058: Gタンパク質(G Proteins)

著者: David S. Goodsell 翻訳: 工藤 高裕(PDBj)
Gタンパク質(PDB:1gg2)

細胞は小さい使い捨ての信号をやりとりすることによって通信し合っている。こういった伝達物質の中には、血液を介して体の離れた部分まで移動するものもあれば、隣接する細胞まで単純に拡散するだけのものもある。そして、他の細胞がその信号を拾い上げて読み取る。ヒトの体内では何千ものこのような信号が使われている。よく知られている例がいくつかあって、アドレナリンは興奮水準を制御し、グルカゴンは血糖値に関する信号を運び、ヒスタミンは組織の損傷を伝え、ドーパミンは神経系統において信号を中継する。

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多くの場合、これらの伝達物質は決して細胞の内部には入り込まない。その代わり、信号は細胞表面の受容体に拾われ、それが一連の信号伝達分子を通して細胞の外側から内側へと信号が伝えられる。ここに示したPDBエントリー 1gg2のようなGタンパク質がこの一連の信号伝達過程において中心的なつながりを形成する。Gタンパク質機構は私たちの持つ細胞における信号伝達の方法として最も一般的なものである。何千ものGタンパク質結合性受容体が私たちの細胞で見つかっていて、それぞれ決まったある特定の伝達物質を待ち受けている。あるものはホルモンを認識し、代謝水準を変化させる。また別のあるものは神経機構で用いられ、神経信号を運ぶ。私たちの視覚も光感受性のGタンパク質機構に依存し、また何千種類もの受容体がそれぞれ別々のにおい分子を認識して臭覚を制御している。信号を受け取る受容体とその信号を細胞内に伝えるGタンパク質の組み合わせは全て共有されている。

Gタンパク質の中の「G」

Gタンパク質はGDP(上図の紫色で示した分子)を信号伝達サイクルの制御に使っている分子スイッチである。ここに示したようにGDPが結合すると、Gタンパク質は不活性化する。GDPがGTPと置き換えられるとGタンパク質は活性化し、信号を伝えるようになる(後図参照)。Gタンパク質は様々な形と大きさをとる。その多くは細胞信号伝達に使われるが、タンパク質合成の推進するといった他の重要な役割を担っているものもある。ここに示したのはヘテロ3量体Gタンパク質と名付けられているが、それは、3種類の異なる鎖〜黄褐色で示したα鎖、青で示したβ鎖、緑で示したγ鎖〜で構成されているからである。小さくて赤い部分はα鎖の表面にある環状領域で、信号伝達にとって重要な部分である。

膜にしがみつく

このようなGタンパク質は細胞膜の内側表面に結合して、対応する受容体の近くにしがみついている。タンパク質鎖には数個の小さな脂質分子(上図右上に描かれている)が付加され、これが膜との間に入り込みタンパク質をつなぎとめている。但し、この小さな脂質分子を結晶構造ファイルから探さないようにして欲しい。なぜなら結晶化できるよう取り除かれているからである。

攻撃下におけるGタンパク質

Gタンパク質機構は多くの信号伝達において重要な役割を果たしており、薬や毒に反応しやすい標的となっている。クラリチン(Claritin、抗アレルギー薬)やプロザック(Prozac、抗うつ薬)など現在市場に出回っている薬の多くは、ヘロイン、コカイン、マリファナなどの乱用麻薬の多くと同様に、一連の信号伝達においてGタンパク質共役型受容体(G-protein-coupled receptor、GPCR)として働く。コレラ菌は、重要な場所にヌクレオシドを付加することによって、Gタンパク質に直接作用する毒素をつくる。この調整によってGタンパク質は活性状態が続くようになる。これによって特に腸内細胞の体液バランス調節が乱され、感染者は水分、ナトリウム、塩素を失って脱水症状に陥る。

なお、欧州バイオインフォマティクス研究所(EBI)の「今月のタンパク質」でもGタンパク質に関する情報が提供されているので合わせて参照のこと。

信号の中継

アドレナリンの信号伝達過程(PDB:1f88、1GOT、1CUL、1TBG)

Gタンパク質は信号を細胞膜内側表面にに中継する。その過程は、受容体が対応するホルモンや神経伝達物質(アドレナリンなど)に結合することにより始まる。それによって受容体の形状が変化して、不活性型3鎖Gタンパク質の内側に結合する。そしてGタンパク質からGDP分子を追い出され、GTPと置き換えられる。GTPは小さな環状領域(図中に赤色で示した部分)に形状変化が生じ、Gタンパク質は2つの部分に分かれる。自由になったαサブユニットにはGTPが結合していて、これがアデニリルシクラーゼを見つけるまで膜に沿って移動する。見つかると小さな環状領域は酵素に結合してGタンパク質は活性化される。活性化されたアデニリルシクラーゼは大量の環状AMPを作り出し、それが信号として細胞全体に広がる。そして最後に、活性状態のαサブユニット内にあるGTPは分解されてGDPになり、Gタンパク質は再び形状を変えて不活性な休息状態となる。

この方法を用いる主な利点の一つは、信号を増幅できることである。ここに示した一連の信号伝達において、1つのアドレナリンの信号分子が多くの環状AMP分子の生産を促すことができる。アデニリルシクラーゼのように酵素を並べることによって、細胞外から来た弱い信号を細胞内の至るところへの強い信号へと変換することができる。

これらの構造を見る時は、次のことに気をつけてほしい。構造はここで注目している過程の各段階で有効だが、様々な種類の信号伝達経路からやってくる事例に対応する用意ができている必要がある。この図では4つのPDB構造データが使われていて、左から順にPDBエントリー 1f881got1cul1tbgのものである。これらはアドレナリンに反応する正確なタンパク質ではないが、信号伝達経路がどのようなものであるのかに関する考えを与えてくれる。

構造をみる

Gタンパク質の活性型(右:PDB:1gia)と不活性型(左:PDB:1gg2)

Gタンパク質はGTPを使って活性状態に切り替わる。上図右に示したPDBエントリー 1giaのような活性型の場合、GTPの末端のリン酸基はGタンパク質の表面にある短い環状領域と接触し、表面に強くしがみついている。なおこの図ではGTPを球で、環状領域を赤色で示している。ところがGTPが分解されてGDPになると、このリン酸基は取り除かれて、短くなったGDP分子は環状領域と接触できなくなる。これによって環状領域がよりゆるい構造をとることができるようになるが、それが上図左に示したPDBエントリー 1gg2のような不活性状態の3量体複合体で確認できる。

グアニンヌクレオチド結合タンパク質のβ、γ鎖(PDB:1tbg)

また、PDBエントリー 1gg21got1tbgなどの構造で、βサブユニットを見ることにも時間を費やして欲しい。ペプチド鎖を主鎖表現やリボン表現で表示すると、鎖がきれいなプロペラ型の構造をとっているのが分かるだろう(右図はPDBエントリー 1tbgのもの)。

Gタンパク質についてさらに知りたい方へ

以下の参考文献もご参照ください。

この記事はRCSB PDBPDB-101で提供されている「Molecule of the Month」の2004年10月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧ください。

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