119: 人工設計DNA結晶(Designed DNA Crystal)

著者: David S. Goodsell 翻訳: 工藤 高裕(PDBj)
人工DNA格子(PDB:3gbi)の中を動いているアニメーション
人工DNA格子(PDB:3gbi)

DNAはナノスケール(ナノメートル(nm)=10億分の1m)の構造を作るのに最適な原材料である。塩基対合(base-pairing)は進化において厳選され非常に明確なものとなっているので、簡単に適切な相手と結合するような配列を設計することができる。このように、小さなDNAの断片をティンカートーイ(Tinkertoy、組立式のおもちゃ)のように扱い、個々の要素を設計して一緒に置くと集合するようにすることができる。更に、DNA合成の化学反応は完全に自動化されているので、個別設計したDNA断片を簡単に作ることができるだけでなく、民間のバイオ技術会社に注文することさえできる。このことが、大きくない研究所でも自由にDNAナノテクノロジーを利用することを可能にしており、実際多くの研究所がこれを利用している。そしてナノスケールの棚、ピンセット、多面体、コンピュータ、そして完全にDNAでできた小さなイラストさえ作られている。

DNAで作る

DNAは柔軟さと堅さの両方が混ざった性質を持っており、生物分子の中でも代表的なものとなっている。塩基配列が正しいと、DNA鎖はかみ合わさって二重らせん(double helix)となる。これは少なくとも短いうちは丈夫な筒状構造となっている。しかし、長く伸びると柔軟性を示し始め、DNAらせんは曲がってしまう。DNA基礎部分の設計における秘訣は、全体構造を強固なものにする方法を開発することである。多くの場合、たくさんの平行二重らせんの間を行き来してDNA鎖を編み上げることによってこれを実現している。こうしてらせんの束は、単一のらせんよりもずっと強固な構造を作り上げている。

骨格を探して

ネイドリアン・シーマン(Nadrian Seeman)はナノスケールの構造を作るのにDNAを利用することを先駆けて開発した。何十年もの研究の後、ここに示した構造(PDBエントリー 3gbi)が、完全に一から設計された最初のDNA格子として得られた。小さな立体的三角形のサブユニットで構成され、それぞれが3種類のDNA鎖でできている。塩基配列は注意深く選択されているので、集まってこの特定の構造だけをとり、他の構造をとることはない。立体的三角形の角には、他の三角形と接続する突き出た末端があり、確実な方法で積み重なって立体的な骨格となる。

ナノサイズの機械

この格子はナノテクノロジーのより高度な目的へと向かうための第一段階であり、2つの重要な応用方法が提案されている。一つは、格子の間にある空間にタンパク質など他の分子を入れるというもので、これは特定種の分子を多数同じ方向に向けて並べる一般的な方法として利用できるかもしれない。これが使えれば、X線結晶解析(x-ray crystallography)によって構造を決定する際、常に行き当たりばったりな方法に依存しているタンパク質自身の結晶化を行う必要がなくなるだろう。もう一つの利用法はナノスケールの電子機器を作ることである。この推論に過ぎない構造の中で、個々のナノ技術電子部品は格子の節に置かれるだろう。DNA格子の塩基配列は分かっているので、各部品がきっちり正しい場所へ付加されるようにする特有の接続部品が設計できるかもしれない。

粘着性のある対象

DNA二重らせん(PDB:309d)

PDBエントリー 309d の小さなDNA二重らせんはDNA格子を構築する最初の段階となったもので、粘着性のあるDNAの末端が小さな部材から長く伸びた構造を作るのに役立つことを示している。10塩基から成る小さな鎖で構成されており、結びついてらせんを形成し、各鎖の両端2塩基だけが外側に面した状態となっている。そして、この小さならせんが多数積み重なって長いらせんが形成される。これと同じ原理が広くバイオテクノロジーで利用されている。まずDNAは制限酵素(制限酵素)によって切断され、切断箇所に粘着性のある面ができる。次にDNAは再集合し、DNAリガーゼ(DNA ligase)によって再結合する。

構造をみる

DNA格子(PDB:3gbi)

表示方式: 静止画像

対話的操作のできるページに切り替えるには図の下のボタンをクリックしてください。読み込みが始まらない時は図をクリックしてみてください。

PDBエントリー 3gbi は3種類の鎖でできているDNAの格子であり、集まって丈夫で立体的な三角形の構築材を形成する。このうち赤色で示した鎖は、三角形の土台となる。黄色で示した2つ目の鎖は、三角形を構成する3つの鎖全てをつなげる環状構造を作る。青色で示した3つ目の鎖は、三角形の各頂点で二重らせんを形成する小さなステープラー(ホッチキス)型の構造を作る。そして頂点にある粘着性のある末端部は集まって格子を形成する。上図の下にあるボタンをクリックすると、対話的に画像を操作することができるJmolを使ったページをが表示される。それを見ると、立体的な三角形の積み重なりが、考えていたような単純なものではないことに気づくだろう。

理解を深めるためのトピックス

  1. DNAの再結合に関係するいくつかの酵素は、ここに示した人工格子にある結合部分に似たDNAの分岐構造を作る。PDBでそのような事例を見つけることができますか?

DNAナノテクノロジーに関する参考文献

この記事はRCSB PDBPDB-101で提供されている「Molecule of the Month」の2009年11月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧ください。

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