042: 緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescent Protein)

著者: David S. Goodsell 翻訳: 工藤 高裕(PDBj)
オワンクラゲの緑色蛍光タンパク質(PDB:1gfl)

ここに示した緑色蛍光タンパク質(green fluorescent protein、GFP)はPDBエントリー 1gflの構造で、北太平洋の冷たい海に住むクラゲ(オワンクラゲ)から見つかったものである。このクラゲには生物発光を行うタンパク質「エクオリン(aequorin)」が含まれており、このタンパク質は青い光を放つ。緑色蛍光タンパク質はこの青い光を緑色に変える。実際私たちがクラゲで見ているのは、この変換された光である。精製されたGFPの溶液は、通常の室内光の下では黄色に見えるが、屋外の日光にさらすと鮮やかな緑色に輝く。このタンパク質は日光に含まれる紫外線を吸収し、よりエネルギーの低い緑色の光として放出しているのである。

それがどうした?

あなたはこう言うかもしれない。クラゲが持つこの目立たない小さな緑色のタンパク質を誰が関心を持つというのか、と。しかしGFPは科学研究において非常に役に立つものであることが分かった。なぜなら、これによって細胞内で働いているものを直接見ることができるようになったからである。GFPがあるところはいつでも簡単に見つけることができる。ただ紫外線を当ててやればよい。GFPがあれば鮮やかな緑色に輝くだろう。そこでこれを利用した技がある。どこにあるのか見たいものにGFPをくっつけるのである。例えば、GFPをあるウイルスにくっつける。そうすると、ウイルスが宿主の中に広がる様子が、緑色の輝きを追跡することによって観察できる。またあるタンパク質にGFPをくっつけると、そのタンパク質が細胞内をあちこち動くのが顕微鏡を通して観察できる。

既製品

GFPは既製の蛍光タンパク質なので、特に簡単に使うことができる。光を扱うタンパク質の大半は光子を捕まえ解放するのに変わった分子を使う。例えば眼にあるオプシン(opsin)は光を検知するのにレチノール(retinol)を使う(今月の分子27番:「バクテリオロドプシン」参照)。「発色団」(chromophore)は特にこの仕事をするに当たって作り上げる必要があり、注意深くタンパク質の中に組み込まれる。一方、GFPは光を取り扱う機械があらかじめその中に備わっていて、これをアミノ酸だけを使って作り上げている。GFPには特殊な3つのアミノ酸配列〜セリン(serine、これと似たスレオニン(threonine)と入れ替わっている場合もある)−チロシン(tyrosine)-グリシン(glycine)〜がある。タンパク質鎖が折りたたまれると、この短い断片はタンパク質の奥深くに埋め込まれる。そして、いくつかの化学的変化が起きる。グリシンがセリンと化学結合を形成して、新たに閉じた環が形成され、その結果自発的に脱水反応が起こる。最後に、1時間ほどかかって周辺環境にある酸素がチロシンのある結合に攻撃し、二重結合が形成されて蛍光発色団となる。GFPは自分自身で発色団を作るので、遺伝的な技術には最適である。これを使えば奇妙な発色団を扱うのに悩まされる必要はない。単にGFPタンパク質を作るよう遺伝的指示を細胞に与えてやるだけで、GFPが自分自身で折りたたんで輝き始めてくれる。

GFP工学

GFPの利用は芸術や商業の世界にも広がっている。芸術家のエドワルド・カック(Eduardo Kac)はGFPをウサギの細胞に組み込んで蛍光緑色ウサギを作り出した。飼育家は独特の蛍光植物や蛍光魚を作る手段としてGFPを研究している。GFPはラット、マウス、かえる、はえ、むし、いもむしなど数え切れないぐらいたくさんの種類の生物に付け加えられてきた。もちろん、これらの遺伝子組み換え動植物については未だ議論のあるところで、遺伝子工学の安全性と倫理性を重要な話題へと押し上げている。

GFPの改良

亜鉛イオンを検知するよう調整された青色蛍光タンパク質(PDB:1kys)

GFPは生きた細胞を研究するのには非常に有用だが、科学者はそれをさらに役立つものにしようとさえしている。科学者は別の色を発するGFP分子を作っている。今では青色蛍光タンパク質、黄色蛍光タンパク質、その他多くの蛍光タンパク質を作ることができる。その方法は、発色団の安定性を変化させる小さな変異を作るというものである。何千種もの変異が試され、そのうちの成功例をいくつかPDBで見ることができる。科学者はGFPをバイオセンサー(生物的検知器)〜イオン濃度やpHを検知し、特徴的な方法で光ることによって結果を報告する分子機械〜を作るのにも使っている。ここに示した分子は亜鉛(zinc)イオンの濃度を検知するよう調整された青色蛍光タンパク質(PDBエントリー 1kys)である。亜鉛(赤)が調整された発色団(濃い青)に結合すると、 タンパク質は2回輝いて簡単に検知できる視覚信号を作り出す。

構造を見る

緑色蛍光タンパク質(PDB:1ema) 左:全体構造。発色団が筒状構造で囲まれ保護されている。 右:発色団の拡大図。3つのアミノ酸が特殊な結合を形成し発色団となっている。

PDBエントリー 1emaを見るとGFPの発色団を詳しく見ることができる。左にはタンパク質全体の主鎖を描いたものである。タンパク質鎖は筒状構造(青)を形成し、そこから鎖の一部(緑)が筒の中にまっすぐ伸びている。発色団は筒の中央右側にあって、全体が周辺環境から守られている。この保護が蛍光には欠かせない。周囲でひしめき合う水分子は、通常だと発色団が一旦吸収した光子のエネルギーを奪ってしまう。ところがタンパク質の中で発色団は保護され、吸収した光子よりは少しだけエネルギーが少ない光を放出する。発色団(図右の拡大図を見て欲しい)はタンパク質鎖内の3つのアミノ酸〜グリシン、チロシン、スレオニン(またはセリン)〜から自発的に作られる。グリシンとスレオニンがどのようにして新しい結合を形成し、通常見られない五角形の環(五員環)を作っているかに注目して欲しい。

このPDBエントリーのファイルでは、発色団は「CRO」という名前で記述され、タンパク質鎖の66番残基に位置しています。

"" のキーワードでPDBエントリーを検索した結果はこちらで参照できます。

緑色蛍光タンパク質についてさらに知りたい方へ

当記事を作成するに当たって用いた参考文献を以下に示します。

この記事はRCSB PDBPDB-101で提供されている「Molecule of the Month」の2003年6月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧ください。

	{
    "header": {
        "minimamHeightScale": 1.0,
        "scalingAnimSec": 0.3
    },
    "src": {
        "spacer": "/share/im/ui_spacer.png",
        "dummy": "/share/im/ui_dummy.png"
    },
    "spacer": "/share/im/ui_spacer.png"
}