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今月の分子


この記事はRCSB PDBPDB-101で提供されている「Molecule of the Month」の2012年3月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧下さい。

147: ロドプシン(Rhodopsin)

著者: David S. Goodsell 翻訳: 工藤 高裕(PDBj)
ロドプシン(PDB:1f88)

私たちの眼は生物的なカメラとも言えるもので、厚みを変えて光が焦点に集まるようにする「レンズ」、中央の穴の大きさを変化させて絞りを調節する「虹彩」(iris)、焦点を合わせた画像を記録するデジタルセンサーのような働きをする「網膜」(retina)でできている。網膜の背後には暗く黒い細胞が層を成していてこれが反射を抑え画像を鮮明に保つ、といった驚くべき様々な工夫が眼にはみられる。ロドプシン(rhodopsin、右図はPDBエントリー 1f88)はこのカメラにおいて「光を検知する」という中心的な役割を果たす分子である。これは小さな光検知分子であるレチナール(retinal)がタンパク質のオプシン(opsin)の内部に結合したものである。レチナールが光子を吸収すると、ある結合が回転して折れ曲がったシス型(cis conformation)から伸びたトランス型(trans conformation)へと形状が変化する。次にこの小さな分子信号がレチナールを取り囲んでいるオプシンタンパク質によって受け取られる。そしてGタンパク質信号伝達経路(g protein signaling network)に向けて信号が発信され、ここで増幅されて最終的には神経系を通って脳に至る。

超高性能なセンサー

私たちの眼は驚くべき感度を持った光のセンサーである。私たちが持つ最も感度の高い網膜細胞である「桿体細胞」(rod cell)は1個の光子による光でさえ感知できる。この桿体細胞の膜には全部で約1億個ものロドプシン(rhodopsin)分子が何層にも詰め込まれていて、最も薄暗い光からその何百倍も明るい照明まで適応することができる。更に、私たちの光検知機構は非常に効率的である。レチナール(retinal)が溶液中で遊離した状態にある時、光を吸収する際にシス型からトランス型に変換する割合は3分の1程度である。一方、オプシン(Opsin)がレチナールをつかんで変形した状態を維持し、トランス型に変換しやすい状態になっていると、変換効率は遊離状態のレチナールに比べ約2倍となり、光子に受け取ったレチナール分子は約3分の2がシス型からトランス型に変換する。

GPCRとしてのオプシン

オプシンはアドレナリン受容体(adrenergic receptor)など他のGタンパク質結合受容体(G-protein-linked receptor、Gタンパク質共役受容体 G protein-coupled receptor)と非常によく似ていて、それらは全て同じ祖先となる受容体タンパク質から進化したと考えられている。どちらも膜を貫通し短い環状領域でつながれた7つのαらせんから成る特徴的な折りたたみ構造をとっている(そのことは後に示す対話的操作のできる画像でみることができる)。オプシンはタンパク質内部の奥深くにあるアミノ酸の1つ「リジン」(lysine)を使ってレチナールを捕らえる。リジンはレチナールと共有結合を形成してその位置に捕らえ、光を感知することで生じる形状変化をその周りを取り囲む部分へと確実に伝わるようにしている。

サイクルの完成

レチノイド異性化酵素(retinoid isomerase、PDB:3fsn)

レチナールが光子を吸収し伸びたトランス型の構造に変化すると、もはやそれ以上光を感知しなくなる。網膜細胞が次の光子に備えておくには、レチナールを初期状態に戻しておく必要がある。オプシンの中に埋まったままの状態ではレチナールをリセットしづらいので、使用済みのレチナールは一旦タンパク質から切り出し、隣接する細胞に受け渡される。ここでレチノイド異性化酵素(retinoid isomerase、上図はPDBエントリー 3fsn)がレチナールを光感受性のあるシス型へと戻し、再びオプシンへと挿入して準備を整える。

構造をみる

光を吸収する前のロドプシン(左、PDB:1u19)と後のロドプシン(右、PDB:3pqr)

表示方式: 静止画像

対話的操作のできるページに切り替えるには図の下のボタンをクリックしてください。読み込みが始まらない時は図をクリックしてみてください。

視覚サイクルは顕微鏡を用いた方法でよく研究されていて、ロドプシンは光を吸収した後多くの段階を経ることが明らかになっている。その中には非常に微妙な段階もある。例えば、レチナールがシス型からトランス型へ変換するのは非常に速いが、タンパク質がそれに追いついて観察可能な中間状態をつくり出すまでにはもう少し時間がかかる。しかしこれより更に重要なのは、神経信号を発生させる変化である。ここに示すのは2つの重要な段階の結晶構造である。上図左の構造は光を吸収する前のロドプシン(PDBエントリー 1u19)で、右の構造は光を吸収しGタンパク質と結合できる形状に変化した後のもの(PDBエントリー 3pqr)である。上図下のボタンをクリックして対話的操作のできる画像に切り替え、レチナールが除去されたオプシンの構造(PDBエントリー 3cap)と合わせてこれらの構造を見てみて欲しい。

理解を深めるためのトピックス

  1. PDBjのGASHRASHなどの構造比較ツールを使うと、オプシンやGタンパク質共役受容体と似た分子を探すことができます。
  2. PDBには視覚サイクルにおける中間状態のロドプシンの構造が多数登録されています。この中には光ロドプシン(photorhodopsin)、バソロドプシン(bathorhodopsin)、ルミロドプシン(lumirhodopsin)、メタロドプシン II(metarhodopsin II、Meta II)といった通常とは異なる名前のものも含まれます。構造比較ツールを使うとタンパク質の状態が遷移するにつれどのように動くのかをみることができます。

参考文献

代表的な構造

1f88: ロドプシン
ロドプシンは網膜で光を検知する。この構造は光を吸収する前のロドプシンのもので、補因子のレチナールは曲がったシス型の構造をとっている。
3pqr: ロドプシン
ロドプシンは網膜で光を検知する。この構造は光を吸収した後のロドプシンのもので、補因子のレチナールは伸びたトランス型の構造をとっている。
3cap: オプシン
ロドプシンは網膜で光を検知する。この構造は補因子レチナールが解放された後のオプシンのものである。