320: ヒストンユビキチン化・脱ユビキチン化複合体(Histone Ubiquitination and Deubiquitination Complexes)
私たちの細胞では、ゲノムを構成する約2メートルのDNAがヒストン(histone)というタンパク質に巻き付いて、核の中に収まるようにしっかりと圧縮されている。ゲノムの基本単位はヌクレオソーム(nucleosome)で、これは4種類のヒストンでできたタンパク質コアにDNAが巻き付いたものである。ただし、ヒストンは単なる巻き取り装置ではない。ヒストンには、どの遺伝子を働かせるか、あるいはどの遺伝子を働かせないかに関わるさまざまな化学的マークが付けられている。この中でも特に重要なのが、ユビキチン(ubiquitin)と呼ばれる小さなタンパク質が共有結合することである。
ユビキチンによるヒストンへの標識
ユビキチンは、傷んだタンパク質や不要なタンパク質をプロテアソーム(proteasome)で分解するための目印としてよく知られている。しかし、ユビキチンが1つだけヒストンに結合した場合は、全く違う働きをする。モノユビキチンタグは、ヒストンを分解するための目印としてではなく、染色体の読み取り方を変える分子の信号として機能するのである。
ユビキチンをヒストン(またはその他のタンパク質)に付加するには、3つの酵素がE1活性化酵素・E2結合酵素・E3ユビキチンリガーゼの順で働く必要がある。最後にE3ユビキチンリガーゼは、ユビキチンを伴ったE2酵素を目的のタンパク質の正しいリジン残基に導く。ヒトゲノムには、さまざまなタンパク質基質に高度に特化したE3リガーゼが600種類以上存在すると推定されている。
ヒストンにはモノユビキチン化されるリジン残基がいくつもあるが、特に重要な部位が2つあることが分かっている。ヒストンH2Aのリジン119(H2AK119)のモノユビキチン化は、遺伝子サイレンシングの目印となる。このモノユビキチン化は、E3ユビキチンリガーゼであり、発生遺伝子の重要な調節因子であるポリコーム抑制複合体1(polycomb repressive complex 1、PRC1)が行う。PRC1がH2AK119を標識することにより、発生に関わる遺伝子のスイッチを「オフ」の状態に保ち、例えば肝細胞が誤って神経細胞でのみ必要なタンパク質を作り始めるのを防ぐことができる。 pdb_00004r8pから得られたPRC1ユビキチン化モジュール(図右)では、E3ユビキチンリガーゼとして協働する触媒RINGドメインペアであるRing1BとBmi1(黄色)がヌクレオソーム表面に固定され、E2酵素UbcH5c(オレンジ色)がH2AK119の真上に位置している。
もう一つの重要なモノユビキチン化の場所は、ヒストンH2Bのリジン120(H2BK120)である。このマークは逆の効果を持っていて、活発に転写されている遺伝子に見られ、転写機構がDNAにアクセスしやすくなる。この活性化マークを付けるE3リガーゼは、酵母ではBre1、ヒトではRNF20-RNF40と呼ばれ、右の図(pdb_00008iegおよびpdb_00008t3y、黄色)に示している。E2酵素であるRad6はオレンジ色で示す。PRC1と同様に、Bre1のRINGドメインはユビキチンをH2BK120部位のすぐ隣に正確に配置できるようにする。PRC1とBre1-Rad6はどちらも、ヌクレオソームのH2A/H2B表面にあって負に帯電している酸性パッチと相互作用する。これは、他の多くのクロマチン調節因子(chromatin regulator)が使う「着陸場所」となっている。
DUBによるユビキチンタグの消去
ユビキチン修飾を付けるのと同じくらい重要なのは、ユビキチン修飾を外すことである。発生の段階によってオンにする必要のある遺伝子は異なるが、ユビキチンを着脱できることにより、細胞は時々の必要に応じて遺伝子のオン・オフを切り替えることができる。ユビキチンを外す役割を持つタンパク質複合体は、脱ユビキチン化酵素(deubiquitinase、DUB)と呼ばれている。ヒストンDUBは、極めて高い選択性をもって作用し、単一のユビキチン分子を特定のヒストン上にある特定のリジン残基に結合させているイソペプチド結合のみを切断するプロテアーゼとなっている。
SAGA DUBモジュールは、H2BK120上に付いた活性転写マークを外す。SAGAは、数百の遺伝子活性化に関わる大きな共活性化因子複合体である。その中には4つのタンパク質でできたDUBサブ複合体(左図、pdb_00004zux)があって、これがH2Bからユビキチンを正確に除去する。ヌクレオソーム基質の認識は、SAGA DUB上のジンクフィンガー(zinc finger)とヌクレオソームの酸性パッチとの相互作用によって行われる。この働きにより、触媒サブユニットがH2BK120に結合したユビキチンの真上に配置される。
H2AK119からユビキチンを外すには、様々なDUB複合体が関わっている。そのうちの一つであるPR-DUB複合体は、触媒酵素BAP1とASXLファミリーの調節因子でできている。PR-DUBは、ユビキチンが不要なときにH2AK119から外すことで、間違った遺伝子サイレンシングを防ぐ。興味深いことに、BAP1とASXL1はどちらもヒトのがんでよく変異するタンパク質で、この複合体は医学研究で重要な研究対象となっている。 PR-DUBの構造(左図、pdb_00008h1t、pdb_00008svf)からは、ASXL1がH2Aの尾部をヌクレオソーム表面から引き離してユビキチンを切り離しやすくし、PR-DUBがH2AK119に結合したユビキチンだけを狙い、同じヌクレオソーム上の他のユビキチンマークを無視する仕組みになっていることが分かる。
構造をみる
対話的操作のできるページに切り替えるには図の下のボタンをクリックしてください。読み込みが始まらない時は図をクリックしてみてください。
ヒストンユビキチン化・脱ユビキチン化複合体がヌクレオソームとどのように相互作用するかを詳しく見てみて欲しい。
理解を深めるためのトピックス
- ユビキチンや、プロテアソームによるタンパク質分解においてユビキチンが果たす役割について、リンク先でより詳しい内容を読んでみよう。
- ヒストンの尾部に付加されるもう一つの一般的な修飾はアセチル基であり、これはDNAがヒストンにどれだけしっかりと巻き付くかに影響する。これらの修飾を除去する酵素であるヒストン脱アセチル化酵素について学んでみよう。
- ヒストンはかつて真核生物だけにあると考えられていたが、今では古細菌や細菌にも存在することが分かっている。これについて詳しくは生命の樹におけるヒストンを読んでみて欲しい。
参考文献
- pdb_00004r8p 2014 Oct 30 Crystal structure of the PRC1 ubiquitylation module bound to the nucleosome. Nature 514 7524 591-596
- pdb_00008ieg 2023 Sep 7 Mechanistic insights into nucleosomal H2B monoubiquitylation mediated by yeast Bre1-Rad6 and its human homolog RNF20/RNF40-hRAD6A. Mol Cell 83 17 3080-3094.e14
- pdb_00008t3y 2023 Nov Mechanism of histone H2B monoubiquitination by Bre1. Nat Struct Mol Biol. 30 11 1623-1627
- pdb_00008g6q, pdb_00008v25 2024 Sep 9 Ubiquitinated histone H2B as gatekeeper of the nucleosome acidic patch. Nucleic Acids Res. 52 16 9978-9995 DOI:10.1093/nar/gkae698 Erratum in: Nucleic Acids Res. 2024 Oct 14;52(18):11408.
- pdb_00008h1t 2023 Apr Basis of the H2AK119 specificity of the Polycomb repressive deubiquitinase. Nature 616 7955 176-182
- pdb_00008svf 2023 Aug 9 Structural basis of histone H2A lysine 119 deubiquitination by Polycomb repressive deubiquitinase BAP1/ASXL1. Sci Adv. 9 32 eadg9832
- pdb_00004zux 2016 Feb 12 Structural basis for histone H2B deubiquitination by the SAGA DUB module. Science. 351 6274 725-728
の生体高分子学習ポータルサイト