051: カルシウムポンプ(Calcium Pump)

著者: David S. Goodsell 翻訳: 工藤 高裕(PDBj)
カルシウムイオン通過中状態の(PDB:1su4)

筋肉を動かす時はいつも、何十億個ものミオシン(myosin)が協力して動作することが必要である。私たちの筋肉細胞はカルシウムイオン(calcium ion)を使ってこの分子の重労働を調整している。筋肉細胞は結びついた神経から収縮を指示する信号を受け取ると、特別な細胞内にある容器の筋小胞体(sarcoplasmic reticulum)から大量のカルシウムイオンを放出する。この筋小胞体はアクチン線維(actin filament)とミオシン線維から成る束を取り囲んでいる。カルシウムイオンは急速に広がってアクチン線維上にあるトロポミオシン(tropomyosin)に結合する。そうすると形状がわずかに変化してミオシンが結合できるようになり、線維をよじのぼり始める。この何十億個ものミオシンモーターは昇り続け、カルシウムが取り除かれるまで筋肉は収縮し続ける。

弛緩

は、筋肉がカルシウムの誘導によって強く収縮した後、収縮から解放され再び伸びられるようにする。このポンプは筋小胞体の膜に見られる。場合によっては、その量は非常に多く筋小胞体で見られるタンパク質の90%にも達する。ATPの動力を使ってカルシウムイオンを筋小胞体内へ汲み戻し、アクチンフィラメントおよびミオシンフィラメントの周囲にあるカルシウムイオン濃度を下げる。その結果、筋肉は緩んで伸びることができる。カルシウムイオンは他の細胞内で信号伝達にも使われており、これと似たポンプがほとんどの細胞の細胞膜に見られる。このポンプはカルシウムイオンの量を減らして細胞内濃度を非常に低く抑え、細胞が信号伝達できるよう準備する働きを継続的に行っている。そして細胞は即座にカルシウムを内部へと流し込み、細胞内のあらゆる場所へ信号を行き渡らせる。

カルシウムの汲み入れ

はいくつかの動作部分から成る驚くべき機械であり、ここに示したPDBエントリー 1su4 のように膜で見られる。筋小胞体の外側に突き出した大きなドメインと、膜に埋もれ膜の内側に続くトンネルを形成する領域とを持っている。1分子のATP分解につき2分子のカルシウムイオン(図の青い分子)が膜を通って内側へと輸送され、逆に2、3個の水素イオンが外側へと輸送される。次項で説明するように、は一連の輸送サイクルの間、たわんだり折れ曲がったりする。

汲み入れのサイクル

(左:カルシウムイオンが入る前 PDB:1iwo、右:カルシウムイオンが入った状態 PDB:1su4)

は汲み入れ過程を一回行うごとに変化のサイクルを一巡する。この過程には4つの段階があるという機構が提案されており、そのうち2段階の構造が現在PDBに登録されている。上図左(PDBエントリー 1iwo)はカルシウムが入っていない空状態の構造で、恐らく輸送部位には水素イオン(hydrogen ion)が結合している。ただ、結晶構造では水素イオンを見ることはできない。次に上図右(PDBエントリー 1su4)の形へ変化すると、カルシウムイオンが上(細胞質側)から入れるようになり、代わりに水素イオンが細胞質側へと追い出される。残り2段階では、ATP分子を使ってポンプの形状を変化させ、それによってカルシウムが筋小胞体内部へと放出されるようにする。この過程において、リン酸(phosphate)がATPからポンプ中にある特別なアミノ酸であるアスパラギン酸(aspartate、351番残基、赤色の部分)へと移される。の通り、このアスパラギン酸とATP結合部位と考えられている部分(これはアスパラギン酸の近くにあるはずである)はカルシウムが通過するトンネルとは少し離れている。カルシウムを通すかどうかの切り替えはATP結合ドメイン(ATP-binding domain)の大きな動きによって制御されており、トンネルを取り囲むタンパク質を押したり引いたりして適切に開閉を行っている。

構造をみる

のカルシウム周辺を拡大してみたもの(PDB:1su4)

カルシウムの結合部位は膜をまっすぐ貫通する4本のαらせん(alpha helix)によって形成されたトンネルの中にある。上図(PDBエントリー 1su4)はらせんを上から見下ろした様子を示している。2つのカルシウムイオン(青緑色の球)はあらゆる方向に配置されたアミノ酸の集まり(球と棒で表現された部分)によってつかまれている。このタンパク質はカルシウムイオンが取り除かれると大きく安定性が低下する。カルシウムイオンがない状態の構造はPDBエントリー 1iwo で見ることができる。これはカルシウム結合部位の近くに結合する薬分子を追加し、タンパク質を凍結させることによって安定化して解かれた構造であるが、機能しない不活性な型である。

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更に知りたい方へ

以下の参考文献もご参照ください。

この記事はRCSB PDBPDB-101で提供されている「Molecule of the Month」の2004年3月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧ください。

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