055: DNAリガーゼ(DNA Ligase)

著者: David S. Goodsell 翻訳: 工藤 高裕(PDBj)
上:バクテリオファージT7の(PDB:1a0i) 下:細菌の(PDB:1dgs)

ヒトの各細胞はそれぞれ46組の長いDNA鎖を持っている(多少の例外を除いて)。私たちの遺伝情報はこのDNA鎖に収められており、何千もの遺伝子がこの上に並んでいる。遺伝子の順序と、隣接する遺伝子の近さが遺伝情報を適切に利用する上で重要となりうるため、各細胞はDNAが破損しないよう守ることが大切になる。ある1本のDNA鎖が壊れると、大惨事とはならないが遺伝子の転写(transcription)や複製(replication)の過程でDNA二重らせんがほどかれる際問題を引き起こしうる。一方両方のDNA鎖が壊れると、事態はずっと深刻になる。この危険から守るため、私たちの細胞は()を使って壊れたDNA鎖をくっつけ修復している。

DNAの分解

環境中にある危険要因は誤ってDNAを損傷してしまうことがある。ガンマ線(gamma ray)などの電離性放射線(ionizing radiation)はDNAの主鎖を攻撃して破壊する。また私たちの細胞の周囲に存在する酸素(oxygen)は危険な気体で、DNAを攻撃する遊離基(フリーラジカル、free radical)を形成する。驚くべきことに、私たちの細胞自身も意図的にDNAを破壊する。減数分裂(meiosis)ではゲノムが半分ずつに分割され、卵細胞(egg cell)や精細胞(sperm cell)を形成するが、この時よくDNAの組替え(recombination)が起こる。これはあるDNA鎖の一部が切り出され、姉妹染色体(sister chromosome)の似た部分と交換されるというものである。免疫機構(immune system)の細胞も自身のDNA鎖を切り混ぜており、DNAの一部を切り出し違った場所と交換して多様な抗体遺伝子の集まりを作り出している。DNAの複製では、DNA鎖の一方に切れ目「ギャップ」(gap)が作られる。ポリメラーゼはDNA鎖を複製する際一方向にしか働くことができないため、最初はギャップ間がそれぞれ複製されて一連の短い断片が形成される。それはその後つないで連続鎖にする必要がある。

壊れたDNAを直す

は壊れたDNA鎖を再びつなぐ。その反応を行う際、動力を供給する補因子分子(cofactor molecule、赤色の部分)と反応を実行する特別なリジンアミノ酸(lysine amino acid、赤紫の部分)を使う。私たちのとバクテリオファージT7(bacteriophage T7)の(右図上、PDBエントリー 1a0i)はATPを補因子として使う。一方、多くの細菌はNADをの補因子として用いる(右図下、PDBエントリー 1dgs)。どちらの場合も、中にあるリジンが補因子中のリン酸と結合を作り、AMP部分を固定して、残りを捨てる。その後、このAMPが壊れたDNA鎖に移され、鎖が再びつながれて解放される。

遺伝子の操作者

は細胞の中でも外でも非常に役に立つ酵素である。制限酵素(restriction enzymes)と一緒になって、組換えDNA技術を実現する完全な場を提供してくれる。この2種類の酵素を使えば、研究者たちは思いのままにDNA鎖を切り貼りし、新しい遺伝子やゲノムを作ることができる。制限酵素はDNAを特定の場所で切断するはさみのような働きをする。そしては切った断片を再びつないで機能するDNA鎖にしてくれる。この技術によって、細胞が何十億年もかかってやってきたことを、私たちは今自力でできるのである。

形の合わない末端同士の結合

左:Xrcc4タンパク質(PDB:1ik9)+(模式図) 右:Kuタンパク質(PDB:1jey)

によって行われる重要な反応の一つは、形の合わない末端同士をつなぐ反応である。これは両方のDNA鎖が壊れた時に行われ、細胞はこれによって壊れたDNAを元に戻す。緊急の修復機構であるため、2つの末端を再結合する際1つや2つの遺伝情報の誤りを起こしうるが、DNAを断片のまま放置しておくよりは幾分ましである。この過程に関わるいくつかの分子をここに示した。Kuタンパク質(Ku protein、PDBエントリー 1jey)とDNA依存性タンパク質リン酸化酵素(DNA-dependent protein kinase、ここには示していない)は2つのDNA鎖の末端を持ってきて適切な位置に保持していると考えられている。Kuの2つのサブユニットが持つDNA鎖を包み込む腕がどのようになっているかに注目して欲しい。は Xrcc4タンパク質(PDBエントリー 1ik9)に助けられてDNA鎖をつっつけて元に戻す。なおここではが模式図で示されているが、それはヒトが作るの構造はまだ解かれていないからである。

構造をみる

クロレラウイルスの(PDB:1fvi)

PDBエントリー 1fvi では結合反応に使われる活性化されたAMP分子を近づいて見ることができる。このはクロレラウイルス(Chorella virus)から得られたもので、私たちの細胞で見られるよりも小さい。AMPのリン酸と共有結合を形成する27番残基のリジンはDNA結合反応ができるようにしている。DNAは上にある大きな溝の中に結合する。

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更に知りたい方へ

以下の参考文献もご参照ください。

この記事はRCSB PDBPDB-101で提供されている「Molecule of the Month」の2004年7月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧ください。

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