322: PDBの55周年を祝して(Celebrating 55 Years of the PDB)
2021年にタンパク質データバンク(PDB)が設立50周年を迎えて以降、構造生物学の分野で最も著しく発展したのは、人工知能(AI)や機械学習の手法を用いたタンパク質構造予測プログラム(AlphaFold2やRoseTTAFoldなど)による構造モデルである。この記事では、単一タンパク質鎖の高精度な予測、柔軟な分子複合体のモデル構築、そして合成ゲノムからのファージ構築という3つの事例を探り、こうした革新的な計算手法とともに歩んできたタンパク質構造予測の進化をたどる。
PDBアーカイブを基盤として
現在のタンパク質予測手法は、PDBに蓄積されている豊富な構造データによって可能になった。AlphaFoldをはじめとするアルゴリズムは、パターン認識システムと考えることができ、アミノ酸配列がどのように折り畳まれるか、異なる鎖がどのように組み合わさるかといった学習されたパターンは、学習当時PDBアーカイブに蓄積されていた15万を超える実験的に決定された構造から導き出されたものである。
CASPへの挑戦
1994 年に初めて開催されたCASP (Critical Assessment of Structure Prediction、タンパク質構造予測精密評価) は、タンパク質の配列に基づいてその三次元構造を予測するという科学コミュニティの挑戦を競う隔年開催のコンテストである。予測された構造が実験的に得られた構造に近いほど、獲得できるスコアが高くなる。数十年にわたり、CASP の平均予測精度は 20% 前後で推移していた。機械学習と深層ニューラルネットワークの利用が広がったことにより、CASP 12 と CASP 13 (2016 年と 2018 年に開催) ではスコアが大幅に向上したが、まだ改善の余地が大きく残されていた。しかし、2020 年に開催された CASP 14 では、明らかに先を行く者が現れた。DeepMind社 の AlphaFold2 が、低解像度の実験的手法に匹敵する精度で一貫して構造を生成したのである。
CASP 14 のタンパク質ターゲットの 1 つは、SARS-CoV-2 の ORF8 と呼ばれるタンパク質であった。ORF8 は、ウイルスが宿主の免疫応答を鈍らせるために使う、小さくて急速に進化する補助タンパク質である。ORF8 は、実験的に構造が決定されている他のタンパク質と配列類似性が非常に低いため、構造予測が困難であった。しかし AlphaFold2 は、右図に示すように、後に決定された ORF8 の実験構造 (pdb_00007jtl) を正確に予測することができた。
柔軟な複合体の構造を解明する
AlphaFold2が成功を収めて以降の数年間で、複数のサブユニットからなる複合体の構造決定において予測構造が広く活用されるようになった。その代表例が、8つのサブユニットで構成され有糸分裂紡錘体の構築を促進するオーグミン(augmin、HAUS)複合体である。オーグミンは微小管の側面に結合し、γ-チューブリン(gamma-tubulin)を動員して新たな分岐微小管の核を形成する。しかし、その細長い形状と柔軟な性質が障害となり、結晶学や単粒子クライオ電子顕微鏡法といった従来の手法のみで構造を解明することは困難であった。
最近の研究により、統合的・ハイブリッド手法を用いて、オーグミンの構造(左図、pdb_00007sqk)が解明された。AlphaFold2によって予測されたオーグミンの各サブユニットおよび一部のタンパク質群のモデルに生化学的架橋データを組み合わせ、クライオ電子顕微鏡マップへのドッキングを実施。その結果得られた構造は、長さ45ナノメートルの非常に柔軟な複合体であり、微小管への結合を仲介すると考えられるV字型の頭部と、γ-チューブリンの動員に関与すると考えられる二股に分かれた尾部を持つことが明らかになった。
バクテリオファージの生成
最後に紹介する事例は、計算とAIの利用に関して全く異なる方法が使われている。既知の配列から構造を予測するのではなく、ゲノム言語モデルを用いて計算により新しいファージゲノムを生成し、その結果得られた構造を研究するという手法がとられている。テンプレートとして用いられたのはファージΦX174で、これは一本鎖DNAゲノムと11個の遺伝子を持つ小さな正二十面体ウイルスである。生成された多数の候補ゲノムの中から、300件近い設計案を実際に合成してテストし、ΦX174耐性細菌に感染できる16種類の生存可能なファージが回収された。生成されたファージの1つであるEvo-Φ36(pdb_000036cr)を右図に示す。Evo-Φ36はテンプレートのΦX174(pdb_000036cq)と非常によく似ているが、タンパク質J(protein J)に大きな違いがある。このタンパク質Jは、ゲノムの収納を助け、カプシド殻を内側から支える小さな内部タンパク質である。図に示すように、Evo-Φ36は、より短くて進化的に遠いタンパク質J(紫色で示す)を取り込んでいて、この変化だけでは、生存不可能なファージになっていただろう。しかし、生成されたゲノムには、タンパク質Jに生じたこの変化をカプシドと適合させるための、一連の付随的な変化も含まれていた。
残された課題
タンパク質予測手法の成功は疑いようのないものだが、CASP17で指摘されたように、依然として課題が残っている。これには、タンパク質-リガンド複合体、核酸、タンパク質-核酸複合体の予測、そして分子や複合体が時間の経過とともに取り得る一連の状態を記述するコンフォメーションアンサンブルの予測などが含まれる。
構造をみる
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実験的に得られた構造を、CASP10(2012 年開催)、CASP12(2016 年開催)、CASP14(2020 年開催)で上位にランクされたグループによる予測と比較する。予測された構造は黄色で、実験的に得られた構造はオレンジ色で示す。これらの構造はそれぞれ、PDB でそれまでに解明されたタンパク質と検出可能な構造的類似性がほとんどなかったため、「困難」のカテゴリに分類されていたものである。強調表示しているタンパク質は次のとおり。CASP 10: RUMGNA_01417(pdb_00003nrl)と Zhang グループによる予測。CASP 12: 単量体仮性狂犬病ウイルスプロテアーゼ pUL26N(pdb_00004cx8)と Baker グループによる予測。CASP 14: SARS-CoV-2 の Orf8(pdb_00007jtl)と AlphaFold2 グループによる予測。
参考文献
- 2021 Dec Applying and improving AlphaFold at CASP14. Proteins. 89 12 1711-1721
- 2021 Aug Highly accurate protein structure prediction with AlphaFold. Nature 596 7873 583-589
- 2021 Aug 20 Accurate prediction of protein structures and interactions using a three-track neural network. Science 373 6557 871-876 DOI:10.1126/science.abj8754
- pdb_00007jtl 2021 Jan 12 Structure of SARS-CoV-2 ORF8, a rapidly evolving immune evasion protein.118(2):e2021785118. Proc Natl Acad Sci U S A. 118 2 e2021785118
- pdb_00007sqk 2022 Sep 16 Molecular architecture of the augmin complex. Nat Commun. 13 1 5449 DOI:10.1038/s41467-022-33227-7
- pdb_000036cr, pdb_000036cq 2026 Aug 6 Generative design of bacteriophages with genome language models. Science 393 6811 eaec2657
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