271: 非相同末端結合超複合体(Non-Homologous End Joining Supercomplexes)
この記事は、定量生物医学ラトガース研究所(Rutgers Institute for Quantitative Biomedicine)の主催で開催された1週間の大学生・大学院生向け集中合宿の一環として、ガブリエラ・ディアス・フィギェロア(Gabriela Diaz-Figueroa)、マイケル・エゴジ(Michael Egozi)、サイダ・ジェナス(Syeda Jannath)、ジャスミン・マディ(Jasmine Maddy)により執筆され、描かれたもので、2022-2023年 PDB-101の健康フォーカス「がん生物学と治療法」(Cancer Biology and Therapeutics)の一部としても掲載されています。
不可欠なDNA修復
DNAは、私たちの遺伝情報の担い手である。極めて重要なので、私たちのDNAは、その鎖が切れても自己修復する指令を出すことができる。DNAの切断は、複製時のエラーや、放射線、酸化ストレス、反応性化学物質などの外的要因による損傷など、さまざまな形で引き起こされる。切れたDNAが一本だけであったときは、核内の修復システムが相補鎖をガイドにして難なく隙間を埋めていく。しかし、二本鎖が壊れると修復は難しく、そのままにしておくと細胞は死んでしまう。非相同末端結合(Non-Homologous End Joining、NHEJ)は、切れた末端を再びつないでこのように有害なエラーを修正する主な方法の一つである。私たちの日常生活において、1日に約10本の二重鎖切断が各細胞で起こっているため、この過程は必要不可欠である。
非相同末端結合の処理の流れ
非相同末端結合は、さまざまな種類の修復タンパク質によって行われる。これらのタンパク質は、壊れたDNAのところへ段階的に集まって超複合体を形成し、これがDNAを再びつなぐ。この超複合体の形成は、Ku70とKu80という2つのタンパク質のヘテロ2量体から始まる。これが切れたDNA端を特定し、他のNHEJタンパク質を呼び寄せる。ここに示す構造は、Ku70とKu80が切断された末端に結合した、超複合体形成過程の初期段階をとらえたものである(PDBエントリー1jey)。次にDNA-PKcs(PDBエントリー6zhe参照、ここには図示していない)が結合し、他の多くの酵素を呼び集めて2つの切れた端を切りそろえてつなぐ準備する。2つの末端はXRCC4とXLFによって突き合わせられ、最後にDNAリガーゼ IV(DNA ligase IV)が壊れたDNA鎖を接着し、修復されたDNAが放出される。
切れた2本鎖DNSを修復するしくみ
二本鎖の切断は、両末端の空間的な分離、塩基の修飾、切断された末端における一本鎖の突出など、さまざまな問題を引き起こす。これに対処するために、DNA-PKcsは超複合体(ここに示すのはPDBエントリー7nfc と 3w1b)に結合し、さまざまな種類の損傷を修復し、DNAの末端同士を突き合わせる処理を行う他の酵素群を呼び集める。ここで集められる酵素には、欠けたヌクレオチドを埋める数種類の小さなポリメラーゼ(polymerase)や、アルテミス(Artemis)などの突き出た鎖を切り取る働きをするヌクレアーゼ(nuclease)が含まれる。損傷した末端でこれら複数の修復を行うため、NHEJの行う処理は正確ではなく、接合部位で小さな間違い引き起こすことがある。
結合をつくる
最後に、末端の準備が整ったら集合体は再配置され、DNAリガーゼ IVがDNAを再接続する(PDBエントリー7lsy)。二本鎖切断は生物にとって有害であるにもかかわらず、有益であることもある。例えば、私たち自身の免疫系では、抗体遺伝子が切断され、NHEJによって組み替えられて多様性が生み出されている。これにより、新しい病原体を認識するこれまでになかった組み合わせが見いだされる。二本鎖切断は、がんの放射線療法や化学療法でも重要な役割を担っている。これらの治療法は、標的とする腫瘍細胞のDNAを切断し、効果的に腫瘍細胞を死滅させたり、成長を遅らせたりする。しかし残念なことに、エラーを起こしやすいというNHEJの性質は、細胞の成長や制御に関わる重要な遺伝子に発がん性のエラーをもたらすことにより、がんの原因ともなり得る。
構造をみる
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Kuタンパク質は、壊れたDNA鎖をどうやって認識するかという、分子の厄介な問題を解決する。それは、形状を利用して行われている。DNAは長い鎖であり、通常、タンパク質はその周囲を取り囲む必要がある。一方、Kuは閉じたリングのような形をしているので、DNAは真ん中の穴を通る必要がある。これは鎖の端でしかできないことである。ここに示した構造(PDB ID 1jey)は、Ku70とKu80のヘテロ2量体で、中にある空洞にDNAの短い断片が通った状態を示している。正電荷を持ったリジンやアルギニンのアミノ酸(白色)がいくつか空洞に並び、DNAの主鎖と相互作用する。端がそろったDNAの末端は赤紫色で示す。短いヘアピン(黄色)は、 構造を決定しやすくするためにDNAへと付加されたもので、DNAを一カ所に固定する役割をしている。
理解を深めるためのトピックス
参考文献
- 7nfc 2021 Cryo-EM of NHEJ supercomplexes provides insights into DNA repair. Mol Cell 81 3400
- 7lsy 2021 Structural basis of long-range to short-range synaptic transition in NHEJ. Nature 593 294-298
- 2020 The molecular basis and disease relevance of non-homologous DNA end joining. Nat Rev Mol Cell Biol 21 765–781
- 2017 Non-homologous DNA end joining and alternative pathways to double-strand break repair. Nat Rev Mol Cell Biol 18 495-506
- 3w1b 2013 Structure of the catalytic region of DNA ligase IV in complex with an artemis fragment sheds light on double-strand break repair. Structure 21 672-679
- 1jey 2001 Structure of the Ku heterodimer bound to DNA and its implications for double-strand break repair. Nature 412 607-614