのサブユニットが5つ集まってできた構造に2本鎖DNAが結合したものが含まれる。
1szp: Rad51線維
Rad51は二重に作られたDNAの複製鎖と配列と突き合わせることにより壊れたDNA鎖を修復する。 この構造には、Rad51サブユニットがらせん状に連なった線維が含まれる。
1w36: RecBCD
壊れたDNA鎖は相同組換えの過程により修復されることがよくあるが、相同組換えでは二重に作られたDNAの複製鎖が損傷部分の修復に用いられる。RecBCDは、この過程を行うに当たり壊れたDNAの末端を調整する。この構造には、3つの酵素に短いDNA断片が結合した複合体が含まれる。

この記事はRCSB PDBPDB-101で提供されている「Molecule of the Month」の2014年4月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧ください。

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