317: PROTACと分子接着剤分解剤(PROTACs and Molecular Glue Degraders)

著者: Janet Iwasa 翻訳: 工藤 高裕(PDBj)

セレブロンE3リガーゼ(青色)は、サリドマイド類似体であるポマリドミド(オレンジ色、スティックモデルでも示す)と転写因子イカロス(ピンク色)に結合する。この図は、pdb_00006h0fとpdb_00004a0kの構造を使って作成した。
セレブロンE3リガーゼ(青色)は、サリドマイド類似体であるポマリドミド(オレンジ色、棒モデルでも示す)と転写因子イカロス(ピンク色)に結合する。この図は、pdb_00006h0fpdb_00004a0kの構造を使って作成した。 高解像度TIFF画像はこちら

私たちの細胞内では、生命維持に必要な無数の機能を実行するためにタンパク質が絶えず合成されている。タンパク質が損傷したり、正しく折り畳まれなかったり、不要になったりすると、アミノ酸に分解されてリサイクルされる。タンパク質の分解は主にユビキチン・プロテアソーム系(ubiquitin-proteasome system)によって行われる。分解対象タンパク質にはユビキチン分子の鎖が共有結合で付加され、プロテアソーム(proteasome)がそれを認識する。そしてユビキチンのタグがついたタンパク質を短いペプチド断片に分解する。

タンパク質のユビキチン化は、複数の段階を経て行われる過程であり厳密に制御されている。まず、E1酵素がユビキチンを活性化し、E2酵素に渡す。次に、E3ユビキチンリガーゼが、ユビキチンを伴ったE2酵素と標的タンパク質を結合させ、標的タンパク質がユビキチン化されてプロテアソームによる分解の標的となる。この経路の発見は、2004年のノーベル化学賞の受賞対象となり、病気の原因となるタンパク質を選択的に分解することをねらった新しい治療法の開発につながった。

サリドマイド:先駆的な分子接着剤分解剤

この分野における最も重要な躍進の一つは、悲劇から始まった。1950年代後半から1960年代初頭にかけて、サリドマイド(thalidomide)という薬が妊婦のつわり治療薬として広く処方されていた。世界中で何千人もの子供たちが先天性欠損、特に四肢の発達異常を持って生まれた後になって初めて、サリドマイドはヒトに対する強力な催奇形性物質として認識された。その悪名にもかかわらず、サリドマイドは鎮静剤として限られた症例で処方され続け、研究者たちはサリドマイドとその誘導体がハンセン病(leprosy)や多発性骨髄腫(multiple myeloma)などの特定の疾患の治療に非常に効果的であることを発見した。しかし、サリドマイドの作用機序が解明されたのは2010年になってからだった。

サリドマイドは、E3ユビキチンリガーゼ複合体の一部であるセレブロン(cereblon)と呼ばれるタンパク質に結合することで作用する。通常の細胞では、セレブロンE3リガーゼ(CRBN)は、タンパク質の損傷や酵素作用によって生じるC末端環状イミド修飾(C-terminal cyclic imide modification)を持つタンパク質を標的とする。しかし、サリドマイドが結合すると、CRBNは方向転換し、ジンクフィンガー転写因子であるイカロス(Ikaros、IKZF1)やアイオロス(Aiolos、IKZF3)など、全く異なるタンパク質群をユビキチン化するようになる。これらの新たな標的を破壊することが、サリドマイドの催奇形性と治療に役立つという両方の作用をもたらす原因になっている。

サリドマイドとその類似体(レナリドミド lenalidomide やポマリドミド pomalidomide など)は、現在分子接着剤分解剤(molecular glue degrader)として知られている薬剤群の中で最初に見つかった化合物群である。一般的に、これらの薬剤はE3リガーゼの基質結合ドメインに強く結合することで作用し、通常の基質の結合を阻害すると同時に、新しい基質を認識できるような結合界面の変化をもたらす。右図では、セレブロンE3リガーゼ(青色)がサリドマイド類似体であるポマリドミド(オレンジ色)と転写因子イカロス(ピンク色)に結合している様子を示している(構造はpdb_00006h0fpdb_00004a0kのもの)。

小さな分子が細胞の分解システムを効果的に「再プログラム」できるという発見は、創薬に新たな展望を切り開いた。現在、20種類以上の分子接着剤分解剤が臨床試験段階にあり、そのうちいくつかは多発性骨髄腫やB細胞リンパ腫(B-cell lymphoma)などのがん治療薬として第III相臨床試験に進んでいる。

PROTACs:タンパク質分解のためのモジュール式アプローチ

PROTAC MZ1(黄色で示す部分、棒モデルでも表示)は、標的タンパク質BRD4(ピンク)とフォン・ヒッペル・リンドウE3リガーゼ(青色)を結合させる。この図は、pdb_00005t35とpdb_00005n4wの構造を使って作成した。
PROTAC MZ1(黄色で示す部分、棒モデルでも表示)は、標的タンパク質BRD4(ピンク)とフォン・ヒッペル・リンドウE3リガーゼ(青色)を結合させる。この図は、pdb_00005t35pdb_00005n4wの構造を使って作成した。 高解像度TIFF画像はこちら

分子接着剤分解剤は効果的な薬剤となり得るが、これらの小分子を特定のタンパク質を標的とするよう合理的に設計することは困難であることが分かっている。2001年に初めて提案されたPROTAC(PROteolysis TArgeting Chimerasの略)は、はるかに設計しやすい方法を使っている。PROTACは2つの頭部を持つ分子として作られ、一方の端は標的タンパク質と特異的に結合し、もう一方の端はE3ユビキチンリガーゼに結合する。そして短いリンカーが両者を繋いでいる。標的タンパク質をE3リガーゼに繋ぐことで、PROTACはユビキチン化とその後の分解を誘導することができる。

PROTACの初期バージョンはタンパク質をベースとして設計されており、短いペプチド配列を使ってE3リガーゼと標的タンパク質の両方を寄せ集めていた。現在、PROTACは主に化学リンカーで連結された低分子リガンドを使って設計されている。たとえば、PROTAC MZ1(左図において黄色で示す)は、一部のがんや免疫介在性疾患に関与する転写調節因子であるBRD4(ピンク色で示す)と、フォン・ヒッペル・リンドウE3リガーゼ(Von Hippel-Lindau E3 ligase、青色で示す部分、構造はpdb_00005t35およびpdb_00005n4wのもの)の両方を標的としている。

「プラグアンドプレイ」の設計により、PROTACは幅広い治療標的への高い適応性を持つことができている。現在、世界中で50種類以上のPROTACが臨床試験段階にあり、その中には乳がんや前立腺がんを対象とした第III相試験段階のものも複数含まれている。

構造をみる

分子接着剤分解剤はE3リガーゼの立体構造を変化させ得る

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セラブロンE3ユビキチンリガーゼは、開いた状態(pdb_00008cvp)、そして基質結合や分解に必要となる閉じた状態など、様々な立体配置をとることができる。最近の研究では、分子接着剤分解剤が閉じた配置(pdb_00008d7u)を安定化させ、より強力な分解剤(例えば、サリドマイド誘導体であるメジグドミド mezigdomide)は閉じた状態をより効果的に安定化させることが示されている。その結果、標的タンパク質であるイカロス(pdb_00008d7z)のユビキチン化と分解が促進され、治療効果が向上する。

理解を深めるためのトピックス

  1. ユビキチンとユビキチン化機構プロテアソームについて読んでみよう。
  2. 植物の発育において重要な役割を果たす、天然由来の分子接着剤分解剤であるオーキシン(auxin)について学んでみよう。
  3. 低酸素誘導因子α(Hypoxia-inducible factor α、HIF-α)は、ユビキチン・プロテアソーム経路によって急速に分解される転写因子の一例である。

参考文献

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  3. pdb_00004a0k Fischer ES, Scrima A, Böhm K, Matsumoto S, Lingaraju GM, Faty M, Yasuda T, Cavadini S, Wakasugi M, Hanaoka F, Iwai S, Gut H, Sugasawa K, Thomä NH. 2011 Nov 23 The molecular basis of CRL4DDB2/CSA ubiquitin ligase architecture, targeting, and activation. Cell 147 5 1024-1039
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この記事はRCSB PDBPDB-101で提供されている「Molecule of the Month」の2026年5月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧ください。

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